2024年03月29日( 金 )

鳥栖市の農地法違反問題 協議丸2年続くも是正メド立たず(前)

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 2018年9月、地元紙の報道をきっかけに、佐賀県鳥栖市は自らの農地法違反について公表に踏み切った。企業誘致を目的とした市による農地買収と整備計画だったが、農地法に違反していることが発覚。農地転用許可を受ける前に、所有名義を市に移したという初歩的なミスだった。橋本康志・鳥栖市長はその報告を受けながらも、1年3カ月以上公表しなかったことに批判が集中。原因究明のため、昨年12月には第三者委員会による調査や報告がなされているが、それから半年以上が経過した現在も、市の違法状態は続いている。

佐賀県と鳥栖市による10年がかりの整備事業

2つの報告書

 ここに2つの報告書がある。いずれも鳥栖市で発覚した農地法違反に関するものだ。1つは2018年9月末に市役所内部で調査され、全員協議会で報告された文書。もう1つは、同年11月末に第三者委員会が市に報告した原因究明に関するものだ。これらの文書から、問題の概要を拾っていこう。

 企業誘致による地域経済の活性化や雇用創出を目的とした「新産業集積エリア整備事業(鳥栖地区)」がスタートしたのは06年3月のことで、県が候補地を鳥栖市に決定したことに始まる。佐賀県と鳥栖市による共同整備で、総事業費は約73億円。JR鹿児島本線・肥前旭駅の東側、鳥南橋付近の田畑など約27haを整備するものだった。地権者数153に対し、総筆数299筆の土地を市が買い上げて、民間企業に分譲するというスキームだった。当初の予定からは遅れながらも、ようやく16年2月に地権者説明会を開催。同年4月から、市は議会での議決分について所有権移転登記を随時行い、土地代金を支払っていた。

 このとき抜け落ちていたのが、農地転用の許可だった。市は整備用地の大半を購入した後、農地の転用許可を受けないまま、市名義で登記してしまっていた。

 17年5月、市農業委員会が違反を指摘し、初めて部長職以上が知ることになる。市長が報告を受けたのが17年6月。地元紙が報道したのが18年9月だが、この間1年以上にわたって、市としては公表しなかったことになる。水面下では県や農業委員会との間で協議が続けられていたというが、「隠蔽していた」と取られても仕方のない状況となり、市役所の対応に市民からの批判が集まった。

地元紙の報道

なぜ違法行為に気づかなかったのか

 契約を始めてすぐのころ、市の担当者が農業委員会に対して、地権者から市名義に登記を行ったことについての問い合わせを行っている。照会を受けた県の担当者の説明を誤って解釈し、「購入分は事後に一括申請すればいい」と認識したまま、売買契約と登記を断続的に行ってしまっていた。報告書には、当時の担当課長が地権者説明会で売買代金の支払時期を説明しており、代金支払いが遅れれば、契約解除や作付補償に発展する可能性もあったとの記載もある。事業そのものの破綻を危惧する心情も働き、慎重かつ入念な手続き調査が行われなかった可能性もある。

 いずれにせよ、土地売買が始まった時点で、農地法に関する誤った認識のまま、整備用地の大半を市は購入していた。買収済みの農地は約25.1haで、地権者数は142(276筆分)を終えていた。取得のため支払った土地代は約16億7,800万円。未契約は残りわずか7名分である。

 問題発生の原因を調査した第三者委員会は、関係職員らの農地法の知識が不足していたことと、知識をもった職員との連携や進捗管理が不十分だったことを報告している。

(つづく)
【東城 洋平】

(後)

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