(一社)アジア・インスティチュート
理事長 エマニュエル・パストリッチ
1914年のヨーロッパと2025年のアメリカ
1914年のヨーロッパ情勢と現代の状況には驚くべき類似点があり、アメリカは視点によってイギリス、あるいはドイツに似ているといえる。
アメリカは前例のない巨額の国家債務を抱え、トランプ政権下で急速に増加している。アメリカの銀行は不良債権に苦しんでおり、とくにAIへの巨額投資に関連する債務や疑わしい財務計画が問題だ。これらは社会を根本的に変革するという、過度に楽観的で妄想的な伝説によって正当化されている。このAI楽観論は、20世紀初頭に英国とドイツが流布した植民地開発による巨利神話に似ている。
ドルの価値は過去10年間、とくにこの1年で不安定さを増している。その世界的な権威は、アメリカ経済の健全性や文化的影響力ではなく、純粋な軍事的優位性によって支えられている。つまりドル価値維持の決定的要因はアメリカの戦争遂行能力であり、この切り札は日々弱体化している。これは1914年にイギリスの通貨が挑戦を受け続け、金準備が減少するにつれてその権威が衰えた状況と類似している。
アメリカの主要銀行やプライベート・エクイティ企業はすべて不透明な財務構造をもち、しばしば株式価値に連動している(その価値は利益ではなく、同じ銀行が資金提供する自社株買いによって支えられている)。このシステム全体はいつ崩壊してもおかしくなく、そうなればすべての銀行が一斉に倒れるだろう。マイクロソフト・ワード、オープンAI、エヌビディアが運営するAIポンジ・スキームへの銀行やプライベート・エクイティによる巨額投資は、近い将来、おそらく数カ月以内に、アメリカ経済、ひいては世界経済を不可逆的に不安定化させる可能性が高い。
金本位制は廃止されたが、連邦準備制度理事会と財務省がドル使用に課す規制は依然として存在する。銀行や企業は、ブラックボックスアルゴリズムで自ら価値を決定できる暗号通貨を活用し、この規制から完全に逃れようとしている。世界大戦の危機は、すべての人にデジタル通貨の使用を強制する絶好の口実となるだろう。
中国は「戦争の外側」に立てるのか
20世紀初頭にグローバル金融が中国やオスマン帝国を掌握したことが、他国への「失敗の代償」を示す警告となったように、短期利益を追求する銀行や企業によるイラク、ウクライナ、シリアなどの国家の私有化は、この競争に敗れることが破滅的であることをすべての国々に警告している。
アメリカの銀行は、ウクライナの農地やイラン・ベネズエラの油田など、現時点で所有していない征服地からの資産獲得を前提としている。将来の成長予測にこれらの資産保有を組み込むことで、戦争を必然化させているのだ。
興味深い疑問は、中国が第一次世界大戦時のアメリカのように、最悪の戦闘を回避しつつ世界大戦を資金面で支え、そこから利益を得る可能性だ。中国系銀行と米系銀行の結びつきが不透明すぎるため、この疑問への答えは容易ではない。確かなのは、ブラックロック、バンガード、ステート・ストリート、ブラックストーンといった多国籍プライベート・エクイティ企業が、中国脅威論を誇張して軍事増強を推進する一方で、中国に巨額の投資を行っている点だ。アメリカは債務資金調達を中国に依存しており、ドル価値が低下するにつれ、この依存は増大する。
つまり、アメリカが中国との戦争を想定した大規模な軍事増強に全資金を投じているにもかかわらず、最終的に壊滅的な軍事的惨敗を喫するのは中国との戦争の場ではなく、別の場所である可能性は十分にある(確実ではないが)。その場合、アメリカがイランやベネズエラとの戦争に失敗した後、中国はアメリカを経済的植民地として手中に収めるかもしれない。
なぜ彼らは「勝てる」と信じるのか
なぜアメリカのエリート層は、この狂気の戦争準備に勝てると考えているのか?
