2024年04月20日( 土 )

鳥栖市の農地法違反問題 協議丸2年続くも是正メド立たず(後)

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2年間で重ねられた協議

原因究明は終わったが

 問題が起きてしまった以上、その原因究明や対策について検討していくことは当然だが、何よりも優先すべきは、この違法状態をどうやって正常に戻していくかである。第三者委員会の報告から半年以上が経過した今年5月末、是正への進捗を知るため、鳥栖市商工振興課を訪ねた。担当者との主なやり取りは、以下の通り。

 ――登記名義を一旦戻すほかないと思うが、是正は進んでいるのか。

 市商工振興課 農地法違反の是正の方法について、県や農業委員会など関係機関と協議を行っている。第三者委員会による調査報告以降、具体的な動きはない。協議に時間がかかっている。地権者が多く、9割以上が契約を終えている。残り数名分の用地買収の交渉は継続している。市としては、事業を継続させていきたい。是正の具体的な方法としては、登記名義を戻す方法と、戻さず追認(事後承認)するという方法がある。

 ――地権者の反応はどうか。

 市商工振興課 登記を戻すということになれば、地権者に支払った土地売買代金を返金してもらわないといけない。手元にはもう残っていないという地権者もいる。この部分はかなり大きな問題。県内在住の地権者には、1人ひとり訪問して謝罪した。反応としては、「何が起きたのか」と驚く方や、「今後どうなるのか」と不安に思う方がほとんど。謝罪とともに、是正についての具体的な説明はできなかった。できるだけ迷惑をかけないかたちで行いたい。問題発覚からこれまで、ずっと不安なまま過ごしている地権者が多いと思う。

 ――違法行為と知って2年以上、第三者委員会の報告から6カ月以上が経過している。時間がかかりすぎではないのか。

 市商工振興課 計画当初からは遅れが出ていたが、最終的な着工予定時期は2016年だった。地権者との売買交渉が長引いたことで、遅れが出た。解決のため、その具体的な方法を県と協議をしていくしかない。まず農業委員会が承認して、次に県が承認することになる。地権者に返金してもらうことは現実的ではないので、追認する方向になると思う。

ハードルは規模か、前例か。問われる市長の責任

 市によると、個人が許可を受けずに農地に家を建築した際に、事後承認された前例はあるという。しかし、今回のように大規模で、しかも行政が法令違反を行ったケースは事例がない。許可するほうも、前例がないので判断が難しいのだろう。

 地権者としてはすでにお金を受け取っているため、返金という事態にならない限りは大きな声を挙げることはないだろう。しかし、本来目的である市の産業振興にとって、整備事業の遅延はマイナスだ。問題解決が長引けば長引くほど、傷口は広がっていく。当初見込まれた雇用創出や税収アップ、地域活性化も実現することはできない。

 残された記録をたどれば、是正に向けた協議は17年6月から始まっている。もう丸2年が経過していることになるが、それでも目に見えた進展はない。今年3月の市議会でもこの問題が追及され、スケジュールの提出を求められたが、市は示すことができなかった。焦りや逼迫した様子も感じられないのは、事業の進捗が遅れても、直接的な被害を受ける対象が存在しないからだ。すでに進出企業が決まって、分譲まで話がおよんでいるのであれば、このような遅延は起こり得ない。

 それでも、見えないところで損害を被るのは鳥栖市自身であり、市民である。市ではこのほかにも課題は山積している。このままでは、市長の“力量不足”としか言いようのない世論が形成されていくだけだ。

新産業集積エリア整備事業予定地周辺
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(了)
【東城 洋平】

(前)

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