豪雨災害からの復旧復興の進捗と福岡県のインフラ整備(前)
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2019年09月06日 07:00

豪雨災害からの復旧復興の進捗と福岡県のインフラ整備(前)

福岡県県土整備部 部長 見坂 茂範 氏

 災害からの復興を考えるうえで、欠かせないのがインフラの復旧だ。被災住民の生活の安寧も、生活を支えるインフラがなければ始まらない。インフラ整備には、災害を未然に防ぐという役割もある。福岡県県土整備部では、令和元年度に約1,595億円を投じ、県内のインフラ整備を進める予定だ。朝倉市の復旧復興の進捗、新たなインフラ整備の計画などについて、同部の見坂茂範部長に聞いた。

(取材日/7月16日)

見坂 部長

<プロフィール>
見坂 茂範(けんざか・しげのり)

 1968年7月生まれ、兵庫県出身。京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修了後、93年に建設省(当時)に入省。関東地方整備局企画課長、道路局高速道路課課長補佐、近畿地方整備局京都国道事務所長、大臣官房技術調査課技術企画官などを経て、道路局企画課評価室長から福岡県に出向し、福岡県県土整備部長に就任。趣味はジョギング。

 

災害関連予算に約406億円を計上

 ――令和元年度予算のポイントは?

 見坂 県土整備部関連の予算総額は約1,595億円で、対前年度比1.23倍とかなり増えています。予算の増加要因は、2017年7月の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨からの災害復旧関連の予算がかなり増えたためです。また、政府は18年12月、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」(概ね7兆円程度)を閣議決定しましたが、この予算も上乗せしたため、近年にない予算額になっています。1,595億円のうち、災害からの復旧復興関連予算には約406億円を計上しています。

 ――朝倉市の災害復旧復興の進捗は?

 見坂 インフラを元に戻す「原形復旧」については、17年度から3カ年で完了させる計画で、合計で約204億円を投じることにしています。用地買収などをともなう「改良復旧」については、5カ年間で完了させることにしており、こちらには合計約1,250億円を投じます。改良復旧は、令和元年度である今年度がちょうど中間年度にあたり、予算的にも大きな予算を執行する年になります。

 今年5月末時点では、原形復旧の対象となる箇所数は道路、河川、砂防など225カ所に上りますが、9割を超える箇所ですでに工事着手しています。まだ未着手の箇所は、用地買収をともなう箇所や、すでに着手した工事が終わらないと着手できない箇所などです。

 改良復旧を行う際には、住民に丁寧に説明し、合意形成したうえで工事を進める必要があります。河川のかたちを変える工事や用地買収をともなう工事だからです。この2年間は、この合意形成のために注力してきました。そのうえで、改良復旧の対象箇所数は73カ所あります。そのすべてで測量、設計を進めており、ほぼすべての箇所で改良計画に関する地元説明を行い、概ね合意を得ています。今年度は用地取得に着手し、取得した箇所から工事着手する予定です。用地買収をともなわない箇所については、すでに工事に入っているわけですが、改良復旧の多くが今年度から本格化することになります。令和元年度は、復旧復興を加速させる“勝負の年”になります。

 県土整備部では、17年9月に災害事業センターを朝倉市内に開設し、現場に寄り添うかたちで災害復旧事業を進めています。当初は53名の職員でスタートしたのですが、現在は114名に倍増しています。職員数には限りがあるわけですが、それだけの職員を朝倉に集めて、復旧復興に取り組んでいます。予算だけではなく、マンパワーも集中投資しています。

入札の不調不落増が一番の心配

被災した国道500号の変化
被災した国道500号の変化
※クリックで拡大

 ――すべての復旧復興工事が完了する時期の見通しは?

 見坂 地元の合意あっての復旧復興なので、遅れる可能性はありますが、今のところ21年度中に完了する見通しです。国や朝倉市ともなるべく足並みをそろえて、完了を迎えたいという思いはあります。

 ――地元の合意形成というと?

