2024年05月01日( 水 )

復旧・復興の歩みは道半ば、熊本地震被害・インフラ復旧の現状(後)

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下水道復旧工事、完了までかなりの時間が

 熊本市の水道は発災後、1回目の大きな揺れにより、水道水源である井戸96本のうち、69本で濁りが発生。約8万5,000戸が断水した。その2日後に2回目の地震が発生。すべての井戸の水が濁り、すべての取水を緊急停止した。夜間に水を貯める前だったため、配水池の水量が少なかったことや主要管路の損傷が重なり、一時的に約32万6,000戸、全戸断水を余儀なくされた。水道管も被害を受けた。市内全域約4割分の水を供給する秋田水源地からの口径1,350mm配水管が漏水したほか、沼山津水源地から高遊原配水池を結ぶ口径800mmの送水管も漏水。市内2,213カ所で給水管の漏水も発生した。断水の解消は、地震の発生から約2週間後の4月30日。今回の被害を教訓に、主要配水区間の補給管を二重化し、機能強化を図るため、新たに配水管の布設を計画している。

 下水道の被害は、約2,566km(15年度末時点)ある管路延長のうち約47.4km。地震による液状化の影響で、管路にたわみが生じ、汚水が流れにくくなったものの、幸い機能停止には至らなかった。被害を受けた管路は工事発注単位で28件。16年11月から管路の布設替えに着手している。液状化対策としては、従来の山砂ではなく、砕石による埋め戻しを実施。18年5月時点で工事完了したのが11件で、施工中が13件、未契約が4件となっている。「布設替え工事は、全箇所で1日100m程度しか進まない。すべての工事完了までには、時間がかかる」としている。

災害復興住宅に300億円超、19年度の完成を目指す

 熊本県内の災害復興住宅は、12市町村1,735戸を整備予定。設計・工事などに着手済みなのは1,270戸(5月時点)で、19年度完成を目指している。設計未着手分は、建設地の選定などを進めているところだ。とくに家屋被害が大きかった益城町では、680戸を整備予定で、7団地358戸の設計に着手している。大規模な団地は、事業主体である町がUR都市機構と協定を締結。URが設計施工を担当し、完成後、町が住宅を買い取る。

 県全体の復興住宅に必要な総事業費はまだ確定していないが、300億円を超える見通しだ。6月上旬に、県内最初の災害公営住宅が西原村で完成。今年度中に11市町村で30団地、635戸が完成予定だ。

 一方で、まだ建設地を選定できていない自治体もある。19年度完成を目指すには、時間が非常に限られていることから、今年度の早い時期に、具体的な整備方針をまとめる必要がある。県としては、民間の買い取りなど早期に整備着手できる方法を市町村に促し、建設ペースを加速させたい考えだ。

県代行で区画整理着手、課題は住民合意が得られるか

 震源地に近かった益城町は、町役場庁舎が被災するなど、大きな被害があった。現在は仮庁舎で業務を行っている。同町は16年12月、「住み続けたいまち」などをスローガンとして、復興計画を策定した。熊本県は、同町における復興事業として、「県道熊本高森線の4車線化事業」や「益城中央被災市街地復興土地区画整理事業」に着手した。これらの事業は、地震前から実施の要望を町が行っていた。

 県道熊本高森線の4車線化事業については、16年12月の住民説明会を経て、17年2月に都市計画道路益城中央線として都市計画が決定し、17年10月から用地交渉に着手している。対象となった路線は、もともと緊急輸送道路として指定されていたが、地震時に倒壊家屋などにより通行不能となるなど、防災面での課題が確認された。今回の道路整備により、渋滞対策と併せて、防災上の機能向上も図る。県では、益城町の復興を牽引する復興事業と位置づけている。

 土地区画整理事業は通常、基礎自治体の市町村が行う。益城町では、復旧・復興事業が膨大にあり、財政的、人員的にも対応が難しいことから、県に対して支援を要望。17年11月に、県が町の土地区画整理事業を県施行として実施することを蒲島郁夫知事が表明した。都市計画決定案は、一度、町都市計画審議会で否決されたが、県と町の個別訪問による説明で賛同を得た後、18年3月に同町が区域の都市計画決定を行った経緯がある。

 県は4月、土地区画整理事業や4車線化事業の加速化を目指し、県央広域本部土木部の下に益城復興事務所を開設。職員約40名体制で益城町の復興に当たっている。土地区画整理事業予定区域内では、道路や公園用地の先行買収に着手。4車線化事業の事業期間は着手から概ね10年を目指している。土地区画整理事業については、今年秋ごろを目指している事業計画の大臣認可で定まる予定だ。

地震を契機に高まる中九州横断道路を求める声

建設中の阿蘇大橋

 県管理の国道・県道で、通行止めは最大111カ所。今年4月末時点の通行止めは8カ所で、現在復旧工事に着手中。このうち、6カ所は橋梁で、2カ所は大規模な法面崩壊と道路崩壊の復旧工事である。橋梁被害は51橋。震源に近い地域に架かる橋が多くを占めた。このうち、阿蘇大橋など7橋については、国代行で復旧を進めており、県で復旧工事を進めている橋梁は軽微な補修対応箇所を除き37橋。被害箇所で多いのは、橋台の損傷や橋面の損傷。復旧工事が完了しているのが13橋で、工事着手中が20橋、契約待ちが4橋残っている。

 地震被害を機に、県では、熊本県と大分県を結ぶ中九州横断道路の整備の必要性を指摘する声が高まっている。中九州横断道路が開通していれば、現在も通行止めが続く57号の代替ルートを確保できていた、というわけだ。中九州横断道路の建設は、大分県側ではすでに一部開通しているが、熊本県側は未開通だ。県の担当者は、「道路のネットワークにおけるリダンダンシー(多重性)の向上が急務だ」と話す。中九州横断道路への早期着手を含め、代替道路建設による緊急時の機能強化は、県にとって大きな課題になっている。  

(了)
【大石 恭正】

 
(前)

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