2024年04月23日( 火 )

支持された『ブランド糸島』の実績と期待される深化

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 1月28日に投開票が行われた糸島市長選挙。2期目に挑む現職の月形祐二氏(59)と、新人で前・糸島市議会議員の高橋徹郎氏(50)の一騎打ちは、最後まで予断を許さない熾烈な戦いとなった。票を投じた市民からの信任を受けて勝利したのは、糸島で過ごす時間そのものに価値を与えようとする試み「ブランド糸島」を推進し、たしかな実績を残してきた月形氏だった。

現職、月形氏の実績

 月形氏は2014年2月に糸島市長に初当選した。1期4年の任期中、糸島の農林水産物を核に、糸島で過ごす時間そのものに価値を与えようとする試み「ブランド糸島」を展開。市職員とともに広報活動に尽力し、糸島の農林水産物は東京の三越・伊勢丹・松坂屋、そして高島屋といった有名百貨店でも取り扱われるようになった。

 糸島の知名度は九州内外で上昇し、市外からの転入者も増加基調で推移。17年12月31日現在、市の人口は10万730人を記録し、月形氏が最大の目標として掲げていた人口増を見事達成した。

月形陣営から見た選挙戦

 たしかな実績を基に、相応の評価を得て臨んだ市長選だったが、月形陣営は序盤、相手候補がフェイスブックを通じて展開する情報発信―SNS選挙運動に戸惑いを隠せなかった。月形氏の市政報告会で、選対本部長は声を荒らげた。

 「何だかんだで今回も月形が勝つだろう。そんな声が耳に入ってきます。とんでもない!今回の選挙は(スマホを掲げながら)この選挙なんです!相手がどんな活動をして、どれだけ支持を集めているのか、まったく見えてこない!(再びスマホを掲げて)これで一晩で1万の票が動くとも言われています!絶対はないんです!」。

 これまでの選挙戦とは大きく異なり、ただならぬ緊張感に包まれた月形陣営だったが、これまで残してきた結果に対する評価は揺るがない。自由民主党福岡県連、農政連や漁協関係者を始めとする70を超える団体からの推薦をそうそうに獲得。支持基盤を固めた。

自由民主党福岡県連から推薦証を受け取る月形市長

月形氏に託された糸島の未来

再当選を祝し贈られたケーキを受け取る月形市長

 1月28日―運命の投開票日。観光地としてだけでなく、子育て世帯の移住先としても全国的に知名度がある糸島の市長選ということもあり、多くの取材陣が両候補者の選挙事務所に駆け付けた。開票所から刻々と知らされる最新の情報では、両候補者互角だった。

 勝負が決したのは午後11時。月形祐二選挙事務所が歓声に包まれた。間を置かず、本人が事務所内に登場すると歓声はさらに盛大なものとなった。

 月形氏は、「これまで進めてきた『ブランド糸島』を次の4年も、『月形、お前が進めていけ』と、多くの方に信任いただいた結果であると思います。この思いをしっかりと受け止め、糸島の発展のために、さらに邁進してまいります。ご支持・ご支援いただいた皆さま、本当にありがとうございます」と深々と頭を下げた。

 当日有権者数8万2,605人、当日投票者数4万7,230人。月形祐二氏の得票数2万9,004票に対し、高橋徹郎氏の得票数1万7,653票。その差1万1,351票。糸島の農林水産物を核とするブランド糸島を全国的に広め、人口増と市の知名度アップを成し遂げた月形氏の実績が評価された。

糸島のグローバル化

 2期目に臨む月形氏。糸島の魅力である「豊かな自然」「悠久の歴史」に加え、九州大学・伊都キャンパス(以下、九大)の統合移転により新たに付加された「学術研究都市」としての糸島も積極的に市内外にアピールしていくべく、九大との連携を加速させたい考えだ。九大には、94の国と地域から2,418人(17年11月1日現在)の外国人留学生が集う。彼らとの交流を通じて、糸島の子どもたちに、国際感覚を身に付ける機会を与えたいと考える月形氏は、まずは留学生たちがストレスなく糸島で過ごせるよう、住環境の整備に動いた。プロジェクト名は「九大国際村構想」だ。