アメリカは現在の危機を乗り切れないかもしれないが、銀行家たちはアメリカが依然として優位に立つ方法について独自の構想をもっている。
我々は彼らの秘密計画にアクセスできないが、中国、ドイツ、日本、韓国、トルコ、インドなど諸国との競争に直面しても、アメリカの金融支配を維持するための彼らの冷笑的な戦略を推測することはできる。
この戦略は数千年にわたる帝国建設の歴史に遡り、アメリカのライバル国をすべて戦争に深く巻き込み、消耗させ、破壊する一方で、アメリカ自身は紛争から離脱するというものだ。もしアメリカのエリート層がこれを成し遂げられれば、彼らは頂点に立つことができる。
まずアメリカは、欧州に潜入した工作員を用いて各国指導者に賄賂や脅迫を行い、ドイツ、フランス、英国その他の欧州諸国がロシアとの破壊的な戦争に巻き込まれるよう仕向ける。そうして彼らが対ロシア戦争の準備を進める間、アメリカは一定の距離を保ちつつ、最終局面で戦争から撤退できるようなロシアとの関係構築さえ図る。まさに現在進行中の計画がこれにあたる。
同時にアメリカは、イスラエル、トルコ、カタール、サウジアラビア、おそらくインドその他の国々がイランとの戦争に突入するよう促す措置を講じることができる。これらの国々には壊滅的な結果をもたらす一方で、アメリカは最後の瞬間に撤退する準備を整え、この戦争にも関与しないようにするのだ。
こうした戦略が進行中である兆候は、とくにアメリカによる疑わしいイラン空爆とイランの軽微な反撃に示されている。しかしアメリカは、この計画の推進に成功していない。イスラエルとの関係が緊密すぎる上、イランが地域諸国との良好な関係を維持しているからだ。ガザ虐殺へのアメリカの支持は国際的立場を著しく弱め、イランとの戦争は多くの国にとって自殺行為に等しい。とはいえ計画自体は依然存在する。構想の愚かさは、それが実行されない根拠にはならない。
最終戦場「アジア」で日本は矢面に立たされる
最後にアメリカは、日本、韓国、ベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドなどのアジア諸国を巻き込み、中国との壊滅的な戦争に突入させることで、これらすべてを破壊すると同時に中国も大きく弱体化させる可能性がある。アメリカは最終局面で手を引き、実際の戦争に巻き込まれることを回避する——こうして最終的に優位に立つのである。
こうした計画が進行中である兆候も見られる。日本の場合、米軍日本部隊と自衛隊の新たな統合司令部が赤坂に設置された事実を見れば十分だ。これは近い将来、日本本土で中国との直接戦争を効果的に遂行するための日米両軍の準備を目的としている。
この新たな姿勢は、実質的に日本側に戦争処理の責任を負わせ、アメリカには最終局面での撤退選択肢を与えるものだ。
アメリカが日本を中国との戦争に誘い込み、最終局面で撤退する可能性を示す事例が、トランプ政権に操られた高市早苗首相が、些細な外交問題をめぐって習近平政権と激しい政治的争いを繰り広げた件に見て取れる。この争いは日本の利益に何ら寄与しなかった。高市は「台湾への中国のいかなる動きも日本の存亡に関わる脅威だ」と公言するよう促され、日本が台湾を軍事的に防衛すべきだとほのめかした。この発言はトランプ流の瞬間、日本のこれまでのすべての声明と外交政策を無視したものだった。彼女はワシントンD.C.からの直接命令で、まったく不要な対立を生み出したのである。
しかし、トランプは習近平に電話をかけ、その後、公の場で「習近平とは良好な関係にある」と発言した。アメリカはその後、関係改善を目的とした動きとして、中国への先端半導体輸出にさえ合意している。アメリカが後退する選択肢を与えられる一方で、日本は中国との対立に追い込まれたのである。
アメリカの同盟国を破壊的な戦争に誘い込むためのあらゆるプロセスは、覆すことができる。そして、アメリカの銀行家たちが追求している戦略は、成功しないかもしれない。しかし、真の問題が何であるかを認識しなければ、何の進展も望めない。ジェームズ・ボールドウィンが簡潔に述べたように
「直面したすべてを変えることができるわけではないが、直面しなければ何も変えることはできない」
(了)
<PROFILE>
エマニュエル・パストリッチ
1964年生まれ。アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル出身。イェール大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(比較文学比較文化専攻)、ハーバード大学博士。イリノイ大学、ジョージワシントン大学、韓国・慶熙大学などで勤務。韓国で2007年にアジア・インスティチュートを創立(現・理事長)。20年の米大統領に無所属での立候補を宣言したほか、24年の選挙でも緑の党から立候補を試みた。23年に活動の拠点を東京に移し、アメリカ政治体制の変革や日米同盟の改革を訴えている。英語、日本語、韓国語、中国語での著書多数。近著に『沈没してゆくアメリカ号を彼岸から見て』(論創社)。








