2024年03月29日( 金 )

今、糸島に進出するメリット 産業団地への期待と課題

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 「前原IC南産業団地」は、約36.4haの広大な敷地をもつ糸島屈指の産業拠点。その名の通り、西九州自動車道・前原ICに隣接しているという交通アクセスの良さを強みとして、主に工業・流通業に携わる企業が拠点を置く。さらに糸島市では、北産業団地や西産業団地などの新設も進行しており、市として新たな産業の創出のために企業誘致に力を入れている。

選択肢を増やした地区計画

 糸島市の主な産業は農業だ。豊かな自然が育む農産物は、市が推し進める広報戦略「ブランド糸島」の顔であり、今や東京でも通用する糸島の強みである。しかし、就農人口は年々減少しており、農産物の販売金額が年間50万円以上の販売農家の数は2000年の1万1,769人をピークに、15年には6,050人とほぼ半減している(『平成29年版糸島市統計白書』参照)。市民が地元で働き、暮らしていくためには、新たな産業の創出が求められているのだ。

 「前原IC南産業団地」(以下、南産業団地)は、製造業の集積を高めることで、所得の向上・就業機会の提供を促進すべく策定された「前原インターチェンジ南地区 地区計画」によって誕生した産業拠点。九州大学伊都キャンパスとの連携も視野に入れられており、開発場所として、糸島市中心部だけでなく福岡市内や西九州にも交通アクセスが良い前原IC隣接地が選ばれた。開発面積は約36.4haで、倉庫や工場の建築が優先されるA地区(約11.6ha)と、研究施設など学術研究都市づくりに資する建物の建築が優先されるB地区(約24.8ha)の大きく2エリアに分かれる。

 A地区には、10年にケーキ製造・販売業者の五洋食品産業(株)が進出。約5,500m2を取得し、旧工場の3倍の生産能力を誇る大型工場を稼働させている。翌11年には、花や農産物の運送を主に手がける(株)イトキューが同エリアに本社を移転。200台分の駐車スペースに加え、空調倉庫や事務所内に60人収容可能な会議室も設置するなど、単なる移転にとどまらない機能拡充をはたした。このほか、(株)福岡市民ホールサービス、(株)松浦重機、富士食品(株)などが糸島に拠点を新設する際、進出場所として南産業団地を選択。さらに、18年11月には食肉販売・加工業者の(株)幸栄物産が同じく工場の新設を発表。19年1月7日の着工を予定し、同年8月末引き渡しを計画している。

ICを中心に進む団地開発

 南産業団地を皮切りに、IC周辺エリアでは産業団地の開発が続く。18年12月現在、区画分譲中なのが「前原IC地区北産業団地」(以下、北産業団地)だ。地区計画として、学術研究エリアとともに誕生した南産業団地と違い、北産業団地は糸島市として初となる産業団地としての単独整備事業で、開発面積は約2.9ha(進出企業数・規模に応じ、最大7.5haまで拡張可能)。市は、農水産関連業者や食品製造業者を誘致することにより、市内の生産農家と連携した新ブランドの開発を進めたい意向で、この目的は順調に果たされている。

 18年7月、北産業団地への進出第一号として、水産加工業者の(株)やますえが工場の新設にともない市と立地協定を締結。21年の操業開始を予定しており、新たに30名弱の雇用が生まれる見込みだ。また、インターネット通販コンサルティング業者、(株)QuestP’age(クエストページ)も同産業団地への進出を決めている。

 南産業団地、北産業団地に続いて計画されているのが、IC西側の「西産業団地(仮称)」(約4ha)。さらに、民間と協力して、西九州自動車道の隣接地で「前原西部・二丈武・二丈松国地区産業団地」の開発も構想されている。このように、糸島市の求職者にとっては、地元で働くための選択肢が確実に増えてきている。

期待と課題

 矢継ぎ早に打ち出され、実行されてきた産業団地の整備だが、進出企業にとってのメリットとは何か――。

 補助金や税金の免除など、公のサービスは利用に関しての条件が多く、その効果も一過性のものでしかない。各団地を産業の拠点として定着させるためには、IC隣接という交通アクセスの良さだけでなく、糸島に拠点を置くことの魅力を、進出を検討している企業側にどれだけ伝えていけるかが、今後ますます重要になる。

 糸島市は九州大学と提携して「九州大学サイエンスパーク構想」を進めている。これは、米国シリコンバレーにある「スタンフォード大学リサーチパーク」や、英国の「ケンブリッジ大学サイエンスパーク」などに見られるような、大学の周りに最先端の技術研究を行う研究機関や企業を集積させることで、大学の研究を加速させるとともに、地域や社会に新たな雇用やビジネスを生み出そうという取り組みだ。この構想は糸島市だけでなく、福岡市西区をも巻き込んだ大規模なまちづくり計画となっており、民間企業にとっても新たな商圏に先行して投資する動機付けになるだろう。

 糸島市における産業団地の整備も、この大きな枠組みのなかで進んでいる。こうした構想を、もっと具体的な計画案として落とし込み、そのなかで企業側のメリットもうまく打ち出していければ、産業団地に対する期待感や進出意欲も自ずと高まっていくだろう。そのために、産業団地周辺の新たな基幹道路の整備なども含めた具体的な青写真を描き、それを実現に導いていくことが、市には求められる。

【代 源太朗】

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