雷山──井原山 縦走開始
一息ついて、井原山への縦走を開始した。筆者は小型動画撮影カメラ「ゴープロ」で草原歩きから撮影を続けていた。
1脚を3m伸ばし、カメラを下向きに角度をつけた。モニターがないのでレンズの角度は勘である。仲間の歩く姿を頭上からドローン風に撮影を試みた。

左右がミヤコザサ覆われたコースを進む。先を行く仲間たちが、また立ちどまった。「何だろう?」と近づいてみると、つる植物のツルニンジンである。
筒状になった花で、花の色は地味であるが珍しい。ツルニンジンはミヤコザサに包まれ、たくさんの蕾をつけていた。「すごい!」筆者は思わず声を出し、動画カメラを向けた。

この日は平日で、すれ違う登山者はなく、静かな縦走路であった。アップダウンの縦走路が続く。霧に覆われて先が見えにくい。暑さも感じないので比較的楽に歩けた。
霧のなかにブナ林がみえてきた、幹が美しい。幹まわりも50㎝程度なので若いブナ林である。霧のなかにたたずむブナ林は幻想的な光景を醸し出してくれていた。

雷山〜井原山の中間地点で分水嶺の標識がある場所で休憩した。ワンゲルの後輩Hがシャインマスカットを振る舞ってくれた。彼もまた果物をいつも持参してくる。夏場のシャインマスカットは水分補給になる。
ここの標識の上にHマークが付けられていた。周辺は笹も刈られてヘリポートとなっている。
この場所の福岡県直下に洗谷の沢コースがある。ここで数年前、単独死亡事故が起こった。それも山の本の編集長で、濡れた岩で足を滑らせ頭を打ち、顔を下向きにして倒れ、水たまりでおぼれ死んだのである。
昨年、今回参加した女性2名と後輩Oと歩いたとき、事故現場で花を手向けてきた。事故以来、行政は入山禁止にしてしまった。脊振山系で最も美しい谷歩きコースで、筆者は50代に何度も撮影にきていた渓谷である。しかしながら、行政はくさいものにふたをした。かつ、事故に備えてヘリポートもつくったのである。また分水嶺という表示もあるが、水は流れていない。登山は自己責任で、山岳保険加入も必然である。
先頭を行く男性のWとHは黙々と歩き、女性たちは喋りながら歩いていた。一般的に女性たちは山でもよくしゃべる。
最後尾の筆者は彼女たちの話し声を聞き、後ろ姿を見ながら縦走路を歩いた。
縦走路をさらに30分進み、やっと糸島市からの登山ルートにある「アンの滝」の分岐に差しかかった。
ここから井原山(982m)まで10分である。縦走の最終地点、井原山に着いた。先に着いた仲間たちが霧のなかにぼんやり見える。
井原山山頂の標識が懐かしい。脊振山系のなかで糸島市のルートに「伊都遊歩道クラブ」が標識を設置している。脊振の自然を愛する会は早良区エリアに同時期に標識を設置している。伊都遊歩道クラブに刺激を受け、同時期に早良区役所と道標を5年がかりで設置したのである。
糸島市エリアに200本、早良区エリアに70本 脊振山から十坊山まで約50㎞に270本もの道標設置を行ったのである。井原山山頂の標識は親戚同然である。
霧のなかに浮かぶ標識は元気であった。木材の痛みもなかった。縦走途中、小雨にあったので雨具をつけた。そんななか、筆者は動画撮影を続けた。岩場の下にしゃがみ込んで撮影している女性H。なんだろうと動画カメラを近づける。1株の黄色いアキノキリンソウだった。山頂でのんびりして霧のなかの雰囲気を味わった。
下山開始
15分休んで、佐賀県方面の古場岳登山口へ下山を開始した。ゆっくりと歩いたので、時刻は午後2時近くになっていた。帰宅時間は午後3時30分ごろになると家内にメモを残してきた。時間が気になる。
この古場岳の下山ルートは10年前に歩いていた。井原山への登山は福岡県側より、標高が高い古場岳登山口を利用したほうが1時間短縮できる。
途中、高圧線の鉄塔が立っていた記憶がある。この鉄塔の下に近づくと作業林道があった。この周辺で女性たちが何やら取っている。山芋のムカゴである。竹に絡まり山芋のつるにたわわにぶら下がっていた。仲間は、それぞれ手のひらいっぱいにムカゴを収穫した。
フライパンで炒るか、電子レンジで加熱して塩をまぶし調理するのが一番簡単で、ビールのつまみに最高である。筆者のズボンのポケットはムカゴでいっぱいになった。
さらに下山道を進むと小さな沢がみえてきた。女性のSが賑やかに声を出し、スマホで撮影していた。会いたかったアケボノソウだ。
仲間たちはそれぞれアケボノソウを囲んでスマホで撮影を始め、「にわか撮影会」になっていた。樹木で囲まれた登山道に1株だけの純白のアケボノソウの花が美しく輝いていた。
下り道の別荘地帯に入る。バブルのころ、別荘ブームに沸いた一帯である。その別荘地帯は廃墟同然のたたずまいとなっていた。プロパンガス用の垂れ下がったホース、朽ちた木製の階段などを目にした。
別荘沿いの湿ったアスファルト道に栗の実がたくさん落ちていた。落ちたばかりで中身は新鮮のようだ。今度は栗拾いになった。それぞれ栗のイガを足で踏み、中身の栗を出す。手のひらいっぱいになった。
「今夜はムカゴと栗のご馳走だな」と話す仲間たち。
下山を終え、デポしていた軽自動車2台で雷山の登山口へ向かった。後輩の車に乗るとガラスは私の汗で曇ってしまった。
それぞれの車に戻り、糸島市と佐賀市へ続く長野峠から白糸の滝方面へ県道を下って自宅へ向かった。時刻は午後4時を過ぎていた。しばらく車を走らせ携帯電話が使える場所から「今から帰ります」と家内へ連絡した。
怪我をした女性Hも自信を取り戻し、距離を伸ばして山を歩きたいと連絡があった。のんびりだったが、6時間の山歩きを克服できた。仲間に感謝の山歩きでもあった。

動画編集
高い位置から試みたドローン風の撮影はうまくいっていた。1週間後、編集し、YouTubeに限定公開でアップした。そして仲間たちにURLを知らせた。一緒に登った仲間たちから「良い記念になりました」と連絡があった。高い位置からの縦走の姿を撮影したドローン風の動画は好評であった。
また、動画を見た「ぶらぶらあぶらクラブ」の母親Tは昨年、小学校6年生の子ども(男)と同じコースを歩いたときのことを思い出し涙したそうだ。
良い仲間に恵まれている。
(了)
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行