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2016年03月25日 09:51

米国による米国企業のための日本国家戦略特区!(3)

立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏

国家戦略特区はトップダウン型で進められている

 ――前回、日本の国家戦略特区は「異形の特区」で、その理由の1つとして、指定地域の域内総生産の合計が日本のGDPの5割を超えるというご指摘をいただきました。他にも異形と思える点はありますか。

 郭 もう1つとても奇妙に思えるのは、「規制緩和」に関する政策決定のやり方です。
 本来、各自治体の規制緩和は地域の側から手を挙げ、「こういった規制緩和をしてくれれば、これだけの経済効果をあげられる」とPRし、それを行政の側で認めて実現していくものです。あくまでも、地域主導であることが成功するための必要条件となります。
 近々の小泉政権下の「構造改革特区」、菅政権下の「総合特区」も全て、ボトムアップ型で推進されています。しかし、安倍政権の「国家戦略特区」は、唯一トップダウン型なのです。

狐につままれたような戸惑いを見せていた

 ――なるほど、トップダウン型ですか。該当地域の取材で、当事者が「指定されたけど、何をしていいか分からない」という、狐につままれたような戸惑いを見せていたこともあったので、不思議に思っていました。

立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏<

立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏

 郭 国家戦略特区は、まず安倍政権が下記のような規制緩和のメニューを策定するところから始まります。

・外国人への医療サービス提供の充実(外国人医師の国内医療解禁、病床規制の見直し等・有期労働契約期間:5年)の延長(契約型正規雇用制度の創設等)・都心居住促進のための容積率・用途等集団規制の見直し・羽田空港国際化のための羽田・成田離着陸割り当ての柔軟化(羽田への国際線割り当てと成田への国内線割り当ての交換促進)・有料道路運営の民間への開放(コンセッション方式の導入)・公立学校運営の民間への開放(公設民営学校の解禁)、海外トップスクール誘致のためのインターナショナルスクールの設置認可要件等の見直し(国内校との競争条件の同一化)・農地流動化のための農業委員会の関与の廃止等・先進医療等の保険外併用療養の範囲拡大(評価実施体制の柔軟化等)(国家戦略特区ワーキンググループで検討された規制改革事項案より引用)

 そして、これらの規制緩和のメニューに見合った事業提案をした区域を指定するという政府指導のトップダウン型で推し進められるのです。

改革反対は悪で既得権益維持者は抵抗勢力である

 ――過去のSEZ(特別経済区)では、ほとんど例がないと言われましたが、なぜ、安倍政権は地域主体のプロジェクトを敢えてトップダウン型で進めようとしているのでしょうか。

 郭 安倍政権は国家戦略特区の実像はどうあれ、規制緩和を大義名分とするために、該当する分野の現行システムを「岩盤規制」と名づけ、社会にとって攻撃すべきターゲットという意識を国民に植えつけようとしているのだと思います。日本には「改革は善で正義の味方」や「改革反対は悪で、既得権益維持者は抵抗勢力」というステレオタイプの発想が根強く残っています。

 安倍政権にとって、規制緩和したい岩盤規制という分野がまずあり、それを打ち壊すために国家戦略特区構想があるのが実態です。要するに、規制緩和のための規制緩和と言えると思います。

 岩盤規制とは、医療、農業、教育、雇用など、1980年代の中曽根政権から始まった日本の新自由主義路線にあっても緩和が先送りされてきた分野の規制を指します。それは、医療、農業、教育、雇用という分野は公共性が高いので、日本ではこれまで、「国民生活の向上」という国家の目的を考えれば、その行方を市場原理だけに委ねることは許されないと考えられていたのです。
 このような岩盤規制に対する攻撃が国家戦略特別区域諮問会議で行われたのが2014年1月で、その4カ月後の5月に安倍政権は6区域の国家戦略特区を認定しています。これらの地域では、医療、農業、教育、雇用という分野が、規制緩和の大きなウエイトを占めています。

安倍政権の考える国益は「国民の利益」ではない

 私はよく申し上げるのですか、国益と言うのは、多くの日本国民にとって、「国民の利益」を指しています。しかし、安倍政権がいう国益とは、安倍総理の考える「国家の利益」のことを指しています。安倍政権は、国民生活の向上という目的を捨てて、どこか別のところへ向かっているように、私には思えます。

 安倍総理のいう「世界で一番ビジネスがしやすい環境」とは、労働基準法などが整備されていなかった時代、あるいは人権意識が希薄で搾取が横行する開発途上国のようなものではないだろうか、とさえ思えてしまいます。それは、国家戦略特区構想は、日本を途上国並みの労働環境に逆戻りさせてしまう危険性をはらんでいるからです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
kaku_pr郭 洋春(カク・ヤンチュン)
1959年7月生まれ、立教大学経済学部教授。専門は、開発経済学、アジア経済論、平和経済学。著書として、『韓国経済の実相─IMF支配と新世界経済秩序』(柘植書房新社)
『アジア経済論』(中央経済社)、『現代アジア経済論』(法律文化社)、『開発経済学―平和のための経済学』(法律文化社)、『TPPすぐそこに迫る亡国の罠』(三交社)、『国家戦略特区の正体』(集英社新書)。共著として『環境平和学』(法律文化社)、『グローバリゼ―ションと東アジア資本主義』(日本経済評論社)、『中国市場と日中台ビジネスアライアンス』(文眞堂)、その他多数。

 
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