【鮫島タイムス別館(49)】自維連立に亀裂 麻生氏が阻む「高市・吉村合意」

 

 自維連立政権が軋んでいる。連立合意の柱である「衆院定数削減法案」と「副首都法案」について、高市早苗首相と吉村洋文代表が今国会成立を確認したのに、自民党のキングメーカー麻生太郎副総裁に「党首間の約束」を果たす気がまったくないからだ。

定数削減は維新の「連立入りの建前」

 定数削減は維新の「身を切る改革」のシンボルだ。昨年10月に連立政権に加わる「大義名分」だった。本拠地・大阪で激しく戦ってきた自民と組むにあたって、支持層を納得させるのに不可欠な「連立入りの建前」といっていい。

 自民と維新は昨秋の臨時国会で、国会の与野党協議が1年以内にまとまらなければ「小選挙区25、比例20」の45議席を自動削減する法案を共同提出したが、年明け1月の衆院解散で廃案になっていた。今国会では「比例のみ45削減」に変更し、改めて共同提出に踏み切ったのである。

 比例が45削減されると、各党の議席はどうなるのか。2月の衆院選比例得票を基に試算すると、自民は316議席から3減(削減率1%)、維新は36から5減(同14%)にとどまる。どちらも比例の割合がもともと少なく、かすり傷でしかない。

 これに対し、野党各党は壊滅的打撃を受ける。中道は49から15減(同31%)、国民は28から8減(同29%)、参政は15から8減(同53%)、みらいは11から3減(同27%)、共産は4から2減(同50%)、れいわは1からゼロ(同100%)。野党は左右の垣根を越え、反対で結束している。

 自民は衆院では単独で3分の2を占め、維新の協力も不要だ。しかし参院では維新を合わせても過半数に届かず、野党の協力なしに可決できない。野党の反対を振り切って今国会で成立させるには、参院で否決された後に衆院3分の2で再可決するしかない。

 けれども今国会の会期は7月17日まで。1カ月を切った。衆院で強行採決しても、参院でダラダラ審議されて採決してもらえなければ、衆院再可決ができないまま会期末を迎え、時間切れとなる。会期を延長すればよいが、自民の鈴木俊一幹事長(麻生氏の義弟)は早々に会期延長はしないと宣言。衆院再可決までして定数削減法案を成立させる気は見られない。

 麻生氏は公明嫌いで知られる。高市政権でキングメーカーに返り咲き、公明を連立から追い出すことに成功した。代わって盟友関係にある国民民主党を加えるつもりだったが、当時は玉木雄一郎代表が決断できず、その隙に維新が高市首相に接近して連立に滑り込んだ。

 高市首相はその後、維新との連立を強化し、麻生氏に対抗してきた。高市首相と吉村代表の「約束」に、麻生氏が手を貸すはずがない。むしろ国民民主の意向を受け入れ、定数削減にブレーキをかけるのは自然な流れだ。

副首都法案は維新の「本音」

 もう1つの副首都法案は、維新の悲願である。定数削減が連立入りの「建前」だとすれば、副首都は連立入りの「本音」といえる。

 維新は過去2度、大阪市を廃止する「都構想」の是非を問う住民投票を実施したが、2度とも否決された。維新創始者の橋下徹氏はこれを受けて政界を引退。吉村氏も二度と挑戦しないと語っていたが、一転して「三度目の住民投票」を来春の統一地方選に合わせて実施すると表明した。その切り札となるのが「副首都法案」のはずだった。

 副首都法案はあくまでも副首都機能を整備するためのもので、「大阪都構想」とは直接関係ない。だが維新はこの法案の附則に都構想の住民投票の区域を「市から府全域に拡大できる」という規定をねじ込んだ。露骨なルール変更で、今度こそ住民投票に勝利しようと目論んだのだ。

 高市首相はこれを了承し、自民と維新は「住民投票のルール変更」を含む法案骨子でいったん合意した。ところが自民党内は反対一色になった。「アンチ維新」の麻生氏の意向を察し、高市官邸に憚ることなく連立合意に反旗を翻したのだ。

 高市首相は6月22日、吉村代表と首相官邸で会談し、定数削減法案と副首都法案の今国会成立を確認する一方、副首都法案の附則については削除を要請した。自民党内の反発を抑え切れないと判断したのである。

 吉村代表はしぶしぶ受け入れた。この結果、来春の住民投票は大阪市だけで行うことになり、吉村氏自身も「可決はやや難しくなった」と認めた。けれども、高市首相が引きずり下ろされたら元も子もない。高市首相を守って維新が連立に踏みとどまるためにはやむを得ないと譲歩したのだ。

 その代わりに、高市首相から「都構想を含めた副首都構想を評価する」との言質を取り付けた。吉村代表は党首会談後、「首相は都構想に賛成した」と表明した。住民投票のルール変更に失敗したが、「高市首相の賛成」を追い風に勝負することにしたのである。

 ところが、自民党内からは「高市首相は都構想への賛成ではなく、副首都構想を高く評価した」(萩生田光一幹事長代行)という異論が続出。高市首相自身もあいまいな姿勢を続けている。これでは維新は一方的に押し切られただけに終わってしまう。

遠藤氏の「暴露」予告が迫る高市首相の決断

 昨年10月、高市首相と吉村代表をつないだ維新の遠藤敬国対委員長はついにブチギレた。自民党内から異論が続くようなら「(党首会談の)中身を全部申し上げる」とぶち上げたのだ。党首同士の「本当の約束」を暴露すると脅したのである。

 党首会談に同席したのは、自民が木原稔官房長官、維新が遠藤氏だった。両党の幹事長は同席しなかった。鈴木幹事長の義兄である麻生氏の「この会談に自民党本部は縛られない」というメッセージであろう。

 遠藤氏が会談の中身を「暴露」しても、麻生氏は何も困らない。むしろ追い詰められるのは、高市首相である。遠藤氏の「脅し」の対象は、高市首相といっていい。「党首間の約束」の確実な履行を露骨に迫ったのである。

 高市首相は麻生氏を振り切り、維新との約束を果たせるのか。それとも麻生氏に屈し、維新を切り捨てるのか。国会最終盤の最大の焦点は、連立政権の行方である。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝ら幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約18万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)、『政治家の収支』(SB新書、24年)。

新しいニュースのかたち│SAMEJIMA TIMES
Samejima Times YouTubeチャンネル
鮫島タイムス別館(NetIB-NEWS)

< 前の記事
(48)

関連キーワード

関連記事