 見坂 たとえば、河川のかたちを変える場合です。蛇行して流れている河川を元のまま復旧すると、再び氾濫するリスクが残ります。それを避けるには、河川の線形をまっすぐに変えて、復旧する必要があります。まっすぐにするには、河川のそばにある民地を取得しなければできません。そういうことについて、地元に丁寧に説明し、合意を得てきたわけです。

 仮設住宅で暮らしている住民のなかには、「河川改修が進まないので、心配で元の家に戻れない」という方もいらっしゃいます。「河川などのインフラ整備にはどうしても時間がかかります」ということをご説明して、ご理解いただくようにしています。

 ――発注工事が増えると、入札不調のリスクがあるのでは?

 見坂 それは我々も一番心配しているところで、毎月の不調不落率について調査しています。たとえば、ある月に不調率が高くなった場合には、その原因を調べ、必要な対策を講じることにしています。幸い、これまでのところ県土整備部の発注工事の不調率は高くなったことはありません。ただ、山間部での工事は業者さんが敬遠することもあり、不調率が高くなる傾向があります。その場合、積算のやり方を見直したりするなど、対策を講じるわけです。そうは言っても、これから工事をドンドン出していくことになるので、心配は残ります。引き続き不調不落率を注視していきながら、入札条件を緩和するなど、必要な手を打っていくつもりです。

 ――国や朝倉市との調整連絡は?

 見坂 県の事業は朝倉県土整備事務所が主体となって実施していますが、国には復興出張所があり、朝倉市には復興推進室があり、それぞれが復旧復興に向けた事業を進めています。三者間の事業の計画や進捗の調整などを行うため、現場レベルの連絡調整会議を設置しています。やはり行政のタテ割では、いろいろな齟齬が生じるリスクがあります。たとえば、地元説明を行う場合は三者で参加するなど、情報を共有しながら、工事を進めています。県庁内部でも、県土整備部だけでなく、林道などを所管する農林水産部などとも連携し、事業の整合性などを調整しながら進めているところです。

 とくに調整が必要なのが、住民からの要望事項への対応です。国の事業だけれども、県のほうに要望が来るということがあります。その場合、「国が聞いていなかった」といったことがないように、三者で情報を共有することは非常に大事なことなのです。

 ――西日本豪雨からの復旧復興の進捗は?

 見坂 昨年の西日本豪雨災害の復旧復興の進捗ですが、原形復旧については、総額約73億円を投じて取り組んでいくことにしています。対象となる箇所数は県内308カ所に上りますが、そのうち約9割で工事着手済みです。北九州市門司区の奥田地区では、土砂崩れにより2名が亡くなられました。県では、土砂災害対策事業として、国の補助を得て、今年5月上旬に法面工事に着手しています。

 ――新規事業は?

 見坂 具体的には、県が管理する2つの河川、筑後川水系の山ノ井川(久留米市)と遠賀川水系の庄内川(飯塚市)が、国の「浸水対策重点地域緊急事業」に採択されました。この事業では全国5河川が採択されたのですが、福岡県から2河川が選ばれています。それだけ、昨年の福岡県内の浸水被害が甚大だったということです。今年度から2河川の堤防嵩上げなどの工事に着手していきます。山ノ井川には今後5カ年で約24億円、庄内川には約16億円を投じます。そのほかの河川についても、浸水被害が発生しないよう取り組む考えです。

 福岡県が要望していた案件では、東九州自動車道の約1.1km間について、4車線化事業が今年度から始まるほか、国道201号の八木山バイパスについても4車線化事業が今年度からスタートします。国道322号では、国の権限代行で進めている八丁峠道路トンネル(嘉麻市~朝倉市)が今年度開通予定です。このトンネルは延長約3.8kmで、開通すれば県内で一番長いトンネルになります。このトンネルに接続する千手(せんず)バイパスも同時に開通予定になっています。これらの工事によって、国道322号はかなり交通の便が良くなると考えています。

(つづく)
【大石 恭正】

<記者プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)

 立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

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