福島自然環境研究室 千葉茂樹
9月6日夜に、某通販大手グループが販売する政府備蓄米を炊いてみました。結果は最高ではありませんが、良好でした。実は6月にこの政府備蓄米を購入していましたが、直前に親戚から精米されたコメ10kgが送られてきたため、そちらを優先して食べていました。それで、備蓄米に手を付けるのが遅くなりました。
某通販大手グループの備蓄米が優れている点
5kgのコメ袋のなかに「脱酸素剤」が2袋も入っています。白米は精米直後からどんどん酸化してまずくなります。この点、備蓄米は密閉したコメ袋のなかに脱酸素剤が入っているのでコメの酸化を防いでくれます。なお、備蓄米は宮城県で精米されており、宮城米と推定されます。
備蓄米を食べた感想
袋から出した状態で備蓄米を観察しました。コメ粒は通常と同じ大きさ。コメの色は白く、通常の販売米と変わりません。
次に備蓄米2合を研ぎました。コメの粉(ヌカ)は白く、問題ありませんでした。この「ヌカ」は酸素のある状態で放置すると黄土色になっていきます。その点、備蓄米は脱酸素剤が効いていると感じました。研ぎ汁は白いものが良く出ます。この点は「無洗米」とは異なります。私は水を3度交換しました。
コメに水を吸わせた時間は、約1時間でした。この後、電気炊飯器で炊きました。水の量は炊飯器の目盛りで2。2合にしました。古いコメなので水を多めにしました。
約45分で炊きあがりました。10分間蒸らした後に蓋を取り、炊きあがったご飯をよく混ぜて皿に移しました。写真では、ちょっと黒く見える部分がありますが、実際には透明感がある部分です。
香りは問題ありません。注意深く嗅ぐと古いかなと感じる程度です。通常のコメでも3時間程度保温すると同じような香りになります。
炊き上がったご飯は粘りがあり、おそらく銘柄は「ひとめぼれ」と思います。おいしくいただきました。炊きあがった後にすぐ食べないで炊飯器で保温をしている方なら、通常のコメと変わりありません。コメにこだわりのある方――「ブランド選択」「よく研ぐ」「水に浸す時間の管理」「炊きあがったら蒸らしてすぐ食べる。残りはタッパーに移して冷蔵」などを徹底している方なら違いはわかると思います。
コメの生産に一言
同じ銘柄でも、生産方法によって味は大きく異なります。具体的にいうなら同一地方でも生産者によって味が異なります。実は、親戚から送られたコメ(上記)はおいしくありませんでした。今日炊いた備蓄米のほうがはるかにおいしかったです。親戚から送られたコメは2024年産の宮城米でした。状態から見て、生産方法が悪く(親戚は農家に生産を委託)、かつ保存方法も悪かったと推定されます。炊いたときに、古臭い匂いがしました。
良い米を生産するには、その年の気象条件のほか、水の質、田んぼの耕し方、有機肥料の使用、天日干しかどうかが重要です。新潟の魚沼産のコメがうまいのは水が良いからです。雪解け水でつくるコメは最高です。また、田んぼを深く耕し、有機肥料(あえていえば馬や牛の排泄物)を入れれば、微生物の発酵で気泡が発生し、土がふかふかになります。それから、最近は稲刈りをコンバインで行い急速乾燥させます。もっとうまいのは天日干しのコメです。稲穂から徐々に水が抜けます。この過程でコメのデンプンに変化が起きると考えられます。
数年前、猪苗代の農家からコメを買って食べました。実にまずかったです。米粒は小さく、味・香りがしない米でした。先日、その米を生産した田んぼを見てきました。ほとんど手入れがされておらず、雑草だらけで、稲と一緒に大量のヒエが生えていました。これではまずいはずです。
保管方法
私のコメの保管方法です。今年の夏も猛暑で、山間高冷地の猪苗代でも連日30℃以上、ひどいときは35℃の日もありました(エアコンがないので室内は38℃)。こんな日に、家のなかにコメを置くと、高温で劣化(まずくなる)します。昔の農家は斜面に掘った横穴「室(ムロ)」を利用し、地中保存していました。地中は温度変化が少ないためです。
私は借家住まいですが、床下収納ボックスを外して、その奥のスペースに保管しています。ボックスの下が「土そのもの」でした。ここに土から水を吸わないように工夫して、コメやワインなどを保管しています。今日、備蓄米を取り出しましたが、冷蔵庫の野菜室程度に冷えていました。これは地面が熱を奪い、毛細管現象で吸い上げられた水が蒸発する際に気化熱を奪うためです。水対策をきちんとしなければなりませんが(段ボールなどは、そのままではグチャグチャになる)、保管には最高です。当然、保管物を床下に入れたら床下収納は元に戻します。
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。