国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
去る9月3日、北京で行われた大規模な軍事パレードを見ても、ロシアや北朝鮮を従え、アメリカに対抗する中国の「軍事強国化」の狙いがひしひしと感じられたものです。そんな中、欧米からは中国脅威論が頻繁に聞かれ、「2027年には台湾侵攻があり得る」といった分析も絶えません。
そうした影響もあり、日本の国会においても「台湾有事」についての議論が盛んになってきました。高市首相による「存立危機事態」に関する、「軍艦」発言に中国政府は金杉駐中国大使を呼び出し、厳重な抗議を行う事態に発展しています。高市首相に限らず、参政党の神谷代表らも盛んに「台湾有事は日本有事」といった主張を展開しているではありませんか。
そのため、日本自身の防衛力を向上し、危機に備え、最悪の事態を抑止するため、防衛費のGDPの2%という目標値では足らないので、3%から5%にまで高めるべきとの議論も出てきました。もちろん、その背景にはトランプ政権からの対日防衛予算拡大要請があることは論を待ちません。
まさに「力には力で」という発想ですが、どこまで功を奏することになるのでしょうか。しかし、今、必要なことは台湾に関する状況を冷静に判断し、中国との間での共存共栄の枠組みや道筋を探ることではないでしょうか。
なぜなら、本気で台湾を押さえようとするなら、その最大の弱点であるエネルギーの対外依存度の高さを突けば、戦闘行為に至らずとも、容易に目的を達成できるからです。中国が海上封鎖によって台湾向けのLNGタンカーの動きをストップさせれば、台湾は2週間で液化天然ガスの備蓄が底をついてしまいます。
ということは97%のエネルギーを海外に依存している台湾はたちまちお手上げ状態になるというわけです。実は、台湾では「脱原子力」に舵を切っており、太陽光や風力発電といったクリーンエネルギー重視政策を進めています。しかし、日本も同様ですが、こうしたクリーンエネルギーだけでは国民や企業の電力需要を賄うことはできません。
では、万が一の場合、米軍や自衛隊が海上封鎖を行っている中国の艦船を力で排除することはあり得るでしょうか。残念ながら、財政破綻状態に陥っているトランプ政権には土台無理な話です。であるならば、「アメリカ依存症」の日本は真剣に自前の対策を準備する必要があります。
そんな中、オーストラリアは日本との間での安全保障戦略を相互に強化したいと強く希望するようになってきました。中国の存在が両国共通の安全保障上の課題であると認識しているからです。オーストラリアは首相が訪中するなど、中国との経済関係を重視していますが、安全保障面では中国の動きに警戒を強めています。その点、日豪両国は共通の問題を抱えているといえます。
実は、オーストラリアが保有するフリゲート艦は速度が遅い上に、ミサイルの搭載数が少なく、無人機への攻撃の対応が不十分であり、残念ながら「老朽化」が甚だしい状況です。これまでアメリカから主に防衛装備品を調達していましたが、欧米諸国の生産能力が低下しているため、アメリカ以外の供給先の確保が緊急課題となってきています。
オーストラリアは2年前の「国防戦略見直し」において、「第2次世界大戦後、最も厳しい安全保障環境にあるため、オーストラリア軍の抜本的な強化の必要性」を明示。昨年には「国家防衛戦略」をまとめ、「抑止のための拒否戦略」を掲げ、その一環として老朽化するフリゲート艦を新世代のものに交換する計画を打ち出したほどです。
「2029年以降、11隻を国際共同開発で導入する」とし、「3隻は国外で製造し、残り8隻は国内で製造する」としています。その共同開発相手国に日本が選定されたわけです。これまでオーストラリアと日本は両国や周辺地域に影響をおよぼすような緊急事態の際に、協議の上、対応措置を検討する安全保障協力に関する共同宣言にも署名。
その後、オーストラリア軍と自衛隊が相互に部隊の派遣をしやすくするための「日豪円滑化協定」も発効。昨年だけで、共同訓練を39回実施しています。アメリカ軍も加えての日米豪共同訓練(武士道ガーディアン25)も実施中です。
日本は反撃能力を高めるうえで活用を想定する巡航ミサイルをオーストラリアとの間で相互運用する方針を固めています。そうした取り組みが評価され、日本の新型フリゲート艦がオーストラリアに導入されることが決まったわけです。マールズ国防相は「もがみ型はオーストラリアにとって最高の艦艇だ」と述べ、ステルス性やミサイル能力に加え、一般的護衛艦の半数の90人の乗員で運用できることも決め手となったと期待を表明。
100億オーストラリアドルの事業で、正式な契約が結ばれれば日本にとって過去最大の防衛装備品の輸出になります。日本の野党からは「武器輸出に歯止めが利かなくなる」との批判も出ていますが、石破前首相は「オーストラリア政府の決定を歓迎し、2026年初頭の契約締結に向けて官民一体となって取り組む」と積極的な姿勢を崩しませんでした。その方針は高市首相も継承しています。
去る9月5日からの日豪2プラス2では両国内の懐疑的な見方への対策についても協議されたわけです。今回の会合では両国政府は第3国で有事が発生した場合、自国民の退避について協力し合う覚書も交わしました。安全保障面での中国との関係については、両国とも共通の課題を抱えていますが、アメリカの一方的な関税措置については日本もオーストラリアも別の意味で危機感を共有しています。
その観点でWTOの改革案を含め、アメリカの経済安保戦略に対する評価と対応策についても協議する必要性が高まっていることは注目に値します。今後とも日豪間の忌憚のない議論と情報交換に大いに期待したいものです。
ところで、日中関係は危険水域に突入しつつあります。先の参議院選挙で日本維新の会から比例区で出馬し、初当選した石平氏が中国の対外政策を批判するなかで、「中国は日本を国際社会から孤立させようと狙っている」といった主張を展開したため、改めて中国が主導するかたちで「日本包囲網」が画策されているのではないかといった疑心が政治家やメディアの間で生まれているからです。
石平議員は日華議員懇談会(古屋圭司会長)に加入し、台湾との関係強化に注力することを明言。そうした動きは議席を伸ばした参政党や国民民主党にも投影されています。参政党は結党以来、「台湾有事、日本はどうする」といった問題提起を繰り返し、その観点から中国の対日工作についても「米国に頼ることなく、独自に台湾政策を固めるべき」と主張。台湾との交流にも積極的で、神谷代表率いる同党初の海外視察団の訪問先は台湾でした。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








