土木技術者が語る日本の防災のあるべき姿(前)
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2019年11月08日 12:00

土木技術者が語る日本の防災のあるべき姿(前)

(株)共同技術コンサルタント 福岡支店長 松永  昭吾  氏

 日本は世界有数の災害大国だ。2011年3月には東日本大震災が発生し、国難級の被害が出た。九州でも16年4月の熊本地震を始め、17年7月の九州北部豪雨、18年7月の西日本豪雨など、毎年のように大規模な自然災害が発生している。多くの国民は「天災だから仕方がない」と考えがちだが、過去の教訓を生かせていれば、抑えられた被害もある。この点、「東日本大震災での被害は、明治以降の工業化や経済合理性の追求が被害を拡大させた」と指摘する人物がいる。災害を専門とする土木技術者である(株)共同技術コンサルタントの松永昭吾氏だ。災害に強いまちづくりを進めていくうえで、我々が忘れ、見落としてしまったものは何か、話を聞いた。

平地は危険な場所「天神ビッグバン」も

朝倉市の被災現場(松永氏提供)

 ここ数年、「記録的な」という言葉がニュースで繰り返し使われるようになり、線状降水帯による局地的な集中豪雨や、都市部のゲリラ豪雨が増えている。さらには、昨年7月の西日本豪雨は10日間にわたって降り続けた。これは過去になかった規模の連続した雨だったが、実際に起き、今後も増えていくことが予想される。そして、それらの記録的な自然現象は、人の生活にダメージを与えている。

 日本の平地のほとんどは、川によって運ばれてきた豊かな土壌によりつくられており、流下してくる川の水を堤防で閉じ込める前は、湿地や沼地が多かった。人の手によって田んぼや畑を開墾し、堤防を築いて川を閉じ込め、町が形成された。ところが、想定を超える雨が降ると水があふれ、農地は豊かになる一方で、人は死に直面する。それを繰り返してきた歴史がある。
 つまり、「平地は自然の恩恵を受ける一方で、危険な場所」でもあるのだ。日本の平地は、もともと湿地や沼地だった場所が多く、水が集まりやすい。河口付近の平地に人口を集中させると、その自然現象が自然災害となり、「人命の損失につながるリスクが高い」というわけだ。

熊本地震にともなう地盤変状による道路被害(松永氏提供)

 たとえば、福岡市は現在、「天神ビッグバン」というプロジェクトを進めている。簡単にいえば、同市博多区の天神地区周辺の規制を緩和して、「ヒト、モノ、カネ」を集めるプロジェクトだ。ところが、天神地区は河川に近く、湿地だった場所も多い。自然現象が想定を超えることがあり得ることが認知されて久しく、経済的にも豊かになったこの時代に、効率性を重視してああいった近代化以降の比較的新しく整備された土地に多くの人を密集させるプロジェクトには、一土木技術者として、疑問を呈さざるを得ない。

 福岡市は博多地区や天神地区で浸水対策を実施しているが、人工構造物で対応するには当然限界がある。「人間は、自然に負けない努力を重ねてきているものの、自然に勝つことなどできない」。経済成長が至上命令だった時代に過度な人口集中を進めてきたが、これからは、想定を超えても、「人が死なない、あるいは、せめて大量に死ににくいまちづくり」を、始めることが必要なのだ。

関空浸水は「土木技術者の責任」

 18年9月には台風21号による災害が発生した。関西国際空港では、空港の浸水や橋梁の破損などの被害が出たが、空港の浸水に対して、我々土木技術者はもっと関心をもつべきだ。関西国際空港は、「マヨネーズ(軟弱地盤)の上にビスケット(空港)が乗っている」ようなものだ。滑走路などは定期的にジャッキアップしているが、たった1回の台風で浸水し、空港が数日間使えなくなるほどの被害が生じた。世界のハブ空港を標榜するには、災害リスクに対して脆弱であることが露呈してしまった。

 人工島に空港がある以上、建設に関わった土木技術者は、台風時の海水の高さなどを推定し、海面が上がっても大丈夫なようにつくっているはずだ。空港内の電気機械設備は、海水に浸からない場所に設置されていなければならないが、空港島全体にコミットし、それを指示できるのは土木技術者だけだ。
 ところが今回、電気機械設備が水に浸かり、数日間の停電を余儀なくされた。私は、「これは人工島の高さを決めたであろう土木技術者の責任といえるのではないか」と考えているが、どうだろうか。

耐震設計は十分という誤解

 設計時に想定していた地震を超えた例を挙げれば、たとえば、阪神淡路大震災、東日本大震災、そして熊本地震がある。

 1946年の南海地震以降、95年の阪神淡路大震災までの約半世紀の間、日本で近代構造物の大規模な地震被害は発生しなかった。そのため、土木技術者のみならず、政治家や行政関係者などは、「日本の耐震設計は十分だ」と誤解してしまった。地震によって一度に多くの人命が失われる経験をしなかったからだ。歴史に学べば、大きな地震や断層変位、津波が定期的に発生してきた事実は確認できる。
 ところが阪神淡路大震災によって、6,400人以上が亡くなった。経済発展の象徴だったはずの阪神高速を始め、多くの鉄筋コンクリート構造物が倒壊した。この地震をきっかけに、耐震設計は大きく変わった。内陸直下型地震に対して、“上手に壊す”ことによって、地震エネルギーを吸収する手法にシフトした。ただ、国家として、全国津々浦々で、統一的、均一的な構図物を整備すれば良いという基本的な考え方は変わっていなかった。

(つづく)

【大石 恭正】

<プロフィール>
松永  昭吾(まつなが・しょうご)

1970年、長崎県佐世保市生まれ。(株)共同技術コンサルタント福岡支店長。噂の土木応援チームデミーとマツ共同代表。(一社)リペア会理事副会長、(一社)ツタワルドボク理事副会長。博士(工学)九州大学、技術士(総合技術監理、鋼構造およびコンクリート、道路)、上級土木技術者[橋梁]、VEスペシャリスト、道路橋点検士、防災士。

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