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2016年01月19日 09:25

企業研究・LIXILグループ(中)~総帥の潮田洋一郎氏は古典芸能に造詣が深い粋人経営者

 (株)LIXILグループ(以下、リクシル)は、創業家出身の潮田洋一郎氏がキングメーカーであることを天下に知らしめたのが、三顧の礼で迎えた藤森義明氏をあっさりクビにした事件だ。潮田氏は古典芸能の目利きとして有名だが、生身の人間の目利きは不得手ということだろうか。希代の粋人経営者の人物像に迫る。

父親の健次郎氏は立志伝中の人物

 潮田洋一郎氏がグループ総帥の座に就いたのは、最大のサプライズだった。創業者である父親の潮田健次郎氏との確執は周知の事実で、父親は息子を経営者の器とは見なしていなかったからだ。

 1949年に、家業の建具商からスタートしたトーヨーサッシ(株)という小さなアルミサッシ会社を、一代で日本最大の住設機器メーカーに育てた健次郎氏は立志伝中の人物で、建材業界の「買収王」と言われた。トーヨーサッシはトステム(株)、(株)INAXトステムホールディングス、(株)住生活グループ、そして現在の(株)LIXILグループへと社名を変えてきた。
 健次郎氏の最大のM&Aは、2001年のトステムと衛生陶器の(株)INAXとの経営統合。持ち株会社、住生活グループ会長に就いた。06年には悲願だった売上高1兆円を達成。それを花道に引退した。そして、誰もが予想していなかった後継人事を断行した。長男の洋一郎氏を会長に据えたのだ。親子の葛藤から下馬評にものぼっていなかったから、あっけにとられた。

会社人間と肌が合わず趣味に走る

office01 洋一郎氏は53年12月21日、健次郎氏の長男として生まれた。77年、東京大学経済学部を卒業し、米シカゴ大学大学院で経営学修士(MBA)を取得。77年にトーヨーサッシに入社。支店長、営業部長、商品開発本部長、TQC本部長、経理財務担当副社長などを歴任。06年11月、代表取締役会長CEOに就いた。
 “親の七光り”でトントン拍子で出世したように見えるが、さにあらず。父親の振り付けに踊らなかった。勘と馬力で日本一のサッシメーカーを築いた健次郎氏の叩き上げ人生に対するコンプレックスからだろうか、洋一郎氏は商売一筋の父親とは対極の趣味に走る。その趣味はハンパではない。

 幼馴染の米倉誠一郎・一橋大学教授が、『日経ビジネス』(09年8月31日号)で、こう語っている。

 「幼馴染みと40数年ぶりに痛飲した。住生活グループを率いる潮田洋一郎君とである。数寄者・粋人にとなっていた彼の(歌舞演劇の)東西古典、小唄・長唄・鳴り物(歌舞伎で用いられる鉦、太鼓、笛などの囃子)、茶道具、建築にわたる学識と行動力に圧倒された」。

 古典芸能などの薀蓄は、“玄人はだし”と評されている。御曹司のステータスであるモータースポーツにも凝っていた。91年から3年間、自動車レースF3000に参戦した。
 洋一郎の趣味人ぶりには健次郎氏もほとほと困ったようで、一時は後継者に据えることを諦め、副社長から平取締役に降格させた。
 だが、血は水よりも濃い。健次郎が後継者にしたのは、やはり息子の洋一郎氏だった。平取締役の洋一郎氏を突如、住生活グループの会長兼CEOに就任させて、業界を驚かせた。

 洋一郎氏が趣味にのめり込みやすいことを熟知していた健次郎氏は、住生活の定款に「住生活以外の事業は行わない」という趣旨の異例な一文を入れた。洋一郎氏が10年秋、プロ野球横浜ベイスターズの買収に名乗り上げたとき、プロ野球進出は「住生活以外に手を出すな」という先代の意向に反するとして古参幹部の反発を招き、断念せざるを得なかった。

粋人の洋一郎氏がM&Aの達人に変身

 洋一郎氏の大変身に、業界が仰天するのは10年頃からだ。サンウェーブ工業(株)、新日軽(株)を立て続けに買収した。続いて11年4月1日に傘下の事業会社のトステム、INAX、サンウェーブ工業、新日軽、東洋エクステリア(株)の5社を統合した事業会社LIXILが発足した。社名の「LIXIL」とは、LIVIG(住)とLIFE(生活)からつくられた造語だ。持ち株会社の住生活グループがLIXILグループに社名を変更するのは、12年7月である。

 洋一郎氏は11年5月、住生活グループの5カ年中期経営計画(11年4月~16年3月)を発表した。16年3月期に売上高3兆円(国内2兆円、海外1兆円)、営業利益率8パーセントを目指す。とくに海外売上高は現在(400億円)の25倍となる1兆円にするとぶち上げた。
 「これはコミットメント(必ず達成しなければならない目標)ではなく願望」(アナリスト)と呆れさせた。趣味人の洋一郎のあまりの変わりように、業界首脳は「まるで投資ファンドが経営しているみたいだ」と驚きを隠さなかった。

プロ経営者を探してたどりついたのが、藤森義明氏

 今、振り返ると、洋一郎氏が大変身した舞台裏がわかる。洋一郎氏の背後には、振り付けする黒子がいた。それが藤森義明氏だ。自分が経営者に向いていないことを自覚していた洋一郎氏は、「資本と経営を分離」するために、プロの経営者探しに全力投球した。三顧の礼で迎えることにしたのが、藤森義明氏だった。

 藤森義明氏は05年1月、日本GE代表取締役会長に就いた。経済同友会に入会した彼に、社外取締役になってほしいというオファーが数多く寄せられた。住生活グループも、そのうちの1社だった。だが、GEの規則で、他社の取締役を兼務することはできなかった。
 すると住生活会長の潮田洋一郎氏から、「勉強会を開きましょう」と声をかけられた。以後2年間、アドバイザーとして毎月欠かさず勉強会に参加し続けてきた。
 トステムやINAXなど住設機器5社を「LIXIL」に統合する案は、「持ち株会社に複数の事業会社をぶらさげるより、1つにまとめた方が経営効率が良い」と藤森氏が助言し、洋一郎氏の背中を押した。

 洋一郎氏は10年、システムキッチンのサンウェーブ工業やアルミサッシの新日軽を買収した。
 「魅力的な会社になってきましたね」。M&Aを積極化した住生活の姿をこう評価した藤森氏に、洋一郎氏は温め続けていた考えをぶつけた。
s「面白いと感じるならば、この会社を経営してみないか」。藤森氏は、これまで会った経営者のなかで、群を抜いて変革の意欲が高いと思い、洋一郎氏の要請を受け入れたのだ。

 だが、蜜月は長く続かなかった。11年8月に藤森氏を社長に据えたが、2年後には社長交代を考え、今回、あっさりクビにした。熱しやすいが冷めやすい。粋人経営者、洋一郎氏の特質なのだ。

(つづく)
【森村 和男】

 
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