2024年03月19日( 火 )

「原発再稼働」に垣間見る『日本病』とは!(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 1月15日の記者会見で原発について「再稼働をどんどんやるべきと思う」と語った、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)の発言の火の粉が、約3カ月経った現在も消えない。それどころか燃え上がってきた。その理由は、その数週間前の年初の報道各社とのインタビューで、3.11 以降、東日本の原発が一基も稼働していないことを例に挙げ、「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」と語っていたからだ。この豹変ぶりには驚くが、いったい何があったのか?原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟は今週も経団連に公開討論会を申し入れたが拒否されている。

 村田光平・元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授に聞いた。村田氏には『原子力と日本病』(朝日新聞社)という名著がある。同書は約17年前、福島原発事故を遡ること約9年前に出版されている。これを読むと、おそらくすべての読者は「福島原発事故は“想定外”などではなく“人災”だった」ことに気づくだろう。

元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授 村田 光平 氏

IPPNWドイツ支部は「放射能五輪」のキャンペーンを展開

 ――本日は今大きく揺れている「原発再稼働」問題、その背景にある「日本病」などについてお聞きしたいと思います。まずは、原発の今を簡単に俯瞰していただけますか。

 村田光平氏(以下、村田) 日本政府は福島の3.11を経験しながら、その教訓を忘れ、まるで何事もなかったかのように振舞っています。また、残念なことですが、日本国民においても3.11を遠い過去の1シーンと思っている人が増えてきました。しかし、それは日本だけの話です。マスコミにはほとんど報道されていないのですが、海外では今、「2020東京オリンピック」を迎えるにあたり、「福島3.11問題」が大きく再燃しています。

それは、“under control”(安倍首相の五輪招致演説「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまでおよぼしたことはなく、今後とも、およぼすことはありません。……」のなかで、英語では“under control”という文言が使われた)を信じている心ある識者は、現在となっては世界にほとんどいなくなったからです。選手にとっても、観客にとっても、今後何十年にもわたっての健康被害が心配されています。まして、福島第一原子力発電所の廃墟からわずか50kmしか離れていない福島市で野球やソフトボールの競技を開催するなどは論外というわけです。

 一例ですが、ノーベル平和賞を受賞したIPPNW(核戦争防止国際医師会議)※ドイツ支部では、「放射能五輪」と銘打ち、日本の放射能の真の現状を伝える国際キャンペーンを大きく展開しています。それに同調する団体も、「2020東京オリンピック」が近づくにつれて加速度的に増えてきました。また、IOC(国際オリンピック委員会)のBach会長には、IPPNWをはじめ、各国の団体から、“under control”を再検証するようにとの要求が届いておりますが、無視され続けております。また、アメリカ東海岸やカナダの住民(議員を含む)の間でも、「福島3.11問題」は大きな”issue ”(議論されるべき問題点)になっています。専門家の話では関東地方より、より多くの放射能がこれら海外の地域に降り注いでいる資料も存在すると言われています。

震度7クラスの地震で崩壊、放射能で東京も住めなくなる

 ――ところで、福島第一原発は今どのような状態になっているのでしょうか。

 村田 政府と東電の廃炉工程表では、最長で40年の事故処理を終える計画を堅持しています。(年間約700億円の費用がかかっている)しかし、現実的には事故収束はまったく見通せない厳しい状況が続いています。傑出した専門家は「福島第一原発2号機の建屋および、すでに損傷している排気筒が震度7クラスの地震によって崩壊すれば、その結果、放射能が拡散し東京も住めなくなる」と警告しています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>

村田光平(むらた・みつへい)
 1938年東京生まれ。1961年東京大学法学部を卒業後、2年間外務省研修生としてフランスに留学。その後、分析課長、中近東第一課長、宮内庁御用掛、在アルジェリア公使、在仏公使、国連局審議官、公正取引委員会官房審議官、在セネガル大使、衆議院渉外部長などを歴任。96年より99年まで駐スイス大使。99年より2011年まで東海学園大学教授、現在、東海学園大学名誉教授、アルベール・シュバイツアー国際大学名誉教授。
 著書として、『新しい文明の提唱‐未来の世代へ捧げる‐』(文芸社)『原子力と日本病』(朝日新聞社)『現代文明を問う』(中国語冊子)など多数。


【IPPNW】核戦争防止国際医師会議
各国の医師で構成、医師の立場から核の脅威を研究し、核戦争に反対する組織。1980年に設立、本部はボストン。1985年にノーベル平和賞受賞。~日本政府に対し、国連人権理事会の要求(福島の避難者の権利強化など)を迅速に行動に移すように呼びかけている。ある幹部は日本の「原発問題」と「東京五輪」は表裏一体の関係にあることを指摘し、事故処理の収束のメドが立つまで東京五輪を延期するよう提案している。

(中)

関連キーワード

関連記事