• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年07月18日 10:29

「第4回『サロン幸福亭ぐるり』講演会」(後)

大さんのシニアリポート第79回

 桜井政成(立命館大学政策科学部教授)さんの講演の後、第2部として私と桜井教授との対談に入る。テーマは「今、地域で起きていること」。拙著『親を棄てる子どもたち~新しい「姨捨山」のかたちを求めて~』(平凡社新書)で書いた私の住む地域(+私の関係する周辺)で起きたいくつかの「棄老事件」を報告し、それへの対処法を検討した。

 2005年夏、私が住む公営の集合住宅で2件の孤独死があった。自治会の役員として自治会長に対策を進言した。しかし会長の、「役所と坊主の問題」と歯牙にもかけない態度に義憤を覚え、集合住宅での孤独死の実情をリポートしたのが、『団地が死んでいく』(2008年平凡社新書)である。打ち上げの酒席で、担当編集長から「評論家然としてないで、地域にサロンを立ちあげたら」といわれ、「やりましょう」と即断。酒席での決断から4カ月後、公営住宅の集会場を借りて始めたのが「幸福亭」(「ぐるり」の前の呼称)であった。

 しかし、公営住宅に住む多くの住民にとって、「幸福亭」の存在は、はなはだ目障りだったようだ。配布し終えた広報紙『結通信』(『ぐるりのこと』の前身名)を、各家庭のポストから引っ張り出して廃棄。開亭を示す2本の幟の盗難。当時の代表の玄関扉(鉄製)に灯油をかけられ放火(未遂)。私やスタッフに対する誹謗・中傷など…、嫌がらせが多発(多分に嫉妬や劣等意識によるものと推測)し、このままでは安全な運営に支障を来す恐れがあると判断して、2013年暮れに現在の場所(URの空き店舗)に移した。

※クリックで拡大

 2016年から社会福祉協議会のCSW(コミュニティソーシャルワーカー)と組み、福祉全般の相談に対応する「よろず相談所」を開設した。すると、地域に潜在化していたさまざまな問題(ネグレクト、共依存、虐待、孤独死、ギャンブル依存症、何事に対しても無関心を装う住民…)が顕在化した。とくに、親を棄てる「棄老事件」(介護放棄、生活援助の拒否…)が多発していたことが判明。実施している「子ども食堂」などにみられた「親と子の希薄な関係」、それらから派生する「家族の崩壊」を報告したのが、拙著である。

 大家族制の崩壊や「家の宗教」といわれる儒教の喪失などの諸原因はこの際省く。問題は「棄てられた親」の今後である。公演後に実施したアンケート(回答総数55)のうち、「あなたは子どもに棄てられている(かもしれない)という実感がありますか」という設問に、「ある」と回答した人が4人、「分からない」が9人もいたのには衝撃を受けた。4人に1人が不安を感じているのだ。

 私は「棄老」からの回避策として、高齢者同士が住む「コーポラティブハウス」や「シェアハウス」を例として紹介した。桜井教授のブログ(2011年9月)に、「江戸時代以降の伝説のいくつかについては、高齢者が一軒家に集住し、互いに助け合いながら生活し、そして死を迎えたという。すなわち今でいう『セルフヘルプ活動』『コーポラティブハウス』がすでに近世のムラ社会には存在していた可能性が高いのである」と柳田國男の『遠野物語』に出てくる「デンデラ野」を引き合いにして紹介した。私はそれに触発され、拙著の結論に用いたのだ。

 ところが教授への拙著献本後のブログ(2019年2月)に、「それらは地縁、血縁とは異なる、選択縁といった言い方をされ、理想的に語られがちです。しかし実際には、コーポラティブハウスやシェアハウスでは、さまざまなトラブルが起きていたり、一緒に住む、一緒に生活をするとなると、どんなに当初は気の合う同士でといっても…(齟齬が生まれる)」と以前の「解決方法の模索」に自ら異論を唱えた。「姥捨て山である『デンデラ野』は、『やむにやまれず』結果として集住していたことに留意が必要です。そこでは相互扶助とともに、『相互受苦』も前提とした、地に足をつけて覚悟をもった生活が行われていたはずです」と一部修正された。

 話は認知症をカミングアウトした香川涼子(仮名)さんに移る。彼女のカミングアウトを教授は高く評価した。「香川さんってなんて強い女性なんだろう。1人で生きていくしなやかさ、したたかさを身につけた女性なのか」「自分に自信のない人は、ヘルプすら出せません。『助けを求める』には、自分は助けてもらえるだけの価値が(他人にとって)ある、という自己認識が必要で、自分の存在など他人には『路傍の石』みたいなものだろうと思っている人間にはかなり(ハードルの)高い行動なのではないでしょうか」「要は、助けられる覚悟が必要なのです」。

 「棄老事件」の救済当事者(中井夫妻・仮名)を、「他人である私がなぜ世話しなくてはならないのか」という疑問(今も消えない)に教授は、「助けることは、結局献身、自己犠牲がともなう。困ったときにはお互い様といいますが、コミュニティで綿々と続く生活の場面場面においては、助けることはやはり一方的な行為になります」といい、アンパンマンにたとえ、「アンパンマンは顔を与えて、徐々に削られていきますが、アンパンマンではない私たちでも、顔ではない何かがすり減っていくことを実感することがあります」という。確かに、中井夫妻に対する「無償の行為」は、最後に「施設入所」という最良の結末を迎えても、私のなかに「得体の知れない浮遊する澱」のような違和感を今でも覚える。

 マルセル・モース(仏・社会学者)は『贈与論』に、「コミュニティ社会の『贈り物』の総量は一定で、かつ、皆がその『互酬性のルール』(贈り物を贈られたら、贈り返さなければならない)を理解していることが前提となります」とある。教授は「助ける資源をもっていなかったり、そもそも人から助けられたら恩を返すという規範がなければ、結局、コミュニティは不均等なものにならざるを得ないのです」「コミュニティでの、ボランティアなどインフォーマルな助け合いは、選択縁でたやすくできるものではない。長続きさせるには、根気と覚悟が必要になってくると思います。『助ける』『助けられる』覚悟が必要なのです。しかし、それでも理想を語ることをあきらめてはいけない」と結んだ。

 高齢者用のコーポラティブハウスが「棄老」の決め手(最終手段)にならないとすれば、いったい何をもって「棄てられた親たち救済」の鍵となり得るのだろう。崩壊した家族とその子どもたちは、親の施設への入所こそが「免罪符」だと勘違いする。国の画期的な施策であるはずの介護保険(至れり尽くせりの公的な救済策)が、逆に「親子の分断」を助長させることへの危惧につながることは否めない。一方で、「最後まで家で親を看る」ことによって、両者とも疲弊し、「介護殺人」という悲劇を生む土壌も存在する。結局、今は介護保険とうまくつきあう(利用する)という方法しか見当たらない。

 教授に高齢者用の「コーポラティブハウス」は婉曲に否定されたが、その発端となった遠野の「デンデラ野」が私の頭から去らない。

 「60歳になれば誰(ムラの長)でも村を出て、1つ屋根の下で共同生活をする。昼は野に降りて農作業の手伝いをし、夜になれば『上がりの家』と呼ばれる茅葺き小屋で寝る」という掟。教授のいう、「『デンデラ野』は、『やむにやまれず』結果として集住していたことに留意が必要。相互扶助とともに、『相互受苦』も前提とした、地に足をつけて覚悟をもった生活…」という前提を柔軟に受け入れ、運営する「ぐるり」を「デンデラ野」として機能させることが最良の方策といえるのだろう。

 しかし、「デンデラ野」の極端な食糧不足の時代と、飽食の現代を単純に比較しながら、そのなかに「相互受苦」や「生活者の覚悟」を問うことにはいささか無理がある。どうやら「ぐるり」を一方的に地域の拠点とする考え方には、再考の余地がありそうだ。なにより周囲の住人に、「見守る、見守られる」という「覚悟」がいまだ芽生えていないのだから。

(この項了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年07月10日 10:44

爆破予告のあった九大は異常なし 6月末から全国の大学への爆破予告が相次ぐNEW!

 インターネットの掲示板に「10日午前10時に九州大学、九州国際大学の施設を爆破する」といった内容の書き込みがあったが、九州大学関係者に確認したところ、何事もなかった...

2020年07月10日 10:12

ウチヤマホールディングスが豪雨で被災した高齢者の無償受け入れを発表NEW!

 7月6日、福岡県を中心に全国で介護施設を運営するウチヤマホールディングスは、熊本県南部の記録的豪雨で被災した要介護の高齢者を無償で受け入れることを発表した...

2020年07月10日 09:55

技能実習生の公正な取り扱いを~厚生労働省などが監理団体の許可と技能実習計画の認定を取消しNEW!

 6月23日、法務省と厚生労働省は、技能実習生制度に関し、以下の通知を行った...

2020年07月10日 07:00

開発から半世紀を経て団地再生へ「宗像・日の里モデル」とは(前)NEW!

 来年には開発から50周年の節目を迎える九州最大級の団地「日の里」が、いよいよ再生に向けて動き出す...

2020年07月10日 07:00

住宅需要は福間駅周辺がダントツ 福岡都市圏北部のJR沿線(後)NEW!

 宗像市にあるJR東郷駅とJR赤間駅は、快速利用で博多駅まで約30~40分程度で行けるうえ、逆方向の小倉駅にも約40~50分程度と、福岡市と北九州市の両政令市のほぼ中...

2020年07月10日 07:00

変貌しつつある大阪港~アフターコロナ時代の万博を 実現できるか?(3)NEW!

 大阪市は会場建設費とは別に約900億円以上を投じて、大阪メトロの延伸、埋め立て、上下水道などのインフラ整備を行う。大阪市以外でも、電気やガス、通信設備などの整備が行...

2020年07月09日 17:38

あと2時間豪雨が続いていたら・・・7月8日の大牟田市内の状況

 大きな被害を受けた地域の1つ、大牟田市の8日の様子を伝える...

2020年07月09日 16:10

パチンコホール、5月の売上高が激減

 経済産業省は9日、「特定サービス産業動態統計調査」の5月分速報を公表した。これによると、調査対象となったパチンコホール1,213店舗の5月の売上高は合計665億8,...

2020年07月09日 15:30

【縄文道通信第34号】縄文道検定―天職ガイド 縄文道―武士道―未来道(後)

 この大変革の波のなかで、この数カ月で発生した世界的なCORONA蔓延―パンデミックで、リモートワークが一挙に進み、仕事の仕方も大きく変わってきている...

pagetop