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2018年08月22日 07:02

「家族」という名のまぼろし その2(後)

大さんのシニアリポート第69回

 また「家族」という考えかたを下支えしていたのは、「儒教的思想」である。「儒教では、身近なところから、徳を段階的に広げることを教えの原理にしている。まず、社会の基本単位としての『家』があり、家の原理を共同体レベルに広げ、さらに国家にまで拡大することで、『徳治政治』が実現できると説く。儒教が、ときに『家の宗教』とよばれるのもそのためだ」(『常識として知っておきたい日本の三大宗教 神道・儒教・日本仏教』(歴史の謎を探る会「編」)。戦後の核家族化で家(家族)が崩壊し、「家の宗教」である儒教的思考も衰退した。

 ジャーナリスト・青木理の『日本会議の正体』(平凡社新書)に、東京都杉並区議会議員(現在4期目、日本会議東京都本部理事、日本会議首都圏地方議員懇談会副会長)の松浦芳子氏へのインタビュー記事があり、その内容にひどく興味をひかれた。
 「当面の最大目標は、やはり憲法改正ですか」という青木氏の質問に、松浦氏は「そうですね。(憲法に)緊急事態条項がないのはやっぱり危ない。それに、家族の規定も(憲法に)ないでしょう。いま、家族が崩壊しそうになっている。家族は社会の一番大切な単位であって、家族がしっかりすれば、社会も良くなると私は思っていますから」(59ページ)と答えている。

 「崩壊しそうな家族を再興する」―松浦氏が頭に描いている家族像は、(戦前の)家父長を中心とした家族制度なのだろう。そこには紛れもなく「長幼の序」などの儒教的思想が存在する。その儒教思想は現在では、もはや「家という単位」では存在しない。存在しない幻の家族像を追い求めていくその先に見えてくるのが、「社会の基本単位としての『家』があり、家の原理を共同体レベルに広げ、さらに国家にまで拡大することで、『徳治政治』が実現できる」(同)という天皇を頂点とするヒエラルキーに到達する。

 その萌芽はある。小・中学校で授業に取り入れられた「道徳の時間」がそれである。「児童生徒が、生命を大切にする心や他人を思いやる心、善悪の判断などの規範意識などを身に付けること」(文科省)と美しい文言が並ぶが、戦争を体験している人たちの目には道徳教育の裏側に潜むものに危機感を覚えるに違いない。「新しい家族の復権」は、「儒教的思想」の復権にもつながる。
 「儒教がそもそも、社会の倫理や規範を整えて理想的な社会を築こうとする思想である」(同)ことを考えれば、国家的秩序の維持を最優先させた戦前、「君臣の義」(主君と家臣は正しい義《道徳・倫理にかなっている》で結ばれている)と「長幼の序」とは日常生活に深く浸透していた。戦前の道徳教育は儒教の精神そのものだった。

 「江戸時代以降の伝説のいくつかについては、高齢者が一軒家に集住し、互いに助け合いながら生活し、そして死を迎えたという。すなわち、今でいう『セルフヘルプグループ活動』『コーポラティブハウス』がすでに近世のムラ社会には存在していた可能性が高いのである」(ネット/考えるイヌ~桜井政成研究室~)のように、私が次回作で提唱する「新しい家族像」が上記のようなものであったとしても、「ムラ社会」=「地域共同体」(この場合の「地域共同体」というのは、行政区域という意味)であるかぎり、日本会議や現政府などが目論む「超国家主義的思想」に絡め取られる可能性が高い。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

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