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2018年11月16日 16:43

【寄稿】乙武洋匡が出会った「福岡発・スゴ腕13歳」

 「乙武さんのお話を福岡のみんなに聞かせたいので、ぜひ僕にサイン会と講演会を開かせてください」

 SNSを通じてそんなメッセージをくれたのは、福岡市に住む13歳の少年だった。私自身、じつに3年ぶりとなる新刊『車輪の上』(講談社)刊行を記念して、都内でサイン会やイベントへの登壇が重なっていた時期。そんな活動の様子をSNSで見てくれていた彼が、「ぜひ福岡でも」とラブコールを送ってくれたのだ。

 地元の小学校で初めて講演なるものをしたのが20歳の時。以来、1,000本近くの講演会をしてきたが、「13歳が主催」というのは、ちょっと記憶にない。不思議な高揚感と、少しの戸惑い。ひとまず、マネジメント事務所に相談してみることにした。

「なんとか実現してあげたいですね」

講演会を主催した、けんとくん(13)

 事務所からの返答は、私の予想に反してじつに前向きなものだった。そこから先は事務所のスタッフと“主催者”中井けんと君とでやりとりしてもらった。その結果、私とスタッフ2名分の交通費を負担してもらうという条件で開催が決まった。

 驚かされたのは、そこからだった。私たちの間で開催が決まったその2時間後には、けんと君から「会場を押さえました」との連絡が……。博多駅から徒歩7分。100名を収容できる会場だという。事務所スタッフが調べてみると、少なくとも8万円ほどかかる会場。13歳は、即断してしまったのだ。

 さらに1時間後。いつの間にか参加者を応募するための告知ページが完成していた。そこには「参加費2,000円」の文字が……。しかも今回は『車輪の上』サイン会も兼ねているため、書籍代1,620円が別にかかる。つまり、参加者は合計3,620円を支払わなくてはならないのだ。

 もちろん、我々はあくまで「呼ばれる側」であり、価格設定などはすべて主催者側であるけんと君に委ねられる。とはいえ、ここ数年における世間からの“嫌われっぷり”を肌で感じている我々としては、かなり強気の価格設定のように感じられた。彼の前のめりともいえるスピード感には脱帽するしかないが、この価格で100名を集めるのは、いささか無謀なのでは–—と不安を覚えずにはいられなかった。

 そんな不安をさらに増幅させる情報が耳に入る。サイン会&講演会が開かれる11月11日(日)は、なんと福岡マラソンの開催日。さらに大相撲九州場所の初日ともバッティングしているというのだ。市民総出で楽しむようなイベントが同じ市内で開催されるというのに、はたして100名もの集客が可能なのだろうか。私とスタッフはまるで我が子を案じるかのような心境で、彼の宣伝・集客活動を見守ることにした。

 ところが、私たちの予想を覆して、けんと君は驚異的なペースでチケットを売りさばいていく。実は、彼は今年8月にも「こどもばんぱく」という子ども向けのワークショップを主催していて、なんと1,000人もの参加者を集めていた。つまり、彼にはすでに大人・子どもを問わず何人ものファンがついており、彼の周囲には緩やかなコミュニティーが形成されていたのだった。

 そうした“けんと君を応援する人々”がSNS上でイベントの告知をしてくれたり、彼と一緒に商店街を回ってチケットの手売りを手伝ってくれたり。チケットが驚異的なペースで売れていった背景には、そうした人々の存在があったのだ。そして開催前日、けんと君から「ついにチケット100枚が完売しました」との知らせが届く。もう、なんと表現したらいいのかわからないほどの喜びが腹の底から湧き上がり、思わずこの短い両腕を突き上げてバンザイしてしまった。

 迎えた当日。彼が用意してくれた会場は、はたして100名を超える参加者の方々でいっぱいになった。小さなお子さんを連れたご家族から品のいい老婦人まで、まさに老若男女。改めて彼のパワーに恐れ入った。13歳の中学生がこれだけのことを成し遂げたのだという事実に、お招きいただいた私が感激してしまった。

講演する乙武洋匡さん
講演会にはたくさんの聴衆を集めた

 お会いして初めてわかったことだが、彼は脳性麻痺で足に障害があった。小学生の頃からバスケが大好きで練習も頑張っていたが、やはり周囲と同じようなプレーはできない。そんな時に『五体不満足』と出会い、「僕より障害が重いのにバスケをしている人がいる!」と感激し、いつか話を聞いてみたいと思ってくれていたそうだ。

乙武さんとけんとくん

 ——でもさ、けんと君。会場費や100冊分の書籍代、それから僕らの交通費。全部合わせると、きっと30万円以上かかるよね。そのリスクは怖くなかった?

「僕、ずっと不登校だったんですけど、その時に『人生終わったなあ』と思ったんです。そこから、もう怖いものなんてなくって」

 末恐ろしい13歳。そんなけんと君には、胸に抱いている夢があるという。

「マイナスをプラスに変えたい。かんたんなことではないかもしれないけど、それが僕の夢なんです」

 マイナスをプラスに変える。うん、とっても共感できるよ。そんな社会を、一緒につくっていこうね。

<プロフィール>
乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)

大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、教育に強い関心を抱き、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年2月には東京都教育委員に就任。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』は映画化され、自身も出演。続編小説『ありがとう3組』も刊行された。主な著書に『だから、僕は学校へ行く!』、『オトことば。』、『オトタケ先生の3つの授業』など。2014年4月には、地域密着を目指すゴミ拾いNPO「グリーンバード新宿」を立ち上げ、代表に就任する。2015年4月より政策研究大学院大学の修士課程にて公共政策を学ぶ。

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