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2016年03月07日 07:01

文化論としての「アキバカルチャー」!(4)

インテグリカルチャー(株) 代表 羽生 雄毅 氏

ある種の「カウンターカルチャー」なのです

 ――前回、「アキバカルチャー」を正しく理解するキーワードとして、「サイバーカルチャー」という言葉をお聞きしました。「サイバーカルチャー」とはどんなものですか。

インテグリカルチャー(株) 羽生 雄毅 代表<

インテグリカルチャー(株) 羽生 雄毅 代表

 羽生 オタク文化と、今世界で流行している「グローバル・アキバカルチャー」は似て非なるものであるという命題を解く鍵は、「サイバーカルチャー」という言葉にあります。

 オタク文化と「グローバル・アキバカルチャー」は両方とも、アニメ・ゲーム・コスプレといった日本的なオタクコンテンツが目立ちます。しかし、前者が「数ある大衆文化のうちの1つ」という位置づけのサブカルチャーであるのに対し、後者は「メインストリームに対抗しよう」という明確なアイデンティティを持った、ある種の「カウンターカルチャー」なのです。この理解を誤ると、外国人との交流やビジネスなどで、誤解やすれ違いが生じます。

 1つのありうる例が、秋葉原でたまたま今流行しているコンテンツや文化を、世界の「OTAKU」が求めていると勘違いすることです。『機動戦士ガンダム』、『ドラゴンボール』、『スラムダンク』といったアニメやコミックにまつわる過剰な愛だったり、それらのパロディである同人誌を作ったり買ったりする行為だったり、登場キャラクターのコスプレをする活動だったり、フィギュアを購入することなどに代表される文化です。

 ところが、そのようなものが発売されても、国内や秋葉原でヒットしても、海外で不発だったりするのは、オタクやOTAKUの間ではよく知られています。その逆も然りです。ベースとなる文化が違えば、流行するコンテンツも違うのは当然です。また、コンテンツを通じて何らかのメッセージを伝えようとしても、そのコンテンツを解釈する文化的土台が違うので、発信者が想定したのとは違う文脈で伝わることになります。

内輪ネタと思われる「正体不明のコンテンツ」

 ではどのように考えたらよいのでしょうか。インターネットの世界には、「サイバーカルチャー(cyberculture)と呼ばれる独特の文化があります。サイバーカルチャーとはインターネット上で見られる特徴的な行動様式を指します、そこには、画面越しの人間関係やジャーナリズムの傾向、Eコマースの広告戦略など、幅広い意味が含まれています。日常的な用法としては、チャットルームやオンラインゲームで散見される言い回しや、流行の画像・動画など、趣味や娯楽の方面で多く使われます。例えば、「逝ってよし」「乙」「wwwww」などのネットスラングや、動画サイト・各種ブログで流行る、何らかの内輪ネタと思われる「正体不明のコンテンツ」が該当します。政治や思想など文化やエンターテインメント以外の場面で露出します。ごく最近では、米国大統領候補者選におけるドナルド・トランプのアニメ改造画像がネットには氾濫しています。

アップルの創始者、S.ジョブズもその一人です

 ――サイバーカルチャーと言う言葉は、浅学のため初めて聞きました。いつ頃から現れた現象なのですか。

 羽生 サイバーカルチャーの歴史はインターネット以前、1970年代にコンピュータネットワークが生まれた頃に遡ります。それ以来、若い世代を中心に取り込みながら、今も世界中に拡がり続けています。日本のオタク文化である「アキバカルチャー」はこのサイバーカルチャーに相乗りする形で、世界の「OTAKU」に拡散しているのです。

 サイバーカルチャーの源流へと時代を遡ると、1980年代のパソコン通信に行きあたります。パソコン通信の原点はBBS(Bulletin Board System)と呼ばれる電子掲示板サービスでした。BBSは当時、仲間内での連絡の場として使われていましたが、現在のインターネットと違い、利用するには、何よりもコミュニティの一員になる必要があり、さらにそれなりのITスキルが必要でした。しかし、そんな空間に真っ先に飛び込んだのは、自由を愛するヒッピーや、既存体制に対抗するカウンターカルチャーの支持者でした。アップルの創始者、スティーブ・ジョブズもその一人です。彼の有名なスピーチの一文、“Stay hungry,Stay foolish(ずっと無謀で)”は当時のヒッピーたちのバイブル的な雑誌『Whole Earth Catalog』に書かれた言葉です。サイバースペースは、その誕生の瞬間からカウンターカルチャーの秘密基地だったのです。

 こうしてBBSでは、カウンターカルチャーと内輪ノリを特徴とし、その理解には一定の知識や文化を共有する「高コンテクストな」文化、すなわち現在のサイバーカルチャーの原型が生まれています。「自分たちはその他大勢が知らない文化を知っている」という自負とその文化を共有する人たちへの「仲間意識」から自らを“leet(「エリート」)”というグループも現れました。

「アンダーグランドさ」も引き継がれていく

 いよいよ1990年代中盤に入ると、インターネットの時代が始まります。この時に、パソコン通信からインターネットへのユーザー大移動が起き、このサイバーカルチャーはインターネットへと引き継がれていくのです。サイバーカルチャーの精神を色濃く残すものの筆頭が、アメリカの有名なギーク系ニュースサイト『Slashdot(スラッシュドット)』や日本の匿名掲示板『2ちゃんねる』です。この時に、サイバーカルチャーとしての「アンダーグランドさ」も引き継がれていきます。

 そして、この「アンダーグランドさ」と「内輪意識」が後に海賊版アニメの大量流通と
OTAKUコミュニティ発生という形で、アキバカルチャーの大ブレイクへと繋がっていくのです。さらに2000年代後半入ると、動画サイトやSNSの登場によって、一般人の動画や二次創作物のような商業以外の日本コンテンツも注目を浴びるようになり、ギーク、ゲーマー、アニメオタク、コスプレイヤーと、様々な人たちが集まる「グローバル・アキバカルチャー」という全世界文化圏が生まれたのです。そして、今まさにこの文化と共に育った世代が社会に進出し始めているのです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
hanyu羽生 雄毅(はにゅう・ゆうき)
インテグリカルチャー(株) 代表。
 1985年生まれ。2006年オックスフォード大学化学科卒業。2010年同大学院博士課程修了。
在学中は科学ソサエティー会長やアジア太平洋ソサエティーの委員を務める。帰国後は、東北大学と東芝研究開発センターを経て2015年にインテグリカルチャー(株)を設立。日本初の人工培養肉プロジェクト「Shojin meat Project」を立ちあげる。その一方で、オックスフォード大学在学中から、2ちゃんねるやニコニコ動画のヘビーユーザーであり、帰国後も同人誌即売会やイベントなどの「オタク活動」を行っている。

 
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