2024年04月19日( 金 )

アイランドシティ 開発の現状を探る(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
工事中の西側エリア(2019年4月時点)

 1994年の埋立て開始から25年、いまだ開発が進むアイランドシティ。国が704億円、福岡市が2,591億円、博多港開発(株)が645億円を支出する総事業費3,940億円のプロジェクトだ。2019年5月時点で、当初計画401.3haのうち99.5%(約399.3ha)の埋立が完了。

 現在、島西側エリアの地盤改良工事などが行われている。島の西半分がコンテナターミナルを中心とした物流施設が集積する「みなとづくりエリア」。東半分は、住宅や小中学校、病院、スーパーマーケットなどが立ち並ぶ「まちづくりエリア」となっている。アクセス軌道がないというアキレス腱を抱えながら、各エリアはどのように成長を続けているのか。島づくりの現状を追った。

成長続けるコンテナ市場

香椎パークポート方面から見たアイランドシティコンテナターミナル。奥がアイランドシティ側の岸壁。5基のガントリークレーンで船からのコンテナの積み降ろしを行う。トラックへの積み込みは、ストラドルキャリア(中央、黄色の車両)で行う。

 「みなとづくりエリア」(約209ha)には、アイランドシティコンテナターミナルを始め、物流センターや倉庫などが立地し、対岸の香椎パークポートと合わせ、上海港や釜山港などを結ぶ国際競争力のある物流拠点を目指している。博多港の国際海上コンテナ取扱量は95万TEU(※)(2018年速報値)で、国内6番目。アイランドシティ側のターミナルでは現在、岸壁の延伸工事(150m)が行われるなど、受け入れ態勢の増強を図っている。福岡市では最終的に130万TEUを目標に掲げているが、港湾作業員の確保、自動化の検討などが今後の課題になる。

 世界のコンテナ貨物市場を見れば、1990年代以降、中国などアジアを中心にその取扱量は年々増加を続けている。コンテナ貨物争奪のため、世界各港がしのぎを削っているが、日本の港は世界の主要港から大きく水を開けられている状態となっている。

 たとえば、世界一を誇る上海港のコンテナ取扱量は年間4,023万TEU(17年)なのに対し、日本のすべての港のコンテナ取扱量を合わせても、1,839万TEU(同)に過ぎない。国土交通省は10年8月、国際競争力強化のため、京浜港(東京、川崎、横浜)、阪神港(大阪、神戸)を国際コンテナ戦略港湾に選定。「東アジアの主要港」づくりを目指しているが、国内トップの東京港ですら、コンテナ取扱量は450万TEUに過ぎず、世界の主要港への道のりははるか遠いのが現状だ。

 近年のコンテナ船での輸送では、海外の港と直接輸出入されるダイレクト輸送に加え、世界的にも取扱量が多い拠点となる港湾の間で、巨大コンテナ船で大量輸送された後、小さい船に積み替えて輸出入されるトランシップ輸送も増えてきている。大きなコンテナ船を着岸させるためには、コンテナターミナルの岸壁延長や水深を、より長く、より深くする必要がある。

TEU(Twenty-foot Equivalent Unit):コンテナ取扱い数量やコンテナ船の積載能力などを表す単位。20フィートコンテナ換算。

「待たせない港づくり」へ

 コンテナターミナル全体の運営は、福岡市などが出資する博多港ふ頭(株)が行い、RTG(トランスファークレーン)の電動化、ハイブリッドストラドルキャリアを採用するなど、「世界最高水準高機能ECOコンテナターミナル」を目指している。クレーンやストラドルキャリアオペレーションなどのコンテナターミナル内作業は、地元の相互運輸(株)や博多港運(株)など6社で構成される博多港コンテナターミナルオペレーター会が担当している。

 博多港アイランドシティのコンテナターミナルは、C1(1バース、水深14m、延長330m)、C2(1バース、水深15m、延長350m)があり、5基のガントリークレーンが稼働。対岸の香椎パークポートには、水深13m、延長600m(2バース)のターミナルがあり、4基のガントリークレーンが設置されている。

 コンテナ船の入港スケジュールはあらかじめ決まっているが、天候などの影響により、複数の船の入港のタイミングが重なることがある。同時に入港できない場合は、能古島沖で停船し、待機してもらうが、半日かかる場合もある。早く貨物を下ろして、次の港に向かいたい船にとって、長時間の停船は経済的なロスが大きい。博多港ふ頭の担当者は「今は国内のどの港も混み合っている。『利用者を待たせない港づくり』が、今後の取扱量を左右する」と話す。

 アイランドシティ側のターミナルの西端では現在、国土交通省により、計150m岸壁を延長する工事が行われている。施工担当は五洋・不動テトラJV、りんかい日産・大本JV。床掘、ジャケット設置などは、作業船による洋上作業がメインとなるため、警戒船を配置するなど、航行するコンテナ船などに注意しながらの工事となる。完成は20年度末の予定だ。岸壁延伸にともない、ガントリークレーンの増設なども行われ、ターミナル機能が増強される。最終的には、既存も含め、岸壁総延長約1,000mの整備を予定している。

博多港ふ頭(株)が入るビル

世界のトレンドはAIやICT

 コンテナターミナル運営の課題の1つが、港湾作業員の人手不足だ。全体の作業員数は500名ほどだが、高齢化が進んでいる。クレーンなどの操作には免許取得や熟練を要するが、若い世代の入職者が少なく、今後の人材確保に不安がある。とくにガントリークレーンは、地上高40mの位置にある運転席から、正確に操作する必要があり、運転の習熟はもちろん、集中力も要求されるため、人材確保は容易ではない。

 世界の港湾を見れば、AIなどICTを活用した省人化の取り組みが進んでいるが、日本では、全国港湾労働組合連合会の反対などがあり、ICT化が遅れている。ある港湾関係者は「港湾作業員の仕事は、昔に比べ機械化が進んでおり、労働条件はかなり改善されているが、人が来ない。年収は600万円ほどで、ほかの産業と比べても高いのに。外国人を雇う手もあるが、やはりコミュニケーションの問題があるので踏み切れない」と現状を話す。

 全国港湾労働組合連合会と港運同盟は、19年4月14日から48時間のストライキを行った。組合側は産業別最低賃金の引き上げを求めたが、経営者側の(公社)日本港湾協会は「独占禁止法に抵触する」などとしてこれを拒否。中央労働委員会が斡旋に乗り出したが、協会が従わなかったため、ストに至った。

 スト決行により、全国の港湾作業はストップ。GW中のストは回避されたが、5月下旬の段階では、労使妥結の様子はなく、再度ストに突入する可能性は残っている。事前の在庫調整などにより、ストによる港湾作業への目立った影響は出なかったようだが、日本の港湾業界には、国際競争力を高める以前に解決すべき問題があるようだ。

(つづく)
【大石 恭正】

(後)

関連記事