2024年04月17日( 水 )

北九州市が斜面地の居住制限を検討 地価下落懸念も「理解できる」(前)

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高齢化や人口減少に直面している北九州市では、災害発生の危険性が高い一部の斜面住宅地について居住を制限する検討に入った。頻発する自然災害への対応という防災面の課題と、人口が減少するなかでの行政サービスの効率化という2つの課題に対応するのが狙い。こうした北九州市の新たな取り組みは、人口減少社会における都市再生の新たな手法となり得るのか――。


安全・安心のまちづくり

 今回、北九州市が検討を始めたのは、災害発生の危険性がある斜面住宅地について、区域区分の見直しにより都市計画区域における「市街化区域」から、開発が制限される「市街化調整区域」へと編入するというもの。たとえ市街化調整区域に編入されたとしても、即座に立ち退きを要求されるわけではなく、既存の住民はそのまま住み続けることができるが、その一方で、新たな住宅の建設や既存建物の建替えなどは一定の制限がかかる。これは長期的スパンで斜面住宅地の住民を減らしていき、やがてはゼロにしていこうという取り組みだ。

 ここでいう「市街化区域」とは、すでに市街地を形成している区域、もしくは概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域のことであり、「市街化調整区域」とはそれとは逆に、市街化を抑制すべき区域と定義されている。今回、北九州市が検討しているような市街化区域を市街化調整区域に再編入することは“逆線引き”と呼ばれており、日本ではこれまで一部自治体で、開発されていない山林などで実施された事例はあるものの、住民が居住していない地域が対象だった。北九州市のように、政令指定都市であり、なおかつ住民が現役で居住している斜面住宅地を対象とした検討は、初の試みとなる。

 北橋健治・北九州市長も、19年1月9日に行われた定例記者会見で「安全・安心のまちづくりを進めるうえで、行政としては、災害のリスクが高い地域に新たな住民を増やさないようにするとともに、より安全で安心な地域への居住誘導を決断していかなければなりません」(抜粋)とコメント。今回の取り組みを前向きに進めていく方針だ。

きっかけは西日本豪雨

 北九州市は、約94万人(19年2月現在)の人口を抱える福岡県下で2番目に大きい都市であり、政令指定都市でもある。だが、その市域は市街地の大部分が海と山に挟まれ、平野部に乏しいという地勢上の特徴をもっており、高度経済成長期などの都市の拡大期においては、山の斜面にまで住宅地のスプロール現象(都市が無秩序に拡大してゆく現象)が進行。その結果、市内の各所にいわゆる斜面住宅地が形成されており、今なお多く残されている。

 こうした斜面住宅地では、人口減少により、建物の老朽化や空き家の増加による治安の悪化、移動の問題を抱える高齢者の増加など、さまざまな問題を抱えている。とくに、政令指定都市のなかでも最も人口減少や少子高齢化の進行が早い北九州市においては、斜面住宅地を中心に、住宅市街地の低密度化や地域活力の低下が進むことで、厳しい財政状況下での市民生活を支えるサービスの提供が困難になることが想定されていた。

 こうした状況も踏まえて北九州市では、03年に策定していた「北九州市都市計画マスタープラン」を18年3月に改定。今後の急速な人口減少などを見据え、福祉や交通なども含めて都市全体の構造を見直すことで、地域の活力を維持・増進して持続可能な都市を実現する「コンパクトなまちづくり」を推進していこうとしていた。

 そうしたなか、18年7月に「西日本豪雨」が発生した。北九州市内でも門司区奥田の斜面住宅地で土砂崩れが発生して住民2名が亡くなったほか、市内407カ所でがけ崩れが発生。そのうち315カ所は市街化区域内であり、その約9割にあたる281カ所が斜面住宅地で発生したもの。斜面住宅地における災害発生リスクの高さが、改めて露呈したかたちとなった。

 こうした豪雨災害による被害の発生を鑑みて、北九州市では改めて急傾斜地・土砂災害警戒区域などにおける住宅開発の抑制の必要性を認識。18年10月に、市街化区域と市街化調整区域の区分の見直しに関する検討を進める旨を発表した。

 検討にあたっては、学識経験者などの有識者で構成される「区域区分の見直しのあり方に関する専門小委員会」を設置。全4回を予定している専門小委員会の第1回目が、18年12月20日に開催された。

専門小委員会での審議

 北九州市においては、市内の都市計画区域4万8,865haのうち、市街化区域が2万529ha、市街化調整区域が2万8,336haとなっており、市街化調整区域の多くは主に八幡東区や門司区、小倉南区、若松区などの山間部や農地に集中している。

 北九州市建築都市局都市計画課では、12月20日の専門小委員会の開催に先立ち、「安全性」「利便性」「集積性」「社会環境」「経済性」「自然環境」という6つの指標を基に、独自に市街化区域から市街化調整区域への見直し候補地の抽出を実施。国交省による都市構造評価の評価指標や数値基準を参考として評価基準を定め、それに基づいて評価・集約し図示した(図参照)。結果として、6つの指標による総合評価が高い地区(図中の赤~オレンジ部分)は、主に八幡東区・若松区・門司区などの市街化区域縁辺部に集中していることが示された。

 これについて、都市計画課の上村周二課長は「これは議論の対象となる場所がどこかを明示しやすくするために、あくまでも簡易的に抽出したものであって、見直し地域を示すものではありません」とコメント。現段階では、専門小委員会での検討の俎上に載せるための参考資料の1つに過ぎず、総合評価が高い地区だからといって、必ずしもその地区が市街化調整区域への見直し対象の候補地というわけではないという。

 「北九州市ではこれまで、都市計画マスタープランや立地適正化計画の策定など、段階的にコンパクトなまちづくりの推進のための検討を重ねてきました。その背景にあったのは、人口が減少していくなかで、いかにして都市の活力を維持し、行政サービスを効率的に提供していくのかという、ある種の危機感からです。そこにきて、18年7月の豪雨災害により、市内各所でがけ崩れなどが発生したほか、市民の尊い命も失われてしまいました。やはり今後、市民にとっての安心・安全のまちづくりを進めていくうえでは、災害の発生リスクの高い斜面住宅地に新たに人を住まわせていくことは、あまり望ましくありません。そのため、既存の住民の方々のご理解も得ながら、今回の斜面住宅地の市街化調整区域への見直しを検討していく次第です」(上村課長)。

 第1回目の専門小委員会での審議を経て、市では1月中旬に斜面住宅地の住民1,000世帯を対象としたアンケートを実施。斜面住宅地の住民の意見や要望を集約していく。

 今後はアンケート結果に加えて、パブリックコメントや公聴会を経て、19年10月に開催予定の第4回専門小委員会で「区域区分見直しに関する運用指針」を取りまとめ、それに沿うかたちで、22年3月ごろまでに「区域区分見直しに関する運用指針」の策定と最終の見直し候補地の決定を行っていく計画だ。

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(つづく)
【坂田 憲治】

(後)

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