2024年04月20日( 土 )

カルロス・ゴーン、裏切りの代償~日産に君臨した独裁者はなぜ墓穴を掘ったのか(前)

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 帝王、皇帝、独裁者、カリスマ、ワンマン――。日産自動車を追われたカルロス・ゴーン前会長は、これらの異名をもつ。世界の自動車業界を震撼させた“ゴーン・ショック”については、おびただしい数の論評がなされている。そのリーダー像から、ゴーン容疑者の「失敗の本質」を探る。

西川社長はブルータスか

 フランスのメディアは、日産自動車代表取締役会長カルロス・ゴーン容疑者の逮捕を、衝撃をもって報じており「日本人の陰謀」などと日本を激しく批判している。
 講談社が発行するオンライン雑誌『COURRiER Japon』(11月20日付)は、フランスのメディア各紙の報道を日本語訳で伝えた。右派の日刊紙『フィガロ』は、「西川社長は“裏切り者か1?”」という記事を掲載した。記事は次のような内容だ。

 〈ローマ帝国の歴史が好きな彼ならば、わかっていたはずだ。皇帝は常にブルータスの類いに気をつけねばならないのである。
 11月19日、栄光の極みにあったカルロス・ゴーンが、側近の1人だった日産のCEO西川広人氏によって失墜させられることになった。
 ゴーンは2016年、自分より半年ほど年上の西川に日産の経営を任せたとき、こう語っている。「彼が考えることは、私も考えること。彼がすることは、私もすることだ」
 はたして誰が裏切ったのか。日本の司法から有罪の判決が出ればゴーン容疑者が裏切ったということになるのだろうか。それともこのチャンスを狙って思いがけないクーデターをやり遂げた西川氏なのだろうか〉

 古代ローマ末期のユリウス・カエサル(かつてはジュリアス・シーザーという英語読みが一般的だったが、近年はラテン語原音で表記されていることが多い)暗殺は、歴史上で最も有名な暗殺だ。終身独裁官という地位を得たカエサルは紀元前44年、元老院で暗殺された。その際、刺客のなかに腹心の部下であったブルータスが含まれているとみるや、「ブルータス、お前もか」と言い残して絶命したと伝えられる。
 だが、カエサルを暗殺したブルータスは政権の座に就けなかった。共和制の元老院派と独裁制のカエサル派が激しく争い、カエサルの養子アウグストゥスが勝利。ここから帝政が始まる。カエサルの名は皇帝の称号そのものとなった。歴史の皮肉である。
 自主経営派の日産はゴーン容疑者の後任の会長職を経営統合派の仏ルノーに与えないと言っている。古代ローマの歴史に倣えば、クーデターで権力を握った日産経営陣の思惑とは逆の結果になることもあり得る。さて、どうなるか。

ゴーン容疑者のリーダー像は西欧型皇帝の典型

 カルロス・ゴーン容疑者は、どんなリーダーだったのか。哲学者、梅原猛氏の著書『将たる所以 リーダーたる男の条件』(光文社)を基に、ゴーン容疑者のリーダー像を記す。
 梅原氏は、西洋的リーダーは、次の5点が重要と指摘する。
・リーダーは明確な意志をもたなければならない。
・リーダーには時代の理念が乗り移らなければならならない。
・リーダーは孤独に耐えなければならない。
・リーダーは人間を知り、人間を愛さなければならない。
・リーダーは自分の意志を自分の表現で伝えなければならない。

 組織には必ず支配・被支配の関係ができ、リーダーが必要になってくる。そのリーダーは明確な意志をもたなければならない。明確な意志をもたない人間は、明確な意志をもった人間に支配される。ゴーン容疑者は、明確な意志をもって権力を一手に握る皇帝型リーダーである。調整型が多い日本のリーダーとの大きな違いだ。
 時代が、その時代の直面している課題を解決する人間を生み出す。日産は倒産の瀬戸際に立たされていた。解決の権化として登場したのがゴーン容疑者だ。
 リーダーは決断しなくてはならない存在であり、常に孤独である。何百人、何千人、何万人の組織の長として神のみぞ知る運命の役割を担わなければならない。だが、日本人は孤独に弱いという性質がある。「和を以て貴しと為す」といった和を尊ぶ社会だからだ。ゴーン容疑者は和の精神とは無縁だった。
 何かを成し遂げようとするときには、敵と味方ができる。リーダーは、自分にとって味方であるか、敵であるかを一目で見分けなければならない。ゴーン容疑者は、敵とみなしたら、どんな有能な人物でも切り捨てた。
 ゴーン容疑者は自分の言葉で、自分の意志を伝えた。ゴーン容疑者の日産改革のキーワードは「コミットメント」。目標の達成に責任を負って約束すること。数値で具体的目標を設定し、「未達ならば辞める」と公言した。目標とは、努力目標ではなく進退を賭した必達目標。経営者の辞書にある「目標」の意味を根底から変えた。ゴーン容疑者は皇帝型リーダーとして日産を再生させた。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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