今後はこうした人たちが増加する
2025年10月1日に「改正住宅セーフティネット法」が施行された。背景には、単身高齢者世帯や低所得者などの住まいの確保が難しい「住宅確保要配慮者」が増加しつつあるという、社会の大きな変化がある。今回の改正は、受け入れに難色を示すことが多かった民間の賃貸住宅への入居を、より促すものだ。そこで、ここでは法改正の内容や制度の仕組みに加え、福岡県内でこれまでに取り組まれてきた具体的な動きや課題などについて、確認する。
「公営住宅一本足」から脱却し民間賃貸を活用
住宅セーフティネット法とは正式には「住宅確保要配慮<有料区切り>者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」といい、2017年10月に施行された。当時の状況を整理すると、2000年代に入り、高齢者や低所得者、障がい者、子育て世帯などの住宅確保要配慮者が、賃貸住宅の家主から入居を拒否される問題が顕在化。その一方で、民間賃貸住宅は空室率が上昇し、とくに地方では空き家・空室の増加が顕著となるなど、「借りたい人がいるのに、借りられない」というミスマッチが生じていた。なかでも、生活保護受給者や高齢単身者の入居を家主が敬遠、拒否する事例が多く、行政は従来の公営住宅だけでは対応しきれなくなっていた。
足腰が弱くなった高齢者は上層階に住みづらくなる。
こうしたことも従来の公営住宅だけでは
対応しきれなくなってきた要因の1つだ
そこで、国は空き家・空室の活用と住宅弱者の入居支援を一体的に進めるため、「住宅セーフティネット法」を施行。制度の柱は3つあり、1つ目は民間賃貸住宅を「住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅」として登録する「セーフティネット住宅登録制度」の創設。2つ目は一定条件の登録住宅に入居した要配慮者へ、国・自治体が家賃を補助する「家賃低廉化補助」。3つ目は入居相談、生活支援、見守りなどを行う居住支援法人を位置づける「居住支援法人制度」である。大きな狙いは「公営住宅一本足」から転換し、空き家を含む民間賃貸をセーフティネットとして組み込むことであった。
「住宅確保要配慮者」とは、低所得者(月収15万8,000円以下など)、被災者(発災後3年以内)、高齢者、子ども(高校生相当以下)を養育している者、外国人、東日本大震災など大規模災害の被災者(発災後3年以上経過)、都道府県・市町村が定める者(原爆被爆者、戦傷病者、「U」「I」「J」ターンによる転入者などさまざま)と定義されている。
居住支援法人とは、登録住宅の入居者(賃貸人、住宅確保要配慮者)への家賃保証、入居のための情報提供・相談、見守りなどの生活支援、残置物処理などを主な業務としており、NPO法人や一般社団法人、財団法人、福祉法人、居住支援を目的とする会社などが該当。25年9月末時点で1,099法人が指定されている。法人の形態は株式会社が496社と最も多く、都道府県別では大阪府が206法人(福岡県は58法人)で最多となっている。また、自治体によっては、不動産関係団体や居住支援法人などと連携するための「居住支援協議会」を設置している。同協議会の設置については自治体への努力義務があり、全都道府県の128市区町村に166の協議会が設けられている。なお、福岡県内では、福岡市、北九州市、久留米市、中間市、大牟田市、うきは市、直鞍地区にある。
ソーシャルサービスとして展開
(株)三好不動産

(株)三好不動産ではNPO法人「介護賃貸住宅NPOセンター」を2001年に設立するなど、高齢者を含めた要配慮者が賃貸住宅への入居する際のサポートに早くから取り組んできた。外国人やLGBTQなどの入居者など属性にとらわれない住まい探しを展開し、居住支援をソーシャルビジネスとして取り組んでいる。単身高齢者には見守り支援、外国人には外国人を採用しての現地語対応、LGBTQにはレインボーマークを表示し、店舗に専従担当者を配置などしている。
法の施行とそれにともなう前述の制度の開始後、セーフティネット住宅の登録数は一定量に増えたものの、家賃滞納や孤独死のリスク、トラブル対応の負担などを理由に、賃貸住宅の家主側の参加が進まないという課題の解消はそれほど進まなかった。居住支援法人の数も地域差が大きく、自治体によって支援の濃淡があることも課題となった。
その後、21年にはコロナ禍で住まいを失う人が急増したことを受け、生活困窮者・若年層支援の強化を行うために法改正を実施。自治体・NPO・不動産業者をつなぐ枠組みを強めるなど、居住支援協議会の機能を強化した。また、若年ホームレス状態の人への支援の明確化、補助制度の柔軟化などによる社会的孤立や貧困の深刻化を受け、住宅政策が福祉領域と一体で取り組むことが、同法の役割として明確にされた。
高齢単身者世帯増加など課題はさらに深刻化
【図1】は高齢者世帯数と年齢別単身世帯数の推移を表したものだが、高齢化世帯は2030年には約1,500万世帯を超える見通しとなっている。また、単身世帯は現状で約4割近く(約2,000万世帯)を占め、世帯類型で最も多くなっているほか今後も増える傾向にあり、30年には単身高齢者世帯は900万世帯に迫る見通しだ。そうした状況のなか、年代別の持家率の推移を見ると、20~50代において持家率が減少。これは晩婚化や低所得化が影響しているものと見られる【図2】。
一方で、全国にある空き家は約900万戸といわれ、そのうち賃貸用空き家は約443万戸(うち共同住宅は約394万戸)と、空き家・空室の拡大に歯止めがかかっていない【図3】。
このような背景から、改正住宅セーフティネット法は大きく3つの見直しが行われている。1つ目は「大家・住宅確保要配慮者の双方が安心して利用できる市場環境(円滑な民間賃貸契約)の整備」。市場環境整備の方向性としては、第1に「賃貸借契約が相続されない」仕組みの推進が挙げられている。通常の賃貸借契約では、賃貸人としてのこの契約が「財産」として扱われるため、入居者が死亡した場合、相続によってほかの遺産と同様に相続人に承継される。改正法では、終身建物賃貸借契約(貸借人が亡くなるまで更新がなく、死亡時に契約が終了する)の認可手続を簡素化。入居者が亡くなった時点で契約が終了するため、契約解除のための相続人捜しが不要であり、相続関係が確定していない場合でも相続人全員に対して解除が不要となる。これまで、居住支援法人が家主と入居者の間に立ち、入居者の死亡時の一連の手続きを行ってきたが、その負担が軽減される可能性があるわけだ。
(つづく)
【田中直輝】

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