2024年04月20日( 土 )

教育の本質は、認め、尊重し、『社会で役立つ』ように導くこと~立花高校校長×新開ゆうじ対談(4)

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好きであること

 ──新開さん、同じ音楽専門家としていかがでしょうか。

 新開 私は高校時代に声楽家を夢見て音楽大学に進学しました。音楽大学では技術的なことから音楽理論、歴史・宗教や語学など幅広く学びました。さまざまな学びを背景にして自由に音を感じ、表現する事、たとえば同じ曲を歌い、演奏したとしても人それぞれで同じものにはなりません。カラオケでもそうでしょう?それぞれの表現が、そのまま個性として光輝くことが音楽のすばらしいところだと思います。また、「子どもたちに大きな声で元気よく」といえば皆楽しそうに歌います。そこに音符の取り扱い、曲の背景や歴史などを含めて「こうあらねばならない」という型のなかでの教育から本来の音楽の「楽しさ」を失ってほしくないと思います。何をやるにも一番大切なことは「好きである事」。好きだから続くんだと思います。

 興味をもって一生懸命に取り組む経験は後の人生に必ず役に立つと思います。斎藤校長がおっしゃってある「立花高校の子どもたちは、光をあてようとするよりも、光そのものになってほしい」という言葉はまさに音楽を通じて経験できます。貴校のパイルアップもさることながら「ワールド」と表されている子どもたちの自主性を引き出す授業のカリキュラムは、まさに子どもたちの個性を尊重したものだと思います。

 齋藤 それぞれの人々が輝く権利を、残念なことに大人が奪っているケースが、教育現場では多々見られます。ただ、私は画一的な教育を全面的に否定しているのではありません。それらによって、国内のあらゆる規律・秩序が遵守されていることは事実です。一方で、当校に入学する子どもたちのように、ややゆっくりとした教育を受けて、社会に巣立つ人材を個性として受け入れられる─オーケストラで例えると、主役級の楽器ではなく、トライアングルという1つの音を極める人材になっていくことです。つまり、今できることで社会に貢献できる「そのままでいい」という人材が、認められ受け入れられることが大切です。

 新開 おっしゃる通りですね。私が代議士時代に「歌って」とお願いされても、色んな制約で自由に歌うことはできませんでした。政治の世界から離れて、趣味で歌うようになってからは思い通り歌えて楽しいです。もし今の気持ちがあれば、音楽を仕事にしていたかもしれません。何かに取り組む時には、まず「好きであり続けること」が尊重されます。確かに世の中では、勝ち負けの連続を経験することになるのですが、「好き」であれば、社会の厳しさや勝負の荒波も乗り越えられるのではないでしょうか。その「好きであること」を尊重している齋藤校長と貴校教職員の方々の取り組みこそ、今の時代に必要だと確信しています。

 齋藤 音楽用語で“アレグロ”という言葉があります。日本では、「速い速度で、軽快に演奏せよ」という意味で使われています。イタリアでは、「楽しい、陽気な、快活な」「太陽の光を浴びよう」という意味です。私の出身高校は、カトリックのミッション系で、初代校長はイタリア人で、休み時間に「アレグロ!」と叫んでいたと言われています。つまり「外で楽しんで遊ぼう」ということです。ありのままを正しく伝えていくことが大切ですね。

(つづく)
【聞き手:弊社代表取締役 児玉直、文・構成:河原 清明】

<プロフィール>
齋藤 眞人(さいとう・まさと)

1967年宮崎県佐土原市生まれ。宮崎大学教育学部(現・教育文化学部)卒。宮崎県の公立中学校の音楽教員を経て、2004年(学)立花学園立花高等学校(福岡市東区)教頭として赴任。06年から校長、10年6月から理事長兼務。同校は、1人ひとりの人格を尊重した自立支援教育が特色である。その教育現場での活動を題材にした─「いいんだよ」は魔法の言葉─とする齋藤校長の講演会は、小中高PTA、地域自治会や各教育関係のみならず企業経営やマネジメントの立場からの依頼も多数寄せられ、全国各地で開催されている。福岡県私学協会副会長および福岡地区支部支部長。トロンボーン奏者でもある。

<プロフィール>
新開 ゆうじ(しんかい・ゆうじ)

1968年8月22日福岡市生まれ。92年3月国立音楽大学音楽学部声楽科卒。音楽教諭免許取得。家業である老舗珈琲専門店「シャポー」入社・勤務を経て、パティシエとして渡仏。97年帰国。2002年に福岡青年会議所に入会し、同所常任理事を歴任後08年理事長就任。10年衆議院議員(当時)古賀誠氏秘書を経て、12年12月16日第46回衆議院議員総選挙の自由民主党比例九州ブロックで初当選し、14年11月21日までつとめた。テノール声楽家としても舞台やライブにて活動。

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