2024年04月18日( 木 )

地域の計画が保証されない時代に突入 今こそ“人ありき”に戻るべき

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九州工業大学大学院工学研究院 建設社会工学研究系
准教授 徳田 光弘 氏
(一社)リノベーションまちづくりセンター 代表理事

 日本各地で都市が縮小していくなかで、かつてのようなハードに頼らないまちづくりとはどのように進めていけばいいのか――。(株)北九州家守舎の創立メンバーの1人であり、(一社)リノベーションまちづくりセンターの代表理事も務める、九州工業大学大学院工学研究院准教授の徳田光弘氏に専門家としての意見を聞いた。

地域に眠る経営資源

 ――まちづくりの在り方が今、ハードに依存しない方向に進んでいるように感じられます。

 徳田 昨今、国策としてコンパクトシティや立地適正化計画が進められていますが、今はそうした地域の計画というのが、何ら保証が利かないような時代に突入していっているのではないかと考えています。時代の流れは我々が考えている以上に速く、何らかのイノベーションによって、当たり前とされている社会の常識も即座に覆されてしまいます。たとえば、20~30年くらい前にはスマートフォンの登場なんて予想だにしていなかったと思いますが、スマートフォンによって我々の生活スタイルも変わりましたし、都市の構造さえも揺るがすような事態になっています。

 そのなかで、私が専門家として今、大きく着目すべきところを挙げると、やはり“人ありき”だと思っています。今後、距離や地理などの物理的な土地の“縛り”を軽々と飛び越えるようなイノベーションが起きる可能性は十分にあるわけで、通貨が仮想化したように、都市だって仮想化することはあり得ます。ただし、人間本来の姿というものは、おおよそ変わることはないでしょう。

 そこで今、各地でやるべきことは、人々が何をやりたいのか、そのやりたいことをできる地域をつくっていく―。それが、都市を大きくする・小さくするということよりも大事だと思っています。

 ――規模の大小ではなく、そこで人が何をするか、何ができるか、と。

 徳田 その最先端はおそらく、田舎といわれる地域になると思っています。都会では、資本主義のなかでの経済システムによって成り立ってきた都市像というものを、どうしても継承せざるを得ません。一方で田舎は、いわゆる人口減少下という状況を最先端で受け止めており、どのようにして地域を持続させるか、それがすでに現実として模索されている地域だからです。

 そもそも経済活動ないし地域の活動というのは、何らかの価値交換によって行われており、その価値交換が地域内で循環することによって、地域を持続させてきました。一方で、田舎では今、貨幣価値以外の交換が行われており、もしかしたら、そこにブレイクスルーポイントが潜んでいるかもしれません。都市の大小を論点とするのではなく、そもそもその地域にどのような資源が眠っているのかを意識すべきでしょう。

 地域を1つの経営組織として見た場合、その経営資源は主に「人」「モノ」「コト」の3つに分かれますが、そのなかで最も重要なのは、明らかに「人」です。だからこそ、人に焦点を当てたうえで、その観点から地域をもう一度見直していかなければなりません。今までの都市というのは、匿名性でできていました。結局のところ、誰かのためではあっても、誰のためにもならないというような、いわゆる“虚像”をつくってきたわけです。そうした時代は、すでに終わりを告げてしまっています。

誰が地域の責任者か

 ――これまでの都市計画は、グランドデザインの策定ありきのようなところがありました。

 徳田 私は都会で起きている再開発事業に対して、否定的でも肯定的でもなくフラットではあるのですが、今までの都市計画のフェーズから大きく変わってきているということは、再度認識し直すべきではないかと思います。これまでの都市計画というものは基本的に行政主導で、それは社会インフラをつくっていくということに対しては重要に働きます。ですがその一方で、地域間競争戦略で見た場合は、“自らの手で自らをレッドオーシャン化させていく”戦略を打たざるを得ません。たとえば、1つの自治体が「ゆるキャラ」をつくって成功例ができたら、どこもかしこもそれを模倣してゆるキャラが乱立し、あっという間にレッドオーシャン化してしまいました。

 地域を経営として見た場合、本来であれば、ブルーオーシャン戦略を生み出さなければなりませんが、そこは行政にとって非常に苦手な分野です。そのため、そうした部分でいかに民間との連携によってブルーオーシャン戦略を築き上げていけるか―それに尽きると思っています。一方で、行政は、行政にしかできないことをやるべきで、それが何かというと、生活弱者対策や福祉・医療・教育など、基本的にブルーオーシャン戦略を行うことが得意な人たちが苦手なことを、よりイノベーティブにやっていくことではないでしょうか。

 計画づくりで大事なのは、「誰が責任を取るのか」ということです。現在の都市計画は残念ながら、失敗したところで誰も責任を取りません。自分がやりたいと思ったことを、自分の責任で、自分でやっていくというが、本来的な地域の在り方です。結局のところ、まずは自分たちの地域に、どのような人たちがいるか、何をやりたいと思っているか、ということを見ていくことが重要で、今一度“人ありき”に戻るべきなのではないでしょうか。

【坂田 憲治】

<プロフィール>
徳田 光弘(とくだ・みつひろ)

1974年、福岡市生まれ。(一社)リノベーションまちづくりセンター代表理事。博士(芸術工学)、一級建築士。2003年3月、九州芸術工科大学(現・九州大学)大学院博士後期課程修了。03年4月より鹿児島大学工学部助手、助教を務め、09年1月より現職。

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