2024年04月24日( 水 )

応急復旧から本復旧へ 国土交通省が権限代行で取り組む防災インフラづくりの進捗(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

洪水時用の水位計やカメラで水位監視体制強化へ

 国土交通省は17年12月、「中小河川緊急治水対策プロジェクト」を策定している。全国約700渓流での土砂流木対策、約300kmにおよぶ再度の氾濫防止対策、洪水時の水位監視のための危機管理型水位計の設置(約5,800カ所)を行うことを決めている。全体事業費は3,700億円。目標年度は20年度。

 危機管理型水位計とは、洪水時のみ作動して水位観測する、低コストな水位計として開発されたもの。設置費用は1台あたり100万円以下で、省スペース、メンテナンスフリーなどの特長をもち、昨年から現場導入されている。九州管内(国管理区間)には現在、通常の水位計が193カ所設置されている。危機管理型水位計は、管内20河川ですでに340基が設置済みで、今後368基まで設置する予定だ。

 国土交通省は今年3月、全国約3,700カ所に簡易型河川監視カメラを設置することも決めた。このカメラは、ズームや首振り機能を削除することで、1台30万円程度の低コストなもの。九州管内(国管理区間)での設置は今年度からで、133カ所への設置を予定している。水位計と監視カメラの増設置により、より正確で確実な河川の水位情報の把握が可能になる。カメラ設置には、映像によって住民に適切な避難判断を促す狙いもある。

水害ライン
※クリックで拡大

 今年6月以降、全国10水系を対象に、河川の水位と堤防の高さを比較し、流域エリアの危険度を表示する「水害リスクライン」の情報提供も開始した。水害リスクラインでは、各点ごとに観測した水位情報とともにおおむね200mごとに計算した水位を面的に表示。その地点の危険度を、左右岸別、上下流連続的に表示する。九州の対象河川は、山国川(中津市など)と川内川(薩摩川内市、えびの市など)の国管理区間。当初は市町村などへの提供のみだったが、8月下旬以降、一般向け提供も始まる予定。

 水位など防災に関する情報や映像は、九州地方整備局HP、各県HPなどで閲覧することができるほか、スマートフォンや地デジ対応機器でも確認できる。なお、ツイッターや緊急速報メール、テレビなどを通じた災害関連情報の発信は、従前から行っている。

 治水事業として実施した河川整備によって、浸水などの被害を免れた事例もある。10年に完成した直方市内を流れる遠賀川沿いに設置された北小川排水機場がそれだ。床上浸水対策特別緊急事業として、約10億円をかけて整備されたこの排水機場は、03年7月に洪水が発生し、118戸が浸水被害を受けたことをきっかけに整備された。昨年の西日本豪雨の際には、03年の1.2倍の171mm(12時間)の雨が降ったが、浸水被害はゼロだった。

 同じ03年、遠賀川が流れる飯塚市内でも約4,500戸の浸水被害が発生。その後、やはり床上浸水対策特別緊急事業として、約140億円を投じ、河道掘削や排水機場の増設などを整備した。昨年の豪雨では、03年の約1.6倍の281mm(12時間)の大雨に見舞われたが、浸水戸数は540戸と大幅に減少した。

懸念が残る自治体のマンパワー不足

 県管理河川であっても、大規模災害時に国が代行して整備を行う権限代行制度は、国土保全の観点から見て、真っ当な取り組みだ。一方で、朝倉市はともかく、比較的体力のある福岡県レベルでも、マンパワーが不足している現状は気がかりだ。

 町村レベルでは、そもそも土木職の職員を採用していない自治体も少なくない。今後、国の権限代行による災害復旧は、増える一方だろう。そこに、日本の災害に対する脆弱性の本質が見え隠れしているように思われるのだが・・・。将来の防災を考えるとき、自治体のマンパワーが不足している現状には、やはり懸念が残る。

(了)
【大石 恭正】

<プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)

立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

(前)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事