2024年04月25日( 木 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(18)

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V.2018年の日本経済

海外経済依存の景気回復

 次は2018年の日本経済です。このレジュメは政府見通しの「2018年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」という資料から取っているわけです。細かい計数は後で見ていただきたいと思います。景気は概要としまして、政府の見通しは、海外経済の回復と政策効果が相まって民需を中心とした景気回復だと言っています。民需を中心としてということは、政府支出で景気を支えることはないということであります。公共投資については予算上もあまり付いていないのです。物価につきましては需給の引き締まりでデフレ脱却に向け前進するとしております。

 リスクについては、1つは海外経済の不確実性、もう1つは金融資本市場の変動を上げていますが、実はこれは昨年と同じなのです。一昨年もおそらくこんなことが書いているのですね。それぞれあまり大した意味がなく書いてあるのかもしれませんが、海外経済の不確実性について今年は、意味があるような気がします。これは少数説ではありますが、よくご覧いただきますと、輸出、輸入という貿易の計数の面ではそれほど貢献しているようには見えませんが、我が国の経済の現在の全体はかなりの程度に好調な海外経済に引っ張られているというのが実態ではないかと思います。そういう意味でレジュメのこの項目の最後のほうの「今年の経済の方向」の(4)に「海外経済が左右」と書いていますが、今は海外経済が引っ張っているのが実態ではなかろうかと思います。

わかりにくい政府の経済財政運営

 計数の説明は省略いたしまして、この「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」の中の「経済財政の運営の基本的態度」に何か書いているかを少しご紹介しようと思います。現役の時から20年以上経った者のコメントだということで割り引いて聴いていただく必要はありますが、いろいろ思うところがあるわけです。何が書いているかというと、「今後の経済運営に当たっては引き続き経済再生なくして財政健全化なしを基本とし、600兆円経済の実現を目指す」と。これが今の経済財政運営の基本的な態度なのですね。われわれは経済運営の目標が600兆円であるべきかという議論は少なくとも民間エコノミストの間ではあまり聞かないように思います。ここになぜ600兆円経済を目指すのか、それがなぜ意味があるのかということの説明があるべきだろうと思いますし、600兆円経済を目指すというなら「いつまでに」といったことが必要だろうと思うのです。

 そういう意味で、とにかくいきなり600兆円経済の実現が大事だと書いてあって、その前提に「経済再生なくして財政健全化なし」と書いている。これは「財政健全化は後回しでいい」と言いますか、「経済の活性化が先だ」と書いているのですね。あとでご覧いただくとおわかりのように、来年度の予算は今のように景気が良いと言っている時期においても、30数%、借入金で賄っているのです。こういう時に簡単に「経済再生なくして財政健全化なし」つまり「財政健全化が後だ」と割り切ってしまって良いのかというのが、財政節度派の感想であります。

 そして、次にその目的実現のための手段が書いてあります。そこではまず、「少子高齢化という最大の壁に立ち向かうため、生産性革命と人づくり革命を車の両輪として2020年に向けて取り組んでいく」と書いています。生産性革命と人づくり革命でこれを実現すると書いていて、それらを少子高齢化という最大の壁に立ち向かうためにやるというのですね。まず目的があって、手段があって、なぜそれが手段として結び付くかという話があるはずなのですが、そういうことはないのです。だから、もし私が担当課長であれば、こういうことは書かないと思います。まあ、それなりの事情があるのだとは思うのですがね。

 いずれにしましても、目標は600兆円経済の実現であって、手段がいきなり生産性革命と人づくり革命だというのです。そういう話があって、今度は社会保障制度のことが書いてあります。「成長と分配の好循環により国民全体が成長を享受できる全世代型の社会保障制度により、子育てや介護に対する不安なしに、誰にでも活躍の場があり、お年寄りも若者も安心して暮らすことができる社会を目指す」と。要するに社会保障制度の目指すところがここに書いてあります。

 そして、次に「財政健全化については基礎的財政収支の黒字化を目指すという目標を堅持し、同時に債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す」と書いてあります。昔は、と言いますか3、4年前までは、プライマリーバランスの黒字化目標堅持を目指すと書いたら、「何年までに」ということを明記していましたが、これがないのです。ということで、オールドタイマーから見ますと相当いろいろ議論の余地がある経済運営の態度ではないかというふうな気がするわけであります。

(つづく)

 
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