イラン攻撃で世界秩序は変わるか(8)世界史の転換点における日本再生の道は
筑波大学大学院
名誉教授 進藤榮一 氏
日本ビジネスインテリジェンス協会
理事長 中川十郎 氏
米国・イスラエルによるイラン爆撃は、1919年以来続く「西洋支配の100年」の終焉と「東洋の世紀」の幕開けを告げる、世界史の大転換点になると国際政治専門の進藤榮一筑波大学大学院名誉教授・アジア連合大学院機構理事長はその歴史的意味を強調する。グローバルサウスへと地軸が移動するなか、日本はなぜ没落の道をひた走るのか。政治・経済・教育の構造的問題を抉りつつ、進藤氏と中川十郎日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・名古屋市立大学特任教授が日本再生の処方箋を語る。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)
「西洋の終焉」から「東洋の世紀」へ
──今回のアメリカ、イスラエルによるイラン爆撃は、世界史を今後、根本から変えるような出来事であると思いますが、どう認識されますか?
名誉教授 進藤榮一 氏
進藤榮一氏(以下、進藤) 私もそう認識しています。この出来事により、「西洋」は終わり始めるものと見ています。1919年以来の「100年戦争」を経て、2026年、27年をもって近代が終わるでしょう。従来の世界支配の構造は、いわばイスラエルを中核とし、欧米諸国が中心となっているというものでしたが、それが終焉を迎えようとしています。
──時代の軸が大きく移動しているということでしょうか。
進藤 世界の地軸は欧米から中国を中心としインド、ASEAN諸国を含むアジア、そしてアフリカを含むグローバルサウスへと移動しています。かつて岡倉天心は「ヨーロッパの栄光はアジアの悲惨である」と述べましたが、西洋は植民地支配と軍事力を背景に3~4世紀にわたってアジアなどに君臨してきました。しかし、IT革命(第3次産業革命)は両者の格差を瞬時に埋め、途上国を一気に主役へと押し上げました。その最先端を走っている国の1つが中国です。
──欧米としてはその流れを食い止めるために早く戦争を終結させるべきですが、今後の展望はどうでしょうか?
理事長 中川十郎 氏
中川十郎氏(以下、中川) 米国としても、これ以上続けてもトランプ氏にとっては秋の中間選挙などでむしろ不利になるという見方が強いです。また、イラン国内の反米感情も強まるばかりです。こうした理由から、できるだけ早期に終結させ、イランから引き上げるべきではないかという意見が専門家からも出ているようです。
イランの現体制を崩すには、空爆だけでは不十分で、10万人~20万人規模の地上軍を派遣しなければなりませんが、地形の困難さもありテヘランまで侵攻するのは容易ではありません。アメリカ国内の同意も得られないでしょうし、米国はイラクやアフガニスタンでも失敗しています。泥沼化する前に両者が納得できる停戦の道を選ぶことが不可欠だと思います。
日本の没落を食い止めるには
──日本は衰退しているように見えますが、その根本的な原因は何だと考えられますか?
進藤 日本は日米同盟に固執するあまり、没落の道をひた走っています。象徴的なのが軍事費の増大です。GDP比で大幅に軍事費を増やそうとしていますが、これは典型的な没落の兆候です。
国家が発展するにはエリートとノンエリートが入れ替わる「循環構造」が必要です。しかし、現在の日本は選挙制度の影響もあり、2世、3世の「出来の悪い息子や娘たち」が政権を握り、社会のダイナミズムが失われています。たとえば中国の王毅外交部長(元駐日大使)などはノンエリートから這い上がっています。それに比して、日本では世界を俯瞰できるような優秀な人材が育っていません。
中川 教育の問題も大きいですね。
進藤 その通りです。近年、大学の年間授業料は国立で約53万円以上、私立で100万円を超えており、地方の優秀で意欲的な学生が必ずしも高等教育を受けられないという状況になっています。これでは社会におけるエリートの循環が起きません。日本は競争力において1990年代に世界でトップでしたが、今や38位にまで落ち込んでいます。
中川 私もまったく同感です。このままでは50位にまで転落しかねません。今こそ抜本的な政治・経済・教育の改革が必要です。
日本再生へのメッセージ「陽はまた昇る」
──日本が再び力強く躍進するために、まだ打つ手はあるのでしょうか?
進藤 私は最近、『陽はまた昇る』という本を書きました。日本人の潜在力にはまだ期待しています。鍵となるのは、第3次産業革命の先端をつかむことです。時代に即するのではなく、時代の先端をつかむ者同士が国境を越えて「連携」すること。これこそが新しい時代を切り拓く力になるでしょう。
【文・構成:茅野雅弘】
<プロフィール>
進藤榮一(しんどう・えいいち)
北海道生まれ。1963年京都大学法学部卒業。68年同大学院博士課程単位取得退学。鹿児島大学助教授、筑波大学教授、ハーバード大学、プリンストン大学などの研究員、早稲田大学客員教授などを歴任。法学博士、筑波大学名誉教授。現在はアジア連合大学院機構理事長、国際アジア共同体学会会長等を務める。専門はアメリカ外交、国際政治経済学。著書に『アジア力の世紀』(岩波書店)、『東アジア共同体をどうつくるか』(筑摩書房)、『アメリカ帝国の終焉』(講談社)など多数。近著に『陽はまた昇る』(花伝社)。
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島県生まれ。ラ・サール高等学校卒業。1959年東京外国語大学卒業、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学教授、東京経済大学教授、日本大学講師などを歴任。現在、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、名古屋市立大学特任教授などを務める。専門は国際貿易、ビジネスコミュニケーション論。編著に『知識情報戦略』(税務経理協会)など。








