【特集】復配の裏に何があるのか──問われる城山観光の経営実態と支配構造(後)

城山観光(株)

 「株主が期待していない配当をなぜ強行するのか」。城山ホテル鹿児島を運営する城山観光(株)が5期ぶりの復配に踏み切ったことに、地元経済人や一部株主から疑念の声が挙がっている。6期連続の本業赤字に加え、財務制限条項に違反した状態での配当決定。しかも、その原資は祖業ともいえる子会社・(株)モリナガの売却益だ。優良子会社を、株主への事前説明もないまま売却し、「配当」というかたちで還元する。売却益の正当化、ひいてはその妥当性への批判を封じ込めるような効用さえ帯びてくる。売却は企業価値向上のための決断だったのか―。

祖業を切り離した代償と消された説明責任

 今回の復配の原資となったモリナガの売却は、単なる事業の切り出しではなく、城山観光の経営判断の本質に迫る問題を孕んでいる。モリナガは、かつて本体の主要事業であったパチンコ事業を私的整理を経て08年に分社化し誕生したものだ。祖業であると同時に城山観光への収益貢献を担ってきた存在である。売却直前の売上は133億円、経常利益は2億4,000万円。親会社である城山観光には年間約1億5,000万円の不動産賃料と配当金はかつてより減少したが、それでも5,000万円を支払っている。その孝行息子を株主への事前説明もないまま、28億円で唐突に売却したことになる。

 城山観光は売却理由についてパチンコ業界の動向やモリナガの企業体力、従業員の雇用維持を挙げた。これに対して株主の小正氏は事前質問状で、具体性に欠ける「パチンコ業界の動向」の中身について質問。重ねてモリナガ譲渡額の算定方法なども問いただしている。株主総会で城山観光は「パチンコ業界の動向」について、モリナガの過去の損益実績や現預金残高の少なさなどを挙げたとされる。そのため、モリナガが満足な設備投資ができる状態にないと判断したと説明したという。

 また、モリナガの企業価値算定方法については時価純資産方式を採用したことを示し、その妥当な金額であることを強調したという。これに対し小正氏は「城山観光は資産の大幅減少により実質債務超過に陥っているのではないか」と懸念する。

 株式売却を機にモリナガを退職した元役員も売却を「城山観光にとって誤った判断」と糾弾する。「パチンコ業界の環境が厳しくなってきたのは事実だが、不動産資産を保有し続けておけばあらゆる可能性があった。いずれの店舗も立地条件が良い。小型店は業態変更して賃貸する方法もある」。実際に大手飲食チェーンやカプセルホテルなどの導入を検討したという。

 28億円の譲渡金額についても「ブランド力を考えるとのれん代が安すぎる」と指摘。「少なくとも買い手を1社に限定せず、コンペ形式にすればこんな金額にならなかった」と悔いる。パチンコ店の譲渡代金についてM&A業界関係者は「パチンコ店に限らず企業評価にはあらゆる方法がある。最終的には双方が合意した金額が市場価値」と指摘する。実際にデータ・マックスの取材に対し「1店舗で20億円出して購入したい店舗があった」と指摘する企業が存在している。城山観光がそうした状況を知らなかったとは考えにくく不可解さが残る売却と代金設定となっている。

 すでに今年6月1日をもって中山店と鹿児島駅店の2店舗は閉鎖され、8店舗での営業となっている。買収後半年を経ないタイミングでの決断だけに、地元経済人は「閉店は買収前からの規定路線だったのでは」と訝る。両店とも規模は小さいが先述の通り好立地。城山観光グループによる継続保有ではあらゆる可能性があったが、譲受企業が跡地をどうするかは現状明らかにされていない。「退社した自分はいいが、残った社員が心配。城山ブランドから外れモリナガがどうなっていくのか」元役員は城山グループとしてプライドをもっていたモリナガ従業員の将来を案じている。

好条件の株主提案を否決
千載一遇の浮上機会一蹴の理由は

 小正醸造は、モリナガ売却前に外資系ファンドを活用した株主提案を行っていたことが判明した。客室や宴会場などの改装に約50億円。モリナガの既存店舗立地への姉妹ホテルの建築。世界的なホテルグループとの提携、当時の城山観光197億円、モリナガの21億円、総額218億円の借入金の全額返済などの好条件を提示していた。

 データ・マックスの取材に対し小正氏は、株主提案を行った理由について「現状の借入金のままでは立ち行かない」と語り、さらに「ファンドの提案は資産を切り売りするようなものではなく、借入金全額返済したうえで、企業価値を上げる投資をするという建設的なもの」と説明する。

 提案では、城山観光がモリナガの不動産資産を所有したままで、それを包括して活用する内容だった。しかし、城山観光側は提案を拒否しモリナガの売却を選択。いまだ168億円の借入金が残る。株主提案拒否の決定は株主に諮られず取締役会で決められた。株主には報告というかたちがとられた。

 株主総会で語られた決断理由は、設備投資や有名チェーンとの提携はすでに実施済・協議中であることや、「金融機関からの資金調達に問題がない」というものだった。モリナガ売却によって実質債務超過に転落した可能性があることを懸念する小正氏には到底納得できる説明ではない。

城山観光(株)、借入金の内訳

「意思決定」は誰の手にあったのか

 優良子会社売却や株主提案の一蹴など株主や財界人、モリナガ元役員らが口をそろえる「不可解な決断」について、彼らは「実質経営の主体は城山観光でない」と指摘する。「実質管理しているのは鹿児島銀行」とみているのだ。

 06年の私的整理を機に同社のメイン行は三菱信託銀行から鹿児島銀行に移った。15年以降の城山観光の前社長は2人続けて鹿児島銀行出身。そして現在、代表・監査役含め3名の役員が鹿児島銀行の出身だ。こうしたなかで、鹿児島銀行はデータ・マックスの「城山観光の意思決定に関与しているか」との質問に対し、「個別の案件には答えられない」として具体的な回答を避けている。

 モリナガも売却前の24年3月時点で12名の役員のうち5名が鹿児島銀行の出身者で占められていた。モリナガ元役員は会議の席でモリナガの資産売却に異を唱えたところ城山観光の代表を兼任していたモリナガ会長から「株主でありメイン行でもある銀行の意向だ。口をはさむな」と叱責されたことを振り返っている。

 こうなってくると25年3月期に計上されたモリナガ売却にともなう1億3,600万円の手数料の行先も注目される。株主総会では具体名が明かされなかったことも疑念を募らせる要因となっている。

城山観光(株)、役員構成

失った収益源 再構築への厳しい道

 城山観光は26年3月期の業績目標として、売上高93億円(内部取引含む)、経常利益1億9,700万円の黒字化を掲げている。だが、その達成には確たる根拠が見当たらない。前期の増収も法人宴会や一部宿泊需要の一過性に支えられたもので、レストランやショップなどの施設収益は減収に転じた。しかも、最大の収益源だったモリナガを失い、年間2億円以上の安定収入も断たれたなかで、今後の収益構造がどう再構築されるのか、その戦略の輪郭は決め手を欠く。

 今回の経営判断では、資産売却と復配という“結果”だけが先行し、過程の説明責任や将来ビジョンの提示は置き去りにされた感が否めない。それでも、株主や財界関係者の一部には「モリナガ売却で企業価値は大きく棄損されたが、まだ立て直す可能性はある」との希望をつなぐ声が残る。

 再生のカギは、企業価値向上に向けた自助努力と、城山ホテル鹿児島の未来に責任をもつ役員、株主、金融機関を含むステークホルダーの決断にある。城山ホテルは自他ともに認める鹿児島の観光の顔であり、地域にとってかけがえのない資産だ。小正氏は「鹿児島のためにも、城山ホテルのためにも、銀行の一般行員のためにも、正義を通すべき」と指摘する。その言葉に込められたのは、特定の利益ではなく、地域の未来を見据えた経営の回復への願いだ。

(了)

【鹿島譲二】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:矢野隆一
所在地:鹿児島市新照院町41-1
設 立:1968年4月
資本金:3,000万円
売上高:(25/3)85億2,270万円

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