2024年04月20日( 土 )

応急復旧から本復旧へ 国土交通省が権限代行で取り組む防災インフラづくりの進捗(前)

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 九州北部豪雨で被災した朝倉市内では、国土交通省九州地方整備局、福岡県、朝倉市の三者による復旧工事が続いている。九州地方整備局は2018年4月、朝倉市役所内に復興出張所を開設し、全国初適用となる「権限代行」による赤谷川など3河川の復旧工事のほか、30渓流の砂防復旧工事を手がけている。発災から2年が経過した現在、応急復旧工事はほぼすべて完了。今後、河川の付け替えなどの本復旧(改良復旧)工事が本格化していく。国土交通省が朝倉市内で進める災害復旧の進捗などについて、取材した。

九州北部豪雨災害応急復旧工事の進捗状況
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1,670億円投じ、治水対策を推進

 国土交通省九州地方整備局は2017年12月、九州北部豪雨による被害を受け、「九州北部緊急治水対策プロジェクト」をとりまとめ、筑後川水系、遠賀川水系、山国川水系での河川、砂防の改良復旧工事を始め、危機管理型水位計の設置などを進めることを決めた。

 実施主体は国、県、各市町村。全体事業費約1,670億円のうち、97%に上る1,620億円は、大きな被害が出た朝倉市内を流れる筑後川水系の筑後川、桂川、北川、白木谷川、赤谷川、大肥川、小野川などの工事に投じられる。このプロジェクトは、筑後川水系の治水対策がメインだといってよい。応急復旧工事は18年度までにほぼ完了。現在、本復旧工事を進めており、22年度中の完了を目指している。

 九州地方整備局と福岡県が設置した「筑後川右岸流域 河川・砂防復旧技術検討委員会」は17年11月、報告書をまとめ、復旧の基本方針として次の2点を提言した。

(1)一定規模の降雨への対応

 今回の豪雨で不安定化している土砂や流木が流域内に残存していることも前提に、河道対策と砂防堰堤などでの流出抑制対策を効果的に組み合わせ、洪水被害を防止する。

(2)今回の災害と同程度以上の降雨への対応

 今回の災害と同規模以上の降雨への対応については、自治体などと一体となった対策や避難体制の構築も含めて、人的被害の防止を図るとともに、家屋被害の最小化を目指す。

 報告書では、中小河川の治水対策の知見として、次の3点を指摘している。

(1)土砂や流木の流出への対応

 土砂災害が発生する危険性の高い流域において、流出した土砂・流木が流下する可能性が高い中小河川を対象に、対策を強化すべきではないか。

(2)中小河川の情報把握への対応

 水位計の設置が進んでいない中小河川を対象に、水害による危険が高い箇所などに水位計の設置などを行い、住民の避難などに活用すべきではないか。

(3)度重なる浸水被害への対応

 今後も局地的な集中豪雨が頻発することが懸念されるなかで、繰り返し被災を受けている中小河川を対象に、再度災害防止策を加速化すべきではないか。

 この報告書の内容は、プロジェクトのハード、ソフト両面の施策に反映されている。

区画整理事業に併せ本復旧工事を推進

赤谷川設備イメージ
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 今回の豪雨災害により、とくに大きな被害が発生したのが、朝倉市内を流れる赤谷川、乙石川、大山川流域だ。国の復旧工事の対象となる河川延長は、赤谷川約7,800m、大山川約2,700m、乙石川約3,300m、合計約1万3,800mに上る。これらの河川には、大量の土砂流木が流入。河川が閉塞し、周辺に大きな被害が出た。朝倉市内では現在、国土交通省、県、朝倉市などが河川、砂防の改良復旧工事などをそれぞれ実施している。報告書の提言通り、「砂防で土砂や流木を食い止め、河川でスムーズに流す」(九州地方整備局担当者)ことを基本的な考え方として、実際の工事が進められている。

 赤谷川など3河川は、福岡県管理の河川だ。本来であれば、県が応急復旧工事を実施するところだが、緊急性や高度な技術を要することなどから、福岡県の要請を受け、国が「権限代行」で実施している。国による権限代行は、17年6月に施行された改正河川法に基づく制度で、適用は全国初だ。国は、プロジェクト決定以前の同年7月から、土砂流木撤去などの応急復旧工事に着手していた。流木については、19年3月までに撤去および処理がほぼ完了。破砕選別後、バイオ燃料活用などのほか、焼却処分された。

 閉塞した河川を掘削し、一定の河道を確保する緊急復旧工事は、17年9月末までに完了。河道を被災前の状態まで戻す応急復旧工事は、18年5月末までに完了した。最終的には、曲がりくねった現行の河川の線形をまっすぐに付け替えたうえで、川幅を倍程度まで広げ、河床を被災前より掘り下げる計画で、21年度中の完了を目指している。

 河川の改良復旧は、水がスムーズに流れることが基本だが、河川の線形をまっすぐにできる箇所は限られている。線形や構造などは、国土技術政策総合研究所のメンバーが現地入りし、詳細な調査を行っている。

 ただ、国の河川復旧事業として、河川の線形変更や川幅の拡幅を行うには、新たな用地を取得するため、膨大な関係者との協議調整をともなう。そこで、朝倉市の土地区画整理事業と連動して、河川復旧事業を進めることにした。土地区画整理事業を実施すれば、その範囲内にある農地や宅地などはすべていったん白紙になる。その後、市の事業計画が定まれば、河川復旧事業としての関係者との調整が不要となり、工期を大幅に短縮できる。掘削により発生した土砂を廃棄せずに、宅地のかさ上げに利用できるなどのメリットもある。

 朝倉市ではこれまで、区画整理事業にともなう換地に関する地元集会などを重ね、今年6月には市議会で事業計画概要に関する承認を得た。朝倉市では現在、住民への「同意の徴集」を行っているが、河川事業に対する地権者の「施工同意」も併せて実施している。早ければ、今年度内をメドに事業着手する見通しだ。事業完了は21年度中を予定している。河川の本復旧工事着手の時期は、朝倉市の区画整理完了後になるため、現時点では未定だ。ただ、準備工事や資材調達などはすでに進めている。担当者は「まずは、一番被害の大きかった乙石川とその下流部分の本復旧を先行させたい」としている。

 砂防については、福岡県の要望を受け、17年8月に直轄砂防災害関連緊急事業として、応急対策工事に着手。乙石川、汐井谷川、小河内川、本村川、土師川の11渓流で、強靭ワイヤーネット、仮設砂防堰堤、遊砂地工事などの工事を行い、昨年の出水期前までに完了させた。現在はプロジェクトの一環として、特定緊急砂防事業として本復旧工事に着手している。本復旧では、30渓流を対象にそれぞれ1〜4基ずつ砂防を設置する予定で、地元などとの協議の整った箇所から本体工事にとりかかる。昨年12月以降、4カ所で本体設置に着手。22年度中の事業完了を予定している。

(つづく)
【大石 恭正】

<プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)

立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

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(後)

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