イスラエルとイラン、そしてアメリカ(2)イスラエルとアメリカ

福岡大学名誉教授 大嶋仁

 イスラエルとイランの衝突は、中東だけの問題ではない。そこにはアメリカの覇権、イスラエルの安全保障、イランの反米姿勢、ロシア・中国を含む国際秩序の変化が絡み合っている。本連載では、複雑な世界情勢を図式的に整理しながら、日本がこの対立構造をどう受け止めるべきかを、4回にわたって考える。

 1948年の建国以来、イスラエルはずっと戦争を続けてきた。それもそのはず、この国はイギリス領だったパレスチナのアラブ人の土地を、国連承認のもとに割譲された結果生まれた国だからである。

 前々からそこに住んでいたアラブ人にすれば、「よそ者」がいきなり自分たちの土地に入ってきて勝手に国をつくり、おまけに「自分たちこそ正当なこの土地の住民なのだ」という態度でいるのだから、堪ったものではない。紛争が起きて不思議はないのである。

 「よそ者」と言ったが、イスラエル人の大半はヨーロッパから移住してきたユダヤ人であるから、中東の文化的伝統とはかけ離れた存在である。しかも、ユダヤ民族主義に凝り固まった排外的シオニズムが国是となっているから、中東では完全に浮いた存在なのだ。

 もともとユダヤ人はユダヤ教を母体にした民族集団であったが、国家を持たず、世界のさまざまな地域に「離散」(ディアスポラ)していた。ところが、19世紀のヨーロッパ民族主義の影響でシオニズムという思想が生まれ、「自分たちも国家を持つべきだ」ということになったのである。

 しかも、シオニズムとナチズムは双生児である。ナチズムがドイツ民族の「純血主義」に基づいて他の民族に対して排他的になったように、シオニズムは「ユダヤ唯一主義」を打ち出している。そういうわけで、イスラエルはイスラエルを批判する輩を「反ユダヤ主義者」と見なし、ある種の「神国思想」を掲げてアラブ人たちに対峙するようになったのである。

 このようなことを述べても、イスラエル、シオニズム、反ユダヤ主義といったものになじみのない日本人にはピンと来ないだろう。多くの日本人は「イスラエル人=ユダヤ人」という図式を信じているが、大きな間違いである。イスラエルはこの図式を用いて、イスラエルを支持しない者は「反ユダヤ主義者」だと主張するのだが、シオニズムを批判するユダヤ人によれば、「反イスラエル=反ユダヤ」はイスラエルが自己正当化のために用いる「論理的な武器」に過ぎないのである。

 日本人にこのことがわかっていないのは、日本のメディアがイスラエルの宣伝を真に受けているからである。なんとも情けない次第だが、それが現在の日本の実力である。

 実際、ユダヤ人の中には「ユダヤの伝統とシオニズムは相容れない」という主張をしている者もおり、彼らにすれば、イスラエルのシオニストこそ「反ユダヤ的」なのである。イスラエルのパレスチナ人への蛮行が続くなか、「反シオニズム国際ユダヤネットワーク」(IJAN)や「ユダヤ平和の声」のような、反イスラエル=親パレスチナのユダヤ人組織も生まれているのである。

 以上から、世界のユダヤ人が一枚岩でないことがわかるが、イスラエルがアラブとの共存を不可能に近いものにしている現実は依然として変わらない。本来は国連の決議に従って「二つの政府」、すなわちユダヤ政府とパレスチナ政府とが共存すべきなのだが、事実上これは不可能となっている。

 イスラエルはパレスチナ人だけを目の敵としてきたわけではない。周辺のアラブ諸国全部が「敵」なのである。しかし、イスラエルは一連の戦争において大抵の場合勝利してきた。人口も少なく、国土面積も小さいのに、どうしてなのか?

 答えは簡単である。建国以来アメリカの援助を受けてきたからだ。とくに61年以降、アメリカは積極的にイスラエルの軍事援助を行ってきた。アメリカ在住のユダヤ人の中には、著名な言語学者チョムスキーのようにこれを非難する声もあったが、アメリカ政府は意に介していない。
 では、どうしてイスラエルをそこまで援助し続けるのか?

 これについては、「イスラエル・ロビー」の存在を考えなくてはならない。シカゴ大学のミアシャイマーによれば、このロビーを支えているのはアメリカ経済界の重鎮であるユダヤ人たちで、歴代のアメリカ政府は、彼らの強固なイスラエル支持を無視して何もできなかったというのだ。

 そもそもロビーとは「待合室」の意味だが、政治的な文脈では、「政治家や官僚が特定の団体の要望を聞く場所」といった意味で用いられている。このような場を利用して、「自分たちを優遇してくれれば、それだけの見返りを提供する」と持ち掛けるのがロビー活動で、普通の「陳情」とは規模が違う。イスラエル・ロビーとは、イスラエルの利益になるようアメリカ政府に働きかけ、多大な政治資金を調達する活動を指す。

 最近では、このイスラエル・ロビーの中に「福音派」と呼ばれるキリスト教徒がかなりの割合でおり、彼らはユダヤ人でないにもかかわらず強固にイスラエルを支持していることが知られている。アメリカでは「4人に1人」が福音派と言われているから、その影響力は絶大だといえるだろう。イスラエル・ロビーを支えてきたユダヤ人たちより、この福音派のほうが熱心にイスラエルを支持しているともいわれる。

 しかも、この福音派の多くがトランプ大統領の絶大な支持者であるという。そうなると、トランプはこの「呪縛」から逃れることは不可能で、イスラエルを支持し続けなくてはならないことになる。トランプは当初「自分は平和をもたらす人間だ」と言っていたが、一向にそれを実行できないでいるのは、そうしたロビーの圧力あってのことのようだ。

 イスラエルが建国以来戦争をし続けてきたことには、心理的要因もある。彼らの多くがナチスの強制収容所から逃れてきたユダヤ人とその子孫であり、ナチスによるユダヤ人の計画的殺戮(ホロコースト)のトラウマを引きずっているのだ。そのことから、彼らは過剰な自己防衛に走り、「自分たちの周囲には敵しかいない」という意識に傾いている。

 多くの戦争は、たとえそれが侵略行為であっても、これを「自衛」のためだと思い込むことで正当化されてきた。日本の過去を見ても、これはいえることである。日本の場合は西欧列強の圧力を跳ね返したい一心で、「自衛のため」に対外侵出をした。本当は別の目的があったのだろうが、事を起こす当人にとっては、「すべてこれ自衛のため」だったのである。

 ウクライナに侵攻したロシアにしても、ガザ地区やレバノンを攻め、さらにはイランにまで攻撃を仕掛けるイスラエルにしても、同じ「自衛のため」である。当人たちにとって、戦争はあくまでも「自衛」のためのものなのだ。

(つづく)

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