2024年04月18日( 木 )

【凡学一生のやさしい法律学】関電報告書の読み方~関電疑獄を「町の法律好々爺」凡学一生がわかりやすく解説(6)

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内容と表題の乖離

 内部報告書(以下、同書)は「報告書」との表題であるため、多くの人は調査事実の客観的報告書と理解する。しかし、その内容を実際に確認すると、証拠も明確でない「伝聞事実」をもとに、関電疑獄事件について一定の法的評価意見、鑑定意見を羅列している。つまり羊頭狗肉の欺瞞文書の疑いが強い。その疑いを払拭するためにも、同書が作成報告された経緯、同書を作成した「調査委員会」と(「調査」を命令した?)取締役会における事情・関係性を確認する。

 同書1頁に記載された調査委員会の設置経緯(※1)を読む限り、調査委員会は関電コンプライアンス委員会の自主的設置委員会で取締役会の特命の存在は認められない。

 ※1同書 2調査の概要(2)調査体制等 a 調査体制 (同書1頁16行以下)

 しかし、これは極めて不可解な経緯と言わざるを得ない。なぜ、コンプライアンス委員会の内部または近傍に調査委員会なるものを自主的に設置することができるのか。そもそも(各種)委員会の設置を関連委員会が自由自在に設置できるのか。それこそ会社法違反、コンプライアンス違反ではないか。

 会社法の規定する統治原則に従えば、臨時に発生した緊急事態に対応するために設置する委員会の設置権限はすべての会社業務の最高決定機関である取締役会にある。取締役会が、設置の目的(調査項目)と権限を定め、委員を指名・任命する。

 この通常の臨時緊急委員会設置の経緯がまったく不明であることが、そもそも本件調査委員会の抱えた重大問題といえる。それは本件調査委員会の調査対象たる贈収賄事件の当事者が多数の取締役であるという特殊事情に起因する。虞犯取締役を含んだ取締役会が、事件の詳細調査と法的鑑定を下部組織、ないし部下に命令することができるのか、という一種矛盾の関係にあるからである。

 これは取締役会において問責取締役が会議から除外され、議決権を否定される関係と同様の問題である。すなわち、本件疑獄事件の場合、取締役会が事実調査や法的評価鑑定を専門とする委員会を設置するためには、取締役会自身が、調査結果に重大な利害関係を持つ問責取締役、嫌疑取締役を除外した取締役会によって、具体的な調査内容項目を定め、人選して調査委員会を設置する必要がある。嫌疑を受けている取締役がいわば自分の行為を調査確認することを部下に命じることは、それだけで調査が公正に行われない蓋然性が高い。あらゆる法領域で禁止される利害関係者の関与禁止原則である。

 以上の考察から浮かび上がってくることは、同書に掲げた「目的」とそれを達成する「調査項目」との論理性・関連性の欠如である。

 そもそも「目的」が極めて突飛である。「当社幹部が森山栄治氏から金品がわたされていた事実」が国税当局の査察によって発覚した、と認定しているのであるから、それがなぜ「不適切な行為とみられかねず」との奇妙な判断になるのか。

 すでにこの表現において、Mから「常識を超えた高額の」という極めて決定的な事実が省略されたかたちで記述され、もし、金品が常識を超えた高額なものであれば、不適切であるとの主張の伏線が張られている。金品が常識を超えた高額なものであれば、ただちに違法と判断される(※)のであって、不適切というような曖昧な評価(法的には意味不明)の出る幕はない。

 ※違法判断と有罪判断とは本質的に異なるものであることは前述した。これに意味不明の倫理的判断である「不適切」まで乱入・混入してきた。明白な支離滅裂論理である。

(つづく)

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