2024年04月26日( 金 )

日本橋川に「青空を取り戻す」 首都高の地下化プロジェクト(後)

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日本橋再開発イメージ(2019年8月時点)三井不動産HPより"
日本橋再開発イメージ(2019年8月時点)三井不動産HPより

地下化PJがついに始動

 オリンピック終了後間もなく、地元住民から「日本橋に青空を取り戻せ」という声が挙がる。オリンピックの興奮が去ると、「日本橋の景観が台無しじゃないか」という不満が頭をもたげたわけだ。ただ、せっかく通した道を「見た目が悪い」という理由で撤去するわけにはいかない。住民の反対はその後も続いたが、具体的な動きにはつながらなかった。

 世紀が変わって、2001年。当時の扇千景国土交通大臣が「首都高の高架に覆われた日本橋の景観を一新する」と発言。これを契機に、日本橋区間の架替えの機運が高まる。06年には当時の小泉純一郎首相が「日本橋川に空を取り戻す会」を設置し、民間の再開発と絡めて日本橋を架け替えるプランを打ち出したが、「金がかかりすぎる」などの理由により、実現には至らなかった。

 10年を過ぎたころ、建設から40年が経過した首都高のインフラ更新問題が浮上する。国土交通省は、12年に「首都高速の再生に関する有識者会議」を設置。この会議で「都心環状線の高架橋を撤去し、地下化などを含めた再生を目指し、その具体化に向けた検討を進めるべき」との提言がなされた。首都高(株)はこれを基に、首都高速道路の更新計画を策定。日本橋区間を含む竹橋~江戸川橋区間(延長2.9km)の更新を決めた。

 ただ、「日本橋川に空を取り戻す会」がはじいた地下化の概算事業費は5,000億円。同区間の更新予算は約1,500億円。単独の更新事業として実施するわけにはいかなかった。

 ところが16年になって、状況が大きく変わる。日本橋を含む3周辺地区が国家戦略特区の都市再生プロジェクトに追加された。「日本橋再生」は再開発のスローガンになっている。翌17年には、当時の石井啓一国交相と小池百合子東京都知事が日本橋区間の地下化を表明。再開発を奇貨として、ゴロリと地下化プロジェクトが動き始めた。

厳しい設計監理が求められる

 国、東京都、首都高(株)、中央区のメンバーからなる「首都高日本橋地下化検討会」が同年発足。地下ルート、概算事業費などの検討が行われた。地下ルートの検討は難航を極めた。対象区間にはJR・新幹線のほか、半蔵門線など3つの地下鉄が通っていたからだ。既存の首都高の橋脚や日本橋川なども干渉する。当然、下水道や電気、ガスなどