NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、9月4日付の記事を紹介する。
世界最高齢と認定されている英国人のエセル・ケータラムさん(女性)が、去る8月21日、117歳の誕生日を迎えました。その日、ブラジル在住で世界最高齢の男性、ジョアン・マリーニョ・ネトさんからも祝福のメッセージが寄せられたそうです。
ケータラムさんは1909年生まれですが、2度の世界大戦、「タイタニック号」の沈没、ロシア革命、新型コロナウイルスのパンデミック等を経験。2020年には110歳で新型コロナウイルスに感染したそうですが、回復して今日に至っています。彼女の長寿の秘訣は「誰とも言い争いをせず、自分の好きなことをすること」のようです。
ちなみに、確認されている人類の最長寿記録保持者はフランス人のジャンヌ・カルマンさんで、1997年に122歳で亡くなっています。
一方、長寿大国と言われる日本では奈良県の賀川滋子さんが115歳で8月27日に逝去されたため、現時点では京都府の岸本ふよさん(明治44年生まれ)が114歳で国内最高齢者に認定されました。
いずれにせよ、世界各地で「人生100年時代」を象徴する長寿者が存在しています。昨年には、北京で習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が「150歳まで生きる」と長寿談義で盛り上がったものです。習氏もプーチン氏も健康管理には並々ならぬ努力と予算を投入しています。
そんな中、チェコに本社を置く新興企業のSomnium Spaceが世界から注目を集めているではありませんか。何しろ、「永遠の命」を提供するとの触れ込みです。同社の最高経営責任者アルトゥル・シチョフ氏は、数年前に父親をがんで亡くしてから、死後も故人の人格を保存する方法を探り始めたとのこと。
同社が開発中の「Live Forever」(永遠の命)モードはその成果として、ユーザーは自分の容姿や声、さらに人格まで模倣したデジタルアバターとして「生まれ変わる」ことができるといいます。
そのような目的を実現するため、同社は会員の許可を得て、会話や動作、顔の表情など、膨大な量の個人のデータを記録しつつあります。シチョフ氏曰く「私が死んだとしても、生前にこうしたデータを集めていたとしたら、私の子どもたちが訪れて、私の動作、私の声を持つ私のアバターと会話できる」。
このプロジェクトは「データの蓄積」と「AIによる再現」のフェーズに分かれて進められています。2023年からChatGPTなどの大規模言語モデルを活用し、メタバース内で会話ができるAIアバターの実証実験動画を公開。これにより、単なる定型文のチャットボットではなく、「本人の知識や話し方の癖」を持ったAIアバターとリアルタイムで対話する技術の土台が完成しています。
24年には希望するユーザーを対象に、自身の音声、頭部・手・目の動き、更には表情などのデータ収集・蓄積を継続して行っています。同社が自社開発した新型ハイエンドVRヘッドセット「Somnium VR1」は、このLive Foreverモードのために必要な高度なセンサーを標準装備する形で開発され、データの精度を大幅に向上させているとのこと。
BBCやSky Newsなどの大手海外メディアがチェコの本社を訪れ、実際に開発中のプロトタイプ(故人を模したAIアバターとVR空間で対面・会話する機能)の体験取材を行っており、技術的に「話しかければその人の声と動きで反応する」レベルまで実証が進んでいることが広く報じられています。
CEOのシチョフ氏は、「本人が亡くなった後でも、AIのベースモデルが進化すれば、過去に収集したデータをもとにアバターはより賢く、より本人に近づいていく」という拡張性を強みとして挙げています。
なお、技術が形になりつつある一方で、以下の2つの大きな課題に直面しており、慎重な調整が続けられているとのこと。
1つは「遺族がVR内で故人と会い続けることは、健全な悲しみの克服になるのか、それとも依存を強めて精神的ダメージになるのか」という倫理的議論が世界中の専門家から提起されています。
2つ目はプライバシーとデータ所有権の厳格化です。
同社はデータを広告主に売らないと明言しており、ブロックチェーン上に所有権を記録することで安全性を担保しようとしています。また、「本人がいつでも記録を停止・完全削除を要求できる権利」をシステム的に保証する開発も並行して行われています。
こうした課題を意識しながら、「永遠の命モード」はSFのコンセプトから、高度なAIとVRハードウェアを組み合わせた現実的なプロダクトへと着実に進化しています。遅かれ早かれ、いつまでも生き続けるアバターが誕生する時代になりそうです。とはいえ、本人とアバターの違いがはっきりしないことになれば、どっちが本物なのか、見極めがつかなくなるでしょう。厄介千万としか言いようがありません。
著者:浜田和幸
【Blog】http://ameblo.jp/hamada-kazuyuki
【Homepage】http://www.hamadakazuyuki.com
【Facebook】https://www.facebook.com/Dr.hamadakazuyuki
【Twitter】https://twitter.com/hamada_kazuyuki









