国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
少女らの人身取引罪で世間を騒がせ、獄中で自殺したとされる実業家のエプスタイン氏ですが、死後も世界を揺るがしています。日本ではあまり知られていませんが、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置く世界最大級の物流企業の1つで、世界貿易の約10%を取り扱うDPワールドは、前CEOのスルタン・アハメド・ビン・スレイム氏とエプスタイン氏との関係が暴露されたため、国際的な信用失墜に至る危機感を露にし、新たな会長兼CEOを任命するという決断に至りました。
スレイム氏はドバイで最も有力で幅広い人脈をもつビジネスマンで、40年以上にわたり、世界中で60以上の港湾とターミナルを運営するDPワールドを率いていました。同氏は長年に渡り日本を含むアジア、世界の物流のカギを握る人物として君臨。最近、米司法省によって公開された機密文書によると、2008年にエプスタイン氏が未成年者への売春斡旋で有罪を認めた前後、スレイム氏がエプスタイン氏と長年にわたりメッセージを交換していたことが明らかになったためです。
両者の親密なやり取りには、取引に関する議論や、スレイム氏がエプスタイン氏の私有島を訪問し、ビジネスと政界で人脈を共有していることなどが含まれていました。2人は女性に関するわいせつな発言も交わしており、スレイム氏のメールアドレスには、エプスタイン氏が「拷問ビデオが大好きだった」といったやりとりが残っています。
実は、米司法省が公開した文書ではビン・スレイム氏の名前は黒塗りされていましたが、民主党のロー・カンナ下院議員は議会で、氏名が黒塗りされたほかの5人とともにスレイム氏の名前を挙げ、「米政府は明確な理由もなく彼らの名前を隠蔽した」と糾弾。言外には、トランプ政権の思惑が隠されているという批判が明白でした。実際、同ファイルにはトランプ氏の名前も頻繁に出てきます。
カンナ議員が言及したファイルには、スレイム氏やほかの男性らが特定の犯罪に関与したことを示す証拠は見当たらなかったものの、スレイム氏とエプスタイン氏が長年に渡り友人関係であったことが明らかになったことを受け、英国の開発投資機関であるブリティッシュ・インターナショナル・インベストメント(BII)とカナダ第2位の年金基金であるラ・ケーセ(ケベック州貯蓄投資公庫)が、DPワールドとの今後の事業を一時停止すると発表したほどです。DPワールドにとっては危機存亡の事態に他なりません。
2022年にDPワールドのUAEにおける主力資産であるジュベル・アリ港、ジュベル・アリ・フリーゾーン、国立産業団地に25億ドルを投資したラ・ケーセはスレイム氏とエプスタイン氏の関係を明らかにし、「必要な措置」を講じるまで、これ以上の投資は行わないと発表。
ただ、ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメント(BIT)はその後、DPワールドの新CEO就任を歓迎し、同社とともに投資を再開すると発表しています。BITの広報担当者は、「DPワールドの新人事に関する決定を歓迎するとともに、アフリカの主要貿易港の開発を推進し、アフリカ大陸のグローバル貿易の可能性を共に追求したい」と述べています。
広く報道されていますが、エプスタインは2008年に未成年者を売春目的で斡旋した罪で有罪判決を受け、約1年間服役した後、釈放されました。しかし、有罪判決後も、裕福で影響力のある人物とのつながりは続いたため、2019年には再調査が実施されたものです。エプスタインは未成年者への性的人身売買の罪で再度起訴され、同年獄中で死亡しました。
とはいえ、本当に獄中で自殺したのかどうかははっきりしていません。なぜなら、彼の遺体とされる写真は鼻や耳のかたちが生前のものと明らかに違っていたからです。しかも、自殺したとされる1日前に、米司法省は同氏の死亡告知の準備をしていました。実に不可解千万。そのため、巷では「エプスタインはイスラエルのモサドと緊密な関係だったため、極秘の情報が流れるのを防ぐため、自殺を装って、イスラエルに連れ去られたに違いない」といった憶測がまことしやかに流れています。
いずれにせよ、エプスタイン・ファイルの影響は現在も大きく世界を揺るがしています。英国のスターマー首相はエプスタイン氏と交流を重ねていた与党労働党の重鎮マンデルソン氏を駐米大使に起用したことの責任を問われ、党の内外から辞任要求が出る有り様です。と同時に、チャールズ国王の弟であるアンドリュー元王子もエプスタイン氏に政府の機密文書を漏らしたとの追及が始まりました。
また、米国のクリントン元大統領夫妻もエプスタイン氏との秘密会合の真相をめぐって議会から証人喚問を受けざるを得ない状況に追い込まれています。生死の程は明らかでありませんが、「世紀の児童買春王」と異名を取るエプスタイン氏のビジネスモデルは「超有名人を児童買春で操り、それをネタに投資や資金提供を迫る」というもの。
先頃、米司法省によって追加公開されたエプスタイン・ファイルはおよそ300万頁におよびます。そのなかには、トランプ大統領をはじめ、ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏、そして日本人の伊藤穣一氏の名前も上がっているではありませんか。
トランプ氏は「俺はあんな男とは本気で付き合ったことはない」と言い放っていますが、ニューヨークの不動産開発ビジネスに携わっていたころのメールのやり取りからはかなり怪しい関係が疑われています。
なお、ビル・ゲイツ氏に至っては、紹介されたロシア人女性から性病をうつされたため、エプスタイン氏に泣きつき「妻にはいえないので、内証で治療してほしい」とメールで懇願していたことも明らかに。しかし、夫の言動に不信を抱いたメリンダ夫人からは三下り半を突き付けられ、結局、離婚を迫られ、多額の慰謝料を支払うことになったのです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








