2024年04月20日( 土 )

豪雨災害からの復旧復興の進捗と福岡県のインフラ整備(後)

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福岡県県土整備部 部長 見坂 茂範 氏

五ケ山ダム
五ケ山ダム

五ケ山ダム、治水・利水に効果

 ――今年7月上旬にも豪雨がありましたが、福岡県内では大きな被害は出なかったようですね。

 見坂 今年はむしろ渇水が心配です。県内では7月中旬時点で、一部地域で農業用水や生活用水が不足気味で、減圧給水している地域もあります。

 今回の豪雨で浸水などの被害が出なかったことと、渇水が深刻になっていないことは、実は五ケ山ダムができたおかげなんです。五ケ山ダムの供用開始は昨年3月ですが、昨年7月の西日本豪雨の際には、約620万m3の水を貯めました。もし、この620万m3の水がそのまま流出していたら、那珂川の水位は1mほど上昇した可能性があります。西日本豪雨で福岡都市圏に大きな被害が出なかったのは、五ケ山ダムのおかげといっても過言ではありません。

 福岡県内は今年、慢性的な水不足状態にあります。県では今年2月14日から、福岡市の要請を受け、五ケ山ダムの水を12万m3/日程度放流しています。五ケ山ダムがなければ、必要な取水ができず、福岡都市圏は渇水に陥っていた可能性があります。試験湛水中ではありますが、渇水は避けなければならないし、福岡市から要請もあったので、利水関係者と協議のうえで放流に踏み切ったわけです。五ケ山ダムは治水・利水の両面で大きな効果を発揮しています。これは多くの人々に知ってもらいたい事実です。

 県土整備部は今年、県内の主な河川を対象に、出水期前に河道の掘削や伐木などの作業を行いました。2年連続で浸水被害が発生したことを教訓にしたわけです。すべての県土整備事務所がフル稼働でことにあたりました。少しでも浸水被害リスクを軽減するためです。

 ――ソフト面の災害対策にも取り組んでいるのですか?

 見坂 災害発生時の初期対応を強化する施策として、今年5月までに、県内に11あるすべての県土整備事務所にカメラ付きドローンを1機ずつ配備しました。災害時には、県職員が災害現場に駆けつけるのですが、山の上とか、目視で確認できない場合もあります。ドローンを飛ばせば、現場の確認ができるようになります。

 今年6月までには、朝倉地域の河川を対象に、水位を監視する簡易型のカメラ、危機管理型の水位計をそれぞれ14基ずつ設置しています。カメラで撮影した画像は、10分ごとの静止画像として、県のHPで見られるようにしています。危機管理型水位計の総数は、78河川・80カ所、簡易監視カメラの総数は19河川・21カ所になっています。

下関北九州道路は必ず実現する

 ――下関北九州道路は実現しそうですか?

 見坂 県が国に対して強く要望してきた下関北九州道路について、今年度から国による調査が行われることとなります。今年度の県内インフラにおける大きな話題の1つになります。石井啓一国土交通大臣も「国としてしっかり調査を進める」とおっしゃっています。どこが事業主体になるかはわかりませんが、私は必ず実現するものと思っています。

 PFI的整備手法についても国が調査中ですが、ある程度公共が関与したかたちでの整備手法が現実的だと思われます。ゼネコンなどにヒアリングを行ったのですが、公共の関与を求める意見が目立ちました。個人的には、公共が建設し、オペレーションを民間が行うかたちが良いのではないかと思っています。

(了)
【大石 恭正】

<プロフィール>
見坂 茂範(けんざか・しげのり)

 1968年7月生まれ、兵庫県出身。京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修了後、93年に建設省(当時)に入省。関東地方整備局企画課長、道路局高速道路課課長補佐、近畿地方整備局京都国道事務所長、大臣官房技術調査課技術企画官などを経て、道路局企画課評価室長から福岡県に出向し、福岡県県土整備部長に就任。趣味はジョギング。

<記者プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)

 立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

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