東京・豊洲開発のラストピース

 東京の湾岸エリアとして人気がある豊洲。(株)IHI(東証プライム)と三菱地所(株)(同)の両社が開発を手がけた「豊洲セイルパークビル」が完成し、7月24日の商業施設オープンにより、まちびらきとなった。1853年に石川島造船所として創業されたIHIが取り組む「豊洲2・3丁目再開発事業」のラストピースとの位置付け。オフィスのほか、併設するシェア企業寮と生活分野のスタートアップが集うインキュベーション施設が連携し、「豊洲から豊かなライフスタイルを創出・発信する」(鯉渕祐子・三菱地所執行役員都市開発部長)という特徴がある。

「職・住・遊・学」のまちに

7月24日にまちびらきした「豊洲セイルパーク」
7月24日にまちびらきした「豊洲セイルパーク」

 豊洲エリアは、1990年代にはまだ造船所があったが、2002年に「豊洲2・3丁目地区開発協議会(現・まちづくり協議会)」が発足。06年にはゆりかもめ豊洲駅の開業や「豊洲IHIビル」の完成をもって、本格的なまちづくりがスタートした。同年には、芝浦工業大学豊洲キャンパスの開校や商業施設「アーバンドッグ ららぽーと豊洲」が開業した。

 豊洲エリアでは、オフィスや住宅地、商業施設、遊びやレクリエーション施設、大学などといった「職・住・遊・学」が融合するまちづくりが進められてきた。「豊洲セイルパーク」街区は、約20年にわたる「豊洲2・3丁目再開発」の最後の大規模再開発となる。今後の再開発については「今のところ計画はない」(植田満・IHI都市開発部長)としている。

 「豊洲2・3丁目再開発」を含む豊洲1~3丁目地区は、地区面積約60ha、就業人口3万3,000人、居住人口約2万2,000人を計画。東京都は01年に「豊洲1~3丁目まちづくり方針」を掲げ、都心に直結した立地、少数地権者による大型都市開発、産業の歴史を伝える開発といった個性を生かした開発を行ってきた。「豊洲2・3丁目再開発」におけるIHIと三菱地所による事業は、10年竣工の「豊洲フロント」、14年竣工の「豊洲フォレシア」に続き、今回の「豊洲セイルパーク」が3件目のプロジェクトとなる。両社は、これらのプロジェクトにより、貸付有効面積で延べ6万3,000坪のオフィス供給を担っている。

入居者も開発に参加

 「豊洲セイルパーク」は、「きんでん豊洲ビル」(A棟、地上18階・地下1階建、延床面積約4万7,000m2、25年9月竣工予定)と「豊洲セイルパークビル」(B棟、地上15階・地下1階建、延床面積約8万9,000m2、25年6月竣工)で街区を構成。「豊洲セイルパークビル」は、4~15階にオフィス、2階にインキュベーション施設、1~2階に商業施設を配置し、9階部分に屋上菜園を備えた全39戸のシェア企業寮を設けた。

 最大の特徴としては、シェア企業寮「TAMESU」とインキュベーション施設「LIFESTYLE LAB "TOYONOMA"」の連携だ。「TOYONOMA」に入居するスタートアップが、地域住民やオフィスワーカーへのテストマーケティングを実施して生まれた製品・サービスを、「TAMESU」の入居者が日常的にフィードバックすることで開発に参加。ユーザー目線の新たな製品・サービスを生み出していくという。

 シェア企業寮「TAMESU」は、1R(25.1m2)が36室、3階に1LDK(50.3m2)が3室の構成で、すべてベッドや冷蔵庫、家具・家電付き。入居開始は8月1日からで数社の入居が決まっている。共有キッチンを備えたラウンジでは人的ネットワーク形成が行えるほか、9階のルーフトップには菜園を設け、収穫祭など入居者の交流を図るイベントを計画している。

 9月1日に開業するインキュベーション施設「LIFESTYLE LAB "TOYONOMA"」は、コクヨ(株)が運営している。会員制の個室や固定席のほか、地域住民や学生、「TAMESU」入居者なども時間単位で利用できる約500m2のワークスペースや、配信可能なスタジオ、商品・サービスを展示するギャラリー、プロ仕様のキッチンなどを設置。飲食のテストマーケティングも可能で、ライフスタイルを軸にしたスタートアップや大企業のサテライトオフィスなどの入居を見込んでいる。

飲食店舗営業許可済みの本格キッチンを備えた「SHOKU NOMA」
飲食店舗営業許可済みの本格キッチンを備えた
「SHOKU NOMA」

オフィス入居率7割に

 オフィスは基準階面積で約4,215m2(1,275坪)、働き方に合わせた多様なレイアウト構成が可能となっている。レインボーブリッジを臨む高層フロア(9~15階)には、テナント専用の外部テラスを設置。また、環境負荷を低減させる取り組みにより「ZEB Oriented」(事務所)を取得済みで、非常時に電力供給が停止した際にも72時間電力を供給する非常用発電機を設置した。オフィスの入居率は街区全体で7割、「豊洲セイルパークビル」で約5割となっている(7月22日時点)。三菱地所は東京のオフィス市場が堅調であり、豊洲エリアもその流れのなかにあると判断。複数の引き合いもあることから、いずれ満床になると見ている。

 商業施設は、飲食店やスーパー、クリニックなどの生活利便施設など21店舗が出店する。また、9月からは家庭用料理のテイクアウトステーションの設置に加え、ペットを連れている人が多い豊洲エリアの特徴から、外構部でのペット用の洗い場や排泄物ボックスを設置し、オフィスワーカーのみならず近隣住民の利用にも配慮した。広場でイベントを定期的に開催することで、賑わいを創出する。

地域住民やワーカーが利用しやすい飲食店を中心とした商業エリア
地域住民やワーカーが利用しやすい
飲食店を中心とした商業エリア

<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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