2024年04月25日( 木 )

環境デザインとコミュニティ活動(後)

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九州大学 大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 助教 柴田 建 氏

 柴田 次に、各住宅の外構のデザインの問題です。やはり住宅にも時代ごとのトレンドのようなものがあり、古い住宅と近年の新しい住宅とでは、つくり方がガラリと違います。

 その特徴的なものの1つが外構のつくり方で、たとえば田舎のほうの古くて立派な住宅などを思い浮かべていただけるとわかりやすいと思いますが、古い住宅ほど高い塀や生垣などで周囲が囲まれていることが多いと思います。

助教 柴田 建 氏

 この周囲を囲まれているというのが実は曲者で、ひとたび敷地内に侵入してしまえば、外から人の目につきにくいのです。一方、近年の新しい住宅では、道路との境界線を塀や門扉で囲わない「オープン外構」が多くなってきています。これは、明るく開放的というような見た目のメリットだけでなく、外部から丸見えになる分、泥棒などの不審者が侵入しづらいというメリットがあります。このような開放的なつくりの住宅のほうが、実は防犯の面から考えるとかえって安全なのです。

 さらに3つ目の要因として、住宅地自体のデザインの問題があります。古い住宅地では効率性を優先したハモニカ型に区画割りされた街並みが多く見受けられますが、一方で比較的新しい時期に開発された住宅地では、ループ状の道路で区割りされていたり、「クルドサック」といって、袋小路状の道路を設けるような宅地開発が行われたりしているところが出てきています。

 こうしたループ状道路の街区やクルドサックでは、通過交通を排除することで交通安全の面からも良い効果がありますが、防犯の面からも非常に効果があります。というのも、そうした住宅地は基本的には居住者を始めとした関係者しか通ることがないため、たとえば不審者が入って来ると、「あいつは誰だ」と住人の目が行きやすいのです。

 一方のハモニカ型だと通り抜けができるので、誰か知らない人が通っても居住者の意識が向きにくく、不審者がそれほど目立たないうえ、犯行におよんだ後の逃走路の確保も容易です。さらに「コモン」の形式による違いもあります。コモンとは、集合住宅や計画的に整備された住宅地のなかにある居住者が利用できる道路・広場などの共用空間のことで、「通り型コモン」や「広場型コモン」などがありますが、これが整備されているところはテリトリー性がより高くなり、よそ者の侵入が容易でないという効果があります。当然、防犯の面からも高い効果を発揮します。こうしたコモンも、新しい住宅地では整備されているケースが多いですね。

 このように、高齢者と若い人との防犯意識の違いと、外構デザインのスタイルが大きく変わってきたことによる違い、さらには住宅地自体の構造やデザインの違い。これらが、古い住宅地と新しい住宅地との侵入盗被害率の違いの大きな要因だといえます。

 ――エリアごとの違いなどはいかがですか。

 柴田 たとえば同じ年代に開発された住宅地を比べてみると、駅近などの交通の便が良いところのほうが、被害率が高い傾向にあります。というのも便利の良い住宅地というのは、そこに住む住人だけでなく、泥棒にとっても便利なんですね。

 「ルーティンアクティビティ理論」という考え方があるのですが、要は犯罪を行おうとする人も、その人の日常の行動圏内で犯行におよぶというものです。そういう意味で、便利なところというのは、実は防犯の面から考えると危ない側面ももっています。また同じ住宅地のなかでも、街区の内側ほど危ない傾向があります。街区の外側、いわゆる幹線道路沿いの住宅であれば、人や車が通るため目につきやすいのですが、それが内側になればなるほど、侵入盗被害率が高くなっています。

防犯性能を高めるコミュニティの力

 ――新しい住宅地のほうが、防犯性能が高いことがよくわかりました。では、古い住宅地で防犯性能を高めていくには、どのようなやり方があるのでしょうか。

 柴田 まず1つは、住人である高齢者の方々の防犯意識の向上が欠かせません。無施錠の危険性を改めて伝えるなどの講習会を町内会単位で行い、意識を高めてもらうことがまずあります。
また、外構デザインの問題では、ある程度の景観を保ちながら、できるだけ開かれた外構へと改変していく工夫も大事です。「囲めば安全」というのは違いますし、それに関しての高齢者の意識を改める必要があります。

 そして、これが一番効果を発揮するのですが、コミュニティ活動―つまり地域の活動を盛んにしていくことが何より大事です。たとえば、皆で通りを清掃するとか、道路沿いにプランターを設置して地域住民で手入れを行ったり、集まってバーベキューをしたりなど、そういったコミュニティによるアクティビティがボディーブローのように犯罪抑止に効果を発揮していきます。

 そういった活動がテリトリー性―「この領域は自分たちのもの」という居住者の意識を醸成するとともに、外部から入って来にくい環境をつくり出します。古い住宅地によくあるような、あまり人が訪れなくなった児童公園を皆でキレイに手入れし、「コミュニティファーム」などの大人が行きたくなるような場にしていくのもいいでしょう。最終的にはコミュニティの力が、防犯にとっては一番大事になります。

 ――最後に、今後の住宅地の開発に対して、何かご意見があれば。

 柴田 最近、街並みというものが、昔に比べるとあまり関心をもたれなくなってきています。どちらかというと、エネルギーとかセキュリティのほうが住宅におけるテーマや関心事になっていますが、本当はセキュリティを重視するのであれば、街並みが意味をもつことを再認識していただきたいです。販売する際などになかなかスペックとして打ち出しにくい部分はあると思いますが、住宅メーカーさんにも今一度、そのあたりを見直してほしいですね。

(了)
【坂田 憲治】

<プロフィール>
柴田 建(しばた・けん)
1971年生まれ。九州大学大学院人間環境学研究科修了(博士・工学)。専門は建築社会システム。住宅地におけるコミュニティ形成、街並み維持、防犯、エリアマネジメントなどについて、各地でフィールドワークを行うとともに、新規開発および再生のプロジェクトにも参加している。2014年11月より福岡県警の「犯罪予防研究アドバイザー」に。

 
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