 九大国際村構想は、九大の留学生や外国人研究者を地域に温かく受け入れ、国際交流や国際教育、国際理解などを促進させ、地域の国際化を図ることを目的として立ち上げられた。糸島市、九大、総合健康施設「元気くらぶ伊都」の経営を手がけるセトル(株)、(株)西日本シティ銀行、(株)西日本フィナンシャルホールディングスが、17年5月「地域の国際化に関する協定」を締結し、本格的に始動。九大の久保千春総長は「九州大学は伊都キャンパスを『市民に開かれた都市型キャンパス』『次世代技術の実証キャンパス』『自然と歴史のオアシスキャンパス』、そして『環境エネルギーキャンパス』と位置付けていろいろと取り組んでいる。今回、このようにしてキャンパス周辺に『国際村』ができることは、本学にとっても大変すばらしいことである。九州大学が教育・研究を通じて糸島の地域の国際化のために重要な役割と責任をはたしていきたい」と、同プロジェクトへの期待感を語っている。

 国際村の建設予定地は、糸島市泊の「オレンジゴルフ前原」側。すでに「カツラギプロジェクト」として開発はスタートしている。開発を手がけるのは、「えらべる不動産」をキャッチコピーに掲げる(株)イーコムハウジング。開発地から徒歩5分圏内にはコンビニや総合健康施設「元気くらぶ伊都」があるほか、住宅の整備に合わせ、スーパーや書店、病院、金融機関など生活関連施設の誘致・建設にも取り組むとされており、留学生に対して相応の利便性が確保されることになる。目標として、19年夏ごろまでに住宅・宿泊施設合わせて200室の整備が掲げられており、最終的には500室程度の住宅が準備される予定となっている。

期待されるサイエンスパーク構想

 月形氏が九大との連携を加速させるなかで、九大国際村構想と同じく新たな取り組みとして力を入れているのが「サイエンスパーク構想」だ。

 「サイエンスパーク」とは、大学周辺に研究機関や企業、ベンチャーなどが集積する研究・産業団地のこと。糸島のサイエンスパーク構想では、市と研究機関、九大が連携し、最先端の応用研究や試作品の開発などを行い、地元での雇用の創出や関連企業の誘致・進出につなげる。選挙戦で「糸島で生まれ育った若者たちが、糸島を出て行かず、地元で頑張っていける環境づくりをしていきたい」との思いを語っていた月形氏にとって、サイエンスパーク構想の早期実現は、2期目における重要項目の1つといえる。

 研究分野については、「糸島や九大らしさが感じられるものに」との考えから、ICT(情報処理や通信に関連する技術・産業・設備・サービスなどの総称)やAI(人工知能)、医療、自然科学、生命化学、農業などを想定し、今後のスケジュールとして、18年度末までに具体的な構想案を策定する。

 サイエンスパーク構想にともなうまちづくりに関しては、JR「九大学研都市駅」周辺の国道202号線から、福岡市西区北原・田尻地区(約11.8ha)を再開発する「北原・田尻土地区画整理事業」を実施。人とモノ、情報が行き交う地域と学生の交流の場の創出を目指す。

 国道202号周辺エリアでは、賃貸・分譲マンションや商業施設で構成された高層ビル2棟(2棟とも20階超を想定)を建設し、地域のシンボルとする。道路の拡張工事が進む北原・田尻地区の沿道は、交通利便性を生かし飲食店や医療機関、銀行など商業・業務施設などを計画している。今後のスケジュールは、18年度下期に換地設計と工事設計を完了させ、19年春までに着工。20年度に工事を完了し、21年度の街開きを予定する。

 九大との連携を新たな強みに、加速度的に発展が進む糸島市。初当選以来、月形市長が掲げてきた目標「元気ないとしまを豊かさ実感のいとしまへ」は、大きく前進している。

九大学研都市駅周辺開発エリア

カツラギプロジェクト現場&学生寮セトル

【代 源太朗】

 

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