2024年04月24日( 水 )

アートフェア東京2018 グローバル化が進む美術!(後)

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東京画廊  山本 豊津 代表取締役社長

絵画は究極の資産であり、投資の対象になる

 ――アートフェア全体を俯瞰していただく前に、まず「アートと資本主義」に関して教えてください。

 山本 私は資本主義と美術に関する拙著『アートは資本主義の行方を予言する』(PHP新書)と『コレクションと資本主義』(共著 角川新書)を出版したことで、最近は政党や経済団体の文化振興に関する勉強会に呼ばれることが多くなりました。絵画が究極の資産であり、投資の対象になることが知られてきたからです。今まで、資産と言いますと不動産と株が中心でした。しかし、金利ゼロが20年以上続き、ついにマイナス金利になりました。また、マンションなどは住民の総意がないと建替えができないので、資産になりにくい面があります。

 一方、絵画の値段というのは、あってないようなものだと言われます。たとえばゴーギャンの『ナフェア・ファア・イポイポ(いつ結婚するの)』は、1m四方程度の大きさですが、約355億円です。しかし、制作原価のキャンバス代と絵具代は2万円ぐらいなので、約175万倍にもなっています。年末ジャンボ宝くじにしても、中央競馬(JRA)にしても、こんなに価値が上がるものはほかにありません。さらに、絵画は片手で持てますが、355億円は1万円札だと約3.5t、金塊にすると約7tになって持ち運びができません。ここにも、富裕層を中心に広く、絵画が資産として注目される理由があります。

作品・価格を比較検討でき、安心して買える

 では、なぜ近年になってとみにアートフェアが注目されるようになったのでしょうか。今まで、アート作品を買う場所といえば、ギャラリーかオークションハウスでした。しかし、数年以上前から、その役割がアートフェアにとって代わられつつあります。アートフェアは一言でいえば「アートの展示即売会」です。3~4日の会期中、コンベンションセンターや見本市会場に設えられた、数百のギャラリー・ブースを目指し、世界中からコレクターが集まってきます。主要なアートフェアには、厳選されたギャラリーしか出展が許されません。また、会場では数千点の作品を比較検討できるので、安心して買うことができます。アートフェアに世界のギャラリーが集まり情報公開することで、美術価格のグローバルスタンダード化が進むのです。今や、世界の主要都市では、毎月、毎週のように、アートフェアが開かれ、その数は増加傾向にあります。

最高水準は毎年スイスで開催のアートバーゼル

 ――山本さんは「アート東京2018」閉幕後、すぐに「アートバーゼル 香港」に飛んでいますね。世界のアートフェアに関して教えていただけますか。

 山本 数あるアートフェアのなかで、出展ギャラリーや訪れるコレクターの顔ぶれ、展示作品のクオリティーなどあらゆる面において、最高水準にあるのは、毎年スイスで開催される「アートバーゼル スイス」(商圏はEUを中心に北アフリカや東欧など)です。今世界のアートの商圏は大きく3つに分かれています。そのため、アートバーゼルは第2の周縁である米国では、「アートバーゼル・マイアミビーチ」(商圏はアメリカを中心に中米、南米など)を、第3の周縁である中国では「アートバーゼル 香港」(商圏は大陸・台湾・香港を中心に日本や韓国、東アジアなど)を開いています。この3大商圏に世界の500‐800の画廊が集結します。

ヨーロッパの画廊が中国の富裕層をターゲットに

 ――お帰りになられたばかりの「アートバーゼル 香港」はいかがでしたか。

 山本 「アートバーゼル 香港」(3.29‐3.31)では、東京画廊は弟の田畑幸人が北京にオープンしているB.T.A.P(BEIJING TOKYO ART PROJECTS)とブースを構えました。会場の雰囲気は、明らかにヨーロッパの画廊が中国人の富裕層をターゲットにしていたように見えました。中国人と言っても、大陸(北京、上海など)以外に、香港、台湾、シンガポール、インドネシアなど周辺国の華僑を含みます。アートバーゼル香港には、厳選されたギャラリーが248軒しか出展できません。しかし、同期間中、市内では複数のアートフェアが開催、合計するとわずか1週間の間に、世界から500を超えるギャラリーがやってきていました。さらに驚いたのは、香港に常駐するヨーロッパの画廊がたくさん増えたことです。1棟丸々ヨーロッパからの画廊だけが入っているビルもありました。

中国では、国家をあげて文化政策に取り組んだ

 ――中国の美術市場規模は、今や米国に続いて2番目で、米国を抜くのも時間の問題と聞きます。

 山本 中国では、国家をあげて文化政策に取り組んでおり、美術館の建設やアートフェアの開催など、美術振興に力を入れています。経済が発展し、お金が余るようになると、最初に値段が上がるのが土地です。しかし、中国は共産主義国家で、土地は国家の所有物です。そこで、余ったお金は必然的にほかの投資、証券、ないしは美術品に流れるのです。

 オークションによるアーティスト別年間落札合計金額では、アンディ・ウォーホルやパブロ・ピカソを押さえて、中国の画家、張大千(ジャンダーチェン)や斉白石(チーパイシー)などが上位を占めることが多くなりました。また、アートの市場でも、美術品のマーケットシェアは中国が23億1,760万ドル(35.5%)で第1位、アメリカは17億4,885万ドル(26.8%)で第2位、ついで、イギリス(21.4%)、フランス(4.6%)、ドイツ(1.6%)と続きます。(「2016年上半期世界美術品市場報告」フランス・Artprice社)

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
山本 豊津(やまもと・ほづ)
 東京画廊 代表取締役社長。1948年東京生まれ。1971年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014年、15年、18年に「アートバーゼル 香港」、2015年に「アートバーゼル スイス」へ出展して、日本の現代美術を紹介。アートフェア東京のシニア・アドバイザー、全銀座会の催事委員など多くのプロジェクトを手がける。2002年には、弟の田畑幸人氏が北京にB.T.A.P(BEIJING TOKYO ART PROJECTS)をオープンした。主な著書として、『アートは資本主義の行方を予言する』(PHP新書)、『コレクションと資本主義』(共著・角川新書)など。

 
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