政治経済学者 植草一秀
東日本大震災・フクシマ原発事故から15年が経過した。この15年の間にも巨大地震は日本に襲来している。
2016年4月に熊本県熊本地方で震度7
2018年9月に北海道胆振地方で震度7
2024年1月に石川県能登地方で震度7
の大地震が発生している。
震度6の揺れを伴う地震も頻発している。地震の規模を示すマグニチュードで7以上の地震も頻発している。
日本は世界一の地震国。東日本大震災・フクシマ原発事故が発生する前年の5月26日、衆議院経済産業委員会で日本共産党の吉井英勝議員が原発の電源喪失について質問した。
https://www.youtube.com/watch?v=vwBsUid9Ih4
自然災害などにより原発の電源が失われ、二次電源も使えない状況が発生すれば、原発は冷却不能に陥り、最終的に炉心溶融=メルトダウンに至る可能性があることを指摘した。答弁した原子力安全・保安院長の寺坂信昭氏は原発は多重防護の考え方で設計されていると答弁。吉井氏が「最悪の場合はどうか」と問うと寺坂氏は薄ら笑いを浮かべながら、「最悪の事態が発生することはあり得ないだろうという程度に工学的に作られているとした上で、それぞれ確率的には低いことだが、いろんな悪い事態というのが全部実現をして、それで外部電源が全部損失されて、冷却機能というのが失われるということになると、その時間にもよるが、長時間にわたると炉心溶融とかそういったことにつながることが、論理的には考え得るということだ」と述べた(上記動画の4分50秒から8分20秒の部分参照)。
翌年に発生した事態は吉井議員が指摘した事態そのものだった。寺坂信昭氏は吉井議員の指摘を真摯に受け止めていない。政府と東京電力がかねて指摘されていた大津波襲来の際の電源喪失の危険性についての対応策の必要性指摘に真摯に対応していれば原発事故を回避できた可能性が高い。その対応を怠ったことが原発事故の主因である。
原発事故は不可避の事態ではなく、政府と東京電力が適正な対応を怠ったために発生した「人災」である。当然のことながら、責任が問われなければならない。その判断を示すのは司法である。ところが、日本では司法が腐敗している。裁判所は「法の番人」ではなく「権力の番人」に成り下がっている。権力者の責任を問わない。
原発事故でどれだけの犠牲が強いられたのか。被害者は泣き寝入り。加害者は無罪放免。これが日本の現実である。東電は当然のこととして法的整理されなければならなかった。原子力損害賠償法は原子力事業者に事故発生の場合の損害賠償について無限責任を定めている(第3条1項)。
例外は
「損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるとき」
に限られる(同)。
この場合は原子力事業者が免責される。「異常に巨大な天災地変」については、1961年の法案提出時の国会審議において、「人類の予想していないような大きなもの」であり、「全く想像を絶するような事態」であるなどと説明されている。
2011年6月7日に内閣総理大臣は2011年の原発事故について上記の原賠法第3条1項の但し書きが適用されない前提で対応すると答弁した。原発事故の損害賠償費用を東電が負担すると完全に債務超過に陥る。したがって、東電の法的整理が不可欠だったが政府は東電を法的整理しなかった。すべてが「不正義」によって執り行われている。
1896年(明治29年)6月15日に三陸沖を震源とするM8.2~8.5の大地震が発生した。明治三陸地震である。この地震で大津波が発生し、綾里では津波の遡上高が38.2メートルに達した。死者は2万2,000人に達し、そのうち約1万8,000人が岩手県の死者だった。
古くは平安時代前期の貞観11年5月26日(西暦869年7月9日)に陸奥国東方沖海底を震源とする大地震と大津波が発生している。産業技術総合研究所(産総研)の海溝型地震履歴研究グループは陸域の調査によって宮城県から福島県の海岸付近の平野に広く貞観地震に伴う津波堆積物が分布することを明らかにした。その結果に基づき貞観地震を発生させた断層モデルをシミュレーションで構築。三陸沖で幅100km、長さ200kmの断層が破壊したと推定した。
これらの調査結果として産総研研究グループは、450〜800年間隔で東北地方を津波が襲っていたことと今後も津波を伴う大地震が発生する可能性があることを予見して2010年に研究結果を国に報告した。東電は、想定される地震と津波に対する福島原子力発電所の対応が不十分であるとの指摘を受けていた。しかし、適正な津波対策を取らずに原発事故を引き起こした。
原子力損害賠償法第三条の条文は次のもの。
第三条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
既述した問題だ。
産総研は、450〜800年間隔で東北地方を巨大地震と巨大津波が襲うことを予見して政府に報告していた。2011年に発生した地震はこの予想に沿うもの。東日本大震災は〈異常に巨大な天災地変〉ではない。
東電は無限責任を負うが損害賠償費用を賄うことはできない。したがって、東電を法的整理しなければならなかった。ところが、菅直人内閣は東電を法的整理しなかった。法的整理を行うと株主が出資責任を問われ、株式の価値がゼロになる。債権者である銀行は貸し手責任を問われ、債権を損失処理しなければならなくなる。
事故発生時の東電のメインバンクは日本政策投資銀行。東電の法的整理によって日本政策投資銀行は巨額の損失処理を迫られる。これを回避するために東電は法的整理されなかったのだと見られる。
政策投資銀行は財務省の最重要天下り先。この政策投資銀行の財務状況が著しく劣化することを回避するために東電の法的整理が握り潰された。水面下で工作したのは財務省である。
日本を喪わせる可能性を有した原発事故。その事故を引き起こした東電の株主の責任も貸し手金融機関の責任も問われていない。被害者は放置され、切り捨てられ、加害者は完全に守られる。
日本政府は2011年3月11日に「原子力緊急事態宣言」を発出したが、いまも取り下げていない。日本はいまなお「原子力緊急事態宣言」発令下にある。
日本の法令は一般公衆の被爆上限を年間1ミリシーベルトと定めているが、「原子力緊急事態宣言」発令下においては年間20ミリシーベルトの被爆を放置している。20ミリシーベルトの被爆が5年続くと累積線量は100ミリシーベルトに達する。100ミリシーベルトの被爆はがん発生確率を有意に引き上げることが科学的知見として確立されている。この状況を放置したまま、原発稼働全面推進に突き進むのはあまりにも愚かである。その愚かな道を突き進むのが現代日本の実相である。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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