2024年03月19日( 火 )

【夏期集中連載】金融機関を取り巻く現状(中)

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■堕ちた「信金の優等生」~広がる反社の闇

 6月26日、静岡県沼津市に本拠を置くスルガ銀行の株主総会が大混乱の下で行われた。株主から多数の反対動議が出され、怒号が飛び交う中での「強行採決」だった。そこには、かつて地銀の「優等生」といわれた銀行の姿は微塵もなかった。

 同行は2010年代以降、地域金融機関が業績確保に苦しむ中、シェアハウスを中心とした不動産向けローンに注力して実績を重ね、金融庁をして「理想的なビジネスモデル」といわせた。その裏では不動産業者と行員が結託した融資審査書類の改ざんが横行していた。

 そして2018年以降、シェアハウス事業の低迷から一挙に問題が表面化、業者の破綻を受けて、金融庁の立ち入り調査を受ける事態になった。また一連の過程のなかでパワハラ同然の営業現場の実態も明るみになり、株価もピーク時の5分の1にまで下落。2019年3月期決算で、同行は971億円の赤字に転落した。

 不動産融資関連では、信用金庫業界の優等生だった西武信用金庫(東京都中野区)も陥穽にはまった。総資金が1兆円を超える「メガ信金」の1つで、近年、カリスマ経営者だった落合寛司理事長の下、積極融資を展開していた。同信金の戦略は特徴的だ。首都圏の繁華街に次々と店舗を展開。それも雑居ビルの上層階にこじんまりした「空中店舗」を構え、少数精鋭のスタッフが顧客の課題解決(コンサル)に徹する。海外戦略や大学・士業との連携も活発に行っていたが、主力は不動産融資だった。その過程で反社会勢力関連企業への融資が昨年表面化。今年5月、金融庁の業務改善命令を受けて、落合理事長が引責辞任した。

■金のあるところを狙え

 両者の不祥事のキーワードは「不動産」。とくにスルガ銀行では、不動産投資による資産運用を図る「個人」が被害者となっている。従来、地域金融機関の主たる顧客だった中小・零細企業が金を借りてくれないとなると営業の矛先は個人へと向かう。現在、世間を賑わせている、かんぽ生命の不適切な保険販売の被害者も、多くは高齢者中心の「個人」だ。「金のあるところに狙いを定めろ」という金融の不文律は生きているが、フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)があるとは感じられない。

 もう1つの問題は、地域金融機関でありながら、本当に地元のために尽くしているのか――という側面だ。スルガ銀行のケースでは、問題融資を展開していた店舗は大部分が東京と首都圏の店だった。同行に限らず、最近では地銀の都会への進出が目に付く。「金のあるところに集まる」原則はここでも生きているが、これはつまり、「地元で集めた金を都会に投資する」ということで、とても地域振興に貢献しているとは思えない。五輪以降は首都圏でも景気低迷が憂慮されており、ゆくゆくは東京でも人口減が始まるのだ。

 不動産ローン、個人向け融資、手数料ビジネス、東京進出……収益モデルはいろいろあれ、所詮は対症療法。将来にわたる持続的存続を望むなら、答えは自ずと見えている。

(つづく)
【渋谷 良明】

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