123便事件真相解明妨害圧力

政治経済学者 植草一秀

 1985年8月12日18時56分、群馬県上野村高天原山尾根付近にJAL123便が墜落した。乗員乗客524名のうち、520名が犠牲になった。520名のなかに懐妊した女性が1人おり、胎児も含めれば犠牲者は521人。4名の乗員乗客が救出された。

 まもなく40年の月日が流れる。この事故で最愛の夫を亡くされた吉備素子さんは123便墜落の真相を究明しようと、いまも活動を続けられている。123便のボイスレコーダー、フライトレコーダーが完全に開示されれば真相究明に大きく近づく。このことから、吉備さんは訴訟を提起した。しかし、裁判所は請求を棄却した。

 日本の裁判所は〈法の番人〉ではない。日本の裁判所は〈権力の番人〉である。だから、政治的背景を持つ冤罪事件で無実の罪を背負わされた人間を救済しない。危険な原発の運転を容認する。

 123便事件でも裁判所は吉備さんの正当な請求を退けた。123便の犠牲者遺族はボーイング社との和解に応じた。この和解の最終段階でJALが被告に加わり、和解の当事者になった。この和解条項のなかに事件についてのJAL等に対する申し立てを今後行わないとする条項が盛り込まれていた。

 犠牲者遺族の多くは何らかの補償が迅速に行われることを求めていた。この事情を汲んで犠牲者遺族が和解に応じることとした。しかし、真相を究明しなければならないとの思いは当時もいまも変わらない。真相解明の権利を放棄したなどとは微塵も考えていない。

 最愛の人を失った犠牲者遺族が事故・事件の真相を知ろうとするのは当然のこと。また、JALにも公共交通機関の運営企業として巨大事故・事件に関して犠牲者遺族に対して真実を知らせる社会的責任がある。

 フライトレコーダー、ボイスレコーダーの情報を完全に開示すれば真相解明に近づく可能性は極めて高い。その全面開示を拒絶する理由は存在しない。逆に言えば、情報開示を頑なに拒み、国家がその開示阻止に加担する構図のなかに真実が浮かび上がる。

 この情報のなかに核心に触れるものが存在しないのなら、情報開示を拒む理由がない。逆に世間に存在する巨大な疑惑に対して明確な回答を示すことができる。それを拒むことが、このなかに事故・事件の真相を明らかにする重大な情報が含まれるとの推察に強い根拠を与えている。

 その123便墜落に関して、2013年に決定的とも言える重大な新証拠が公表された。運輸省航空事故調査員会による「62-2-JA8119(航空事故調査報告書付録)(JA8119に関する試験研究資料)」https://bit.ly/3KAt8Kr

 どのような背景があって新資料が公表されたのかは分からない。真実を隠蔽する意思が強固であれば、決して開示されることのなかったはずの資料。内容を精査せずに誤って公表してしまったものなのか。あるいは当局のなかに良心を持つ人物が存在して、真相の一端を世に開示する意思を持って開示したのか。

 この資料のなかに、事故・事件の真相を浮かび上がらせる重大事実が示された。〈異常外力着力〉である。123便に外から異常に巨大な力が加わったことが明らかにされた。上記資料116頁に「異常外力の着力点」が図示された。また、101頁に「18時24分35.64秒ごろに前向きに、また、36.16秒ないし36.28秒ごろに下向きに、それぞれ異なる異常な外力が作用したことが確からしく考えられる。」と明記された。ここに記された二つの時刻が重大な意味を持つ。

 政府の事故調査委員会はボイスレコーダー記録の一部を文字起こしして公開している。123便に異変が生じてから墜落するまでのすべてのボイスレコーダー音声情報をすべて開示すればよいはずだが、一部しか開示されていない。しかし、開示されている部分にも重要事実が多く含まれている。

 ボイスレコーダー書き起こし記録に「ドーンというような音」が記述されている時刻が18時24分35秒と36秒。2013年に新たに公開された「航空事故調査報告書付録」に示された〈異常外力着力〉の時刻とピタリと一致する。
この「ドーンというような音」が生じた1秒後に123便の高濱機長が「まずい」と声を発し、「なんか爆発したぞ」と言った。そして、24分42秒に「スコーク77」が宣言された。

 「スコーク77」は正式には〈7700〉。航空機に緊急事態が発生した時に管制に発信する最高度の国際救難信号。高濱機長は爆発音を聞いた瞬間に何が生じたのかを認知した可能性がある。さまざまな調査から浮上している疑いは、自衛隊の演習による標的機あるいはミサイルが123便を誤射してしまったというもの。

 政府事故調は123便の圧力隔壁が金属疲労を起こしており、これが破損して垂直尾翼が失われたとしたが、この〈仮説〉を根底から覆したのが2013年9月に公表された〈異常外力着力〉。そして、スコーク77が発せられた直後に「オレンジエア」という言葉が機関士から発せられた。事故調のボイスレコーダー書き起こしでは「オールエンジン」と記述されているが、公開されている音声を確認する限り、「オールエンジン」と聞き取ることは困難である。

 公開されているボイスレコーダー音声を確認いただきたい。https://www.youtube.com/watch?v=hyB_MXmMkRE(現在は視聴することが出来ない)
誰がどう聞いても音声は「オレンジエア」である。私は音声が「オレンジエア」であると指摘した。

 きっかけは2000年11月9日放送のフジテレビ番組「ザ・ノンフィクション『15年目の検証』」。いまはネット上から削除されている。番組はこの「オールエンジン」の記述が何を意味するのかを探求して米国の音声解析専門機関まで訪問している。その結論として「ボディギア」だとした。

 私は生の音声に当たる必要があると感じてネットを検索。音声が公開されており、確認したところ「オレンジエア」としか聞き取れないことを確認した。自衛隊の演習用ミサイルや標的機はオレンジ色に塗られている。また、123便犠牲者が機内で撮影した写真に123便に向かって飛翔する物体が写り込んでいた。それを解析したところ、オレンジ色の円錐状の物体であるとの結果が得られたとの情報も報じられた。

 このことから、8月12日に相模湾で演習していた自衛隊が123便に標的機あるいはミサイルを誤射してしまったとの〈仮説〉が提示されてきた。このことに関して、疑惑が指摘されている自衛隊護衛艦「まつゆき」は8月12日に相模湾を航行していなかったとの証言が示された。自衛隊員が証言したもので証拠がないから決定的と言えないが、問題の本質は「まつゆき」という名称にあるのではない。

 海上自衛隊が1985年8月5日から14日にかけて横須賀などを通じる海域で米軍と共同演習を行っている事実をブログ記事に記述された方がいる。
https://note.com/ohlly6915/n/n18602494a754

 海上自衛隊の護衛艦「しらね」、「むらくも」、米艦船「ブルーリッジ」が自衛隊と米軍の共同演習に組み込まれていた。123便墜落に関与したのが「まつゆき」ではなく「しらね」、「むらくも」、「ブルーリッジ」であった可能性は否定されない。敗戦後日本の最重大事件のひとつが123便墜落。犠牲者遺族のためにも真相解明を図る必要がある。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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