2024年05月04日( 土 )

【凡学一生のやさしい法律学】戦後最大の冤罪事件~ゴーン裁判近し(2)

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刑事訴訟法の規定

 条文を精読する前に、司法取引とは何か、どのような形態があり、その効果目的は何かについて、概略を理解する必要がある。本来、司法手続きに「取引」という概念の入り込む余地はない。しかし、現実には、例えば、反社会的集団の組織犯罪において、親分は単なる命令者であり、犯罪の実行行為者は下っ端の子分である。

 子分は進んで親分の身代わりになり、決して親分の命令であることを自白しない。これは場合によっては親分を裏切ることにより死刑にも等しいリンチを受ける事情によることもある。このような場合には実行犯である子分の刑を軽くするか又は免除して、本当の巨悪を断罪する必要がある。

 このいわば「必要悪」として、子分と検察官との間で捜査協力の合意を結ぶことができるとしたのが日本の司法取引法である。しかし、この「仲間裏切り」型司法取引には根本的に反倫理、反社会性を内包する。それは同格の共犯者関係にある場合、共犯者の自白と同様の真実性とは無関係の「罪のなすりあい」「自分の罪を軽くするためだけの利己心による虚偽証言」の可能性が否定できないからである。これはもともと刑事法学で「共犯者の自白」として、その信用性に問題があるとして議論されてきたものである。その問題ある「共犯者の自白」を法律によって、問題ないものと合法化したものが、本件司法取引法である。

 そこでいかなる工夫を講じて合法化したか。それが、「弁護人の同意」という制度である。犯人(これには当然嫌疑者も含む)だけではなく、犯人が依頼した弁護士(弁護人)の同意があることを書面で作成しなければ司法取引は成立しないとした。

 もちろん、司法取引した人間は単独犯ではなく共犯者がいる共犯事件の犯人でなければならない。単独犯の合意は単なる「自白」そのものだからである。この弁護人の同意制度こそ、日本の刑事司法を根本から否定する違法制度であることを国民は知らなければならない。そして、この違法な弁護人同意制度の引受弁護士がヤメ検弁護士であることも、その違法性を裏付ける重大な事実であることも理解しなければならない。

 何が重大な違法か。それは弁護士が司法取引における同意弁護人となることが、明らかに弁護士倫理、弁護士法違反の行為だからである。弁護士は依頼人のため、最善の努力義務がある。犯罪の嫌疑をうけた依頼人のために、可能な限りの無罪弁論をする義務を負う。依頼人の無罪弁論の義務努力が尽きた場合に初めて司法取引の同意弁護人となることができる。

 これは、当然、依頼人が錯誤で自己の有罪性を認めた場合であっても、その義務の存在は変わらない。本件司法取引において、同意弁護士がかかる依頼人の無罪弁護をした形跡が全くないことが、真っ黒な違法犯罪行為である証拠である。ヤメ検は検察官に迎合・結託して本件司法取引を成立させた疑いが極めて濃厚である。

 これは、司法取引をした2名の被疑者の犯罪容疑事実が明確にされていないこととも大きく関連する。司法取引をしたとされる2名の日産幹部の該当罪名は何であったのか。分かり易く言えば、2名の幹部は如何なる犯罪をゴーン氏と共謀、実行したのか。

 公表されたゴーン氏の犯罪行為の第一は有価証券報告書虚偽記載罪である。その具体的虚偽事実は役員報酬の虚偽記載、つまり隠蔽された役員報酬の存在があるとされる。ゴーン氏が有報記載の役員報酬以外に闇の報酬を受けていたなら、立派な虚偽記載となるが、そのような事実はない。存在する書類、つまり、2名の役員が隠蔽したとされる書類は、将来、ゴーン氏が役員を退任した場合に受け取る予定の金額を記載した書類という。これが適法適正な会社債務としての役員報酬でないことは企業会計の初学者でも理解できる。

 多数の企業会計の専門家である公認会計士らが日産の長年の有価証券報告書に役員報酬に関する虚偽記載がないことを認めてきたのは、将来支払われる役員報酬というべき会社債務が一切存在しなかったからに他ならない。

 例えば、将来支払われるべき役員報酬(これ自体が矛盾概念であることは役員報酬とは会計期間毎に発生する債務であることを理解すれば明白である)であれば、それが成立した時にすでに引き当て原資が存在しなければ、債務そのものとして存在しえない。将来支払われる役員報酬とは将来の債務に他ならないからである。もちろん、そのような将来の支払いに引き当てる引当金の存在など皆無である。これが、弁護団が主張する、そもそも将来に支払われる役員報酬など存在しないとする理由である。これらの事実は公認会計士を証人として証言させれば、たちまち明白な事実となる。

 そして、この共犯事件には極めて不可解な事実が存在する。それはゴーン氏らと同じ釜の飯を食ってきた西川代表取締役だけが、真っ白な人間として存在したことである。この事実は極めて理解し難いし、検察も一切、この間の事情の説明をしていない。やがてこの事実から破綻を来すことは必定と思われていたが、事実、西川氏は代表取締役の地位を追い落とされた。これらの不可解な事実が、本件が冤罪であることを一層確信させるのである。

 検察が主張するゴーン氏の第二の犯罪は特別背任罪である。これはその犯罪行為の構成要件上、2名の共犯者の共同謀議共同加効の余地がない。しかも2名の共犯者は取締役として代表権を持つ地位になく、一層、身分犯たる特別背任罪の共犯者たり得ない。2名のいかなる行為が特別背任罪の共犯行為とされているのか。これらの重大事実の一切が、事件発覚以来、検察は隠蔽してきたし、それをマスコミも一切、関心を示さなかった。裁判ではこれらの事実の存否とその評価が争われることになる。

(つづく)

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