政治経済学者 植草一秀
国民会議を創設して国民的議論を行うべきは選挙制度改革。高市首相は「政治とカネ」を「議員定数」にすり替えた。自民党の金権腐敗体質が最大の問題だった。抜本対応なら「企業団体献金全面禁止」。これ一択だった。
政治資金は国民が負担している。政党助成金制度を導入した際、企業団体献金は全面禁止することになっていた。当時の自民党総裁・河野洋平氏が明言している。
「解党的出直し」を迫られた自民党は企業献金禁止の方針を明示すべきだった。ところが、高市首相の取った行動は違う。「政治とカネ」問題を放り出した。「政治とカネ」への対応を放り出して、維新が提示した議員定数削減に乗った。完全なすり替え、ごまかしである。
人口当たりの国会議員定数で日本はOECD38か国中の36位。議員定数は圧倒的に少ない。議員定数を削減する必要性は極めて低い。
是正が必要なのは議員報酬の高さ。日本の国会議員の年収は歳費、期末手当、調査研究広報滞在費、立法調査費を税引前収入で表示すると約5,500万円。5,000万人を超える給与所得者の所得中央値は年収約400万円。日本の議員報酬は世界のなかでも突出して高い。
「身を切る改革」と掲げるなら、やるべきことは議員定数削減でなく議員報酬削減だ。ところが、高市首相は企業献金規制強化を放り出して、議員定数削減をあたかも重要課題であるかのように持ち出した。「ごまかし、すり替え、居直り」が高市三原則。高市氏は三原則通りの対応を示してきた。「政治とカネ」の浄化に取り組む考えはない。
高市氏は居直っている。必要性のない議員定数削減につき、維新は「比例定数の削減」を掲げた、ふざけた提言だ。選挙制度の最大の問題は議席配分が民意を正確に反映していないこと。民意を正確に議席配分に反映させるには「比例代表選挙」が最適だ。
今回の衆院選結果を示す。(今回*)と表示しているのは自民が候補者不足を生じさせず、配分議席をすべて確保した場合の計数。
現実には自民が獲得した議席のうち14が他党に流れた。内訳は旧立民が6、維新、国民、みらいが各2、参政とれいわが各1。数表では併せて、比例代表の得票率で案分した議席数を「仮定計算」欄に記入した。すべての議席を比例代表の得票率で案分して配分した場合の議席数である。
これを見ると現実の選挙結果と仮定計算との間に大きな乖離が生じる
自民は 330 が 171 に
中道は 43 が 85 に
共産は 4 が 20 になる。
衆議院定数は465で過半数は233。自民の171は233に遠く及ばない。比例代表での議席配分が有権者の投票結果を正確に反映するものである。民意を正確に議席配分に反映するには全議席を比例代表選挙で決定することが最善である。
14議席を他党に譲っても自民は今回316議席を確保したが、この議席数は民意を正確に反映するものでない。選挙制度改革こそ本当の意味の国民会議創設を必要とするテーマである。
全議席を比例代表で選出するときに浮上する反対意見の論拠はこれ。有権者の意思に沿わない人物が議員になること。これを防ぐ方法がある。投票を政党名でなく候補者氏名で行うこと。比例名簿には順位をつけない。議席配分は得票数順とする。こうすると有権者が支持しない人物が議員になることを回避できる。
全議席を比例代表選挙で選出する選挙制度はメリットづくしだ。五つのメリットを挙げられる。
1.死票を消滅できる
2.一票の格差を解消できる
3.政党中枢への権力集中を排除できる
4.政権交代が生じやすくなる
5.投票率上昇を期待できる
いいことづくしだ。
他方、比例代表を全国区で実施することに対する反対意見が存在する。全国を遊説で回るために費用がかさむこと。しかし、時代は変わった。リアルな遊説よりもインターネットを活用した情報伝達が主流になっている。このことで全国区での選挙戦展開は従前と比較して格段に容易になっている。
すべての議席を全国区での比例代表選挙で選出することに大きな問題は生じない。最大のメリットは死票が解消されること。また、投票したい候補者がいないのに鼻をつまんで投票しなければならないというストレスも解消される。
死票がなくなり、有権者の一票が確実に生きた投票になることで、投票率の飛躍的上昇を期待できる。議員定数の問題が論議されることになるなら、選挙制度改革の議論を併せて行うべきだ。
全議席を比例代表で選出することに、突出した合理性がある。小選挙区制度は二大政党制が確立される場合には有効な選挙制度だが、現在の日本は一強多弱、あるいは多数政党乱立である。この現実を踏まえれば、全議席を比例代表選で選出する制度構築は強い合理性を保持していると言える。
自民党は今回衆院選で圧倒的多数議席を占有したが、得票率に基づく議席案分であれば獲得議席は171。171が今回選挙での自民党実力である。自民の得票率は全有権者数の20%でしかない。全有権者の5人に1人しか自民に投票していない。その自民が衆議院議席定数の7割を占有することに合理性がない。
自民圧倒的多数議席は民意の正確な反映でない。現行選挙制度がもたらした歪んだ議席数に過ぎない。自民が多数議席を獲得したから選挙制度改革論議に蓋をするというのは間違っている。全議席比例代表配分が圧倒的に優れている。反論があるなら、堂々と論拠を示してもらいたい。
全議席を比例代表で選出する選挙制度を採用すれば、日本政治は間違いなく変革する。民主主義を健全に機能させる際に不可欠な要素は少数意見の尊重である。全議席比例代表選出の選挙制度を確立すれば、少数意見の政党も議席を確保できる余地が大きく広がる。高市首相には期待できないから、主権者である国民が自発的に選挙制度改革の国民会議を創設するしかない。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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