トランプ大統領によるベネズエラ攻撃は現代の帝国主義~日本も対岸の火事ではない

 トランプ米大統領が南米ベネズエラへの武力攻撃に踏み切り、独裁色を強めていたマドゥロ大統領を3日未明に拘束した。他国の首都に軍を送り込んで大統領を拘束し、自国に連行したうえに、「侵略ではない」と否定したが、国際法に照らしても米国のやり方は帝国主義そのものだ。

ロドリゲス氏は融和路線に転換

 トランプ大統領は今回の武力行使の意図について、「米国民に多大な被害をもたらす麻薬密売組織の首謀者であるマドゥロ氏を米国で裁くため」と述べ、「態度が悪ければ2度目の攻撃も行う」と警告した。一方、ルビオ国務長官は直接統治ではなく、「ベネズエラを特定の方向に進ませたい」とし、暫定大統領に就任したデルシー・ロドリゲス副大統領による米国との協調路線に期待を示した。

 ロドリゲス氏は暫定ではあるが、ベネズエラ初の女性大統領である。同氏は当初、アメリカの攻撃を厳しく批判し、マドゥロ氏の速やかな釈放を求めていた。

 その後、「アメリカ政府、トランプ大統領と手を取り、新しいベネズエラをつくりたい」「無用な流血を避け、ベネズエラを再び偉大な大国にしたい」とSNSに投稿したが、国内の安定と国際社会の反応を見て、融和路線に転じたようだ。

 もちろん、ロドリゲス氏の方針転換には、トランプ大統領の「2度目の攻撃も行う」との米国の圧力があることはいうまでもない。現実的な外交だとみる向きもあるが、経済制裁の長期化や国内経済の停滞が国民の反発を招き、政情不安だけでなく近隣諸国への波及も含めて、面従腹背を選択したのではないだろうか。

対米従属の高市首相

 歴史的に日系移民も多い南米での今回の米国の行動は、日本でどのように受け止められたか。野党各党は次のような反応を示した。

「主権国家のトップをああいうかたちで、ある種、強引に連れ去るというやり方、しかも、次の政権までの間、アメリカが管理するという物の言い方、やっぱりどうしても、これは国際法から照らしても疑義があると言わざるを得ない」(立憲民主党・野田佳彦代表)

「国際社会の秩序が大きく揺らぐのではないかという懸念がある」「法の支配と主権の尊重、国際法を守ることの大切さをアメリカに訴えてほしい」(公明党・斉藤鉄夫代表)

「国連憲章、国際法を蹂躙するトランプ政権の暴挙を強く非難する」「日本政府として、ただちに抗議することを強く求めたい」(共産党・田村智子委員長)

 野党各党の米国に対する厳しい声の一方で、高市早苗首相は伊勢神宮参拝後の会見で、「従来から自由、民主主義、法の支配といった基本的価値や原則を尊重してきた」としたうえで、「G7や地域諸国を含む関係国と緊密に連携しながら邦人保護に万全を期するとともに、ベネズエラにおける民主主義の回復および情勢の安定化に向けた外交努力を進めていく」と述べ、米軍による主権侵害行為についての言及を避けた。

 高市氏は保守の立場に立つ政治家である。米国に押し付けられた憲法を改正すべきと主張してきた。つまり対米自立を志向することが保守であるはずだ。占領下につくられた憲法と教育基本法による「戦後80年の教育は日本人を骨抜きにした」と、高市氏をはじめ保守派は主張してきた。

 しかし、今回のベネズエラに対する主権侵害への言及がないコメントや、トランプ大統領の来日時に見せた高市氏のはしゃぎぶりを見ても、外交儀礼を通り越して対米従属そのものであり、宗主国・米国に何もいえない「親米保守」が「強い日本」を掲げ、スパイ防止法をはじめ国民の分断につながる法案を推進しているのは滑稽ではないだろうか。

 マドゥロ大統領が反米的で左派系であることは知られるが、今回のマドゥロ氏の拘束も、過去のイラクやイランに対する介入がそうであったように、「世界の警察官」と呼ばれるアメリカの独善性と、その裏にある石油などエネルギー資源支配の思惑が見え隠れする。

 南米は「米国の裏庭」とされ、アメリカはモンロー主義(1823年にモンロー大統領が表明)と呼ばれる考え方を基に、中南米諸国の内政に干渉し、時にはCIA(米中央情報局)による政権転覆などを行ってきた。

 トランプ氏は反グローバリズムで、「世界の警察官」的な動きはしないという見方もあるが、昨年12月に国家安全保障戦略を発表したなかで「我々はモンロー主義のトランプ版を主張し実行する」という文言が盛り込まれていた。モンロー主義は「アメリカはヨーロッパ諸国に介入しないが、ヨーロッパもアメリカ大陸に手を出すな」という方針である。相互不干渉を掲げるもので、孤立主義的な米国の外交路線を意味している。

 今回のトランプ大統領のベネズエラに対する露骨な主権侵害と内政干渉は、高市首相が述べた自由と民主主義、法の支配といったものを否定するものであり、中国やロシアといった覇権主義的な国々に「お手本」を示す結果になる。

 なお、中国外務省は米国によるベネズエラでの行動を国際法違反であると非難している。中国はベネズエラに対し、インフラ整備を含めた経済支援を行い、同国から原油を輸入するなど緊密な関係を築いていた。

 米国の行動は、中国とマドゥロ政権の接近を牽制する狙いがあったのではないか。米国からすると「裏庭」であるベネズエラを含む南米に中国の影響力が強まることに釘をさす意味合いがある。つまり広い視点で見ると、大国のパワーゲームが背景にある。

 だが中南米(に限らないが)には、アメリカの独善的行動を快く思わない人々が少なくない。トランプ大統領の思惑通りに事は運ばない可能性が高い。日本にとっても対岸の火事ではなく、東アジアの外交安全保障に影響することは間違いない。「平和ボケ」ではいられなくなる。

【近藤将勝】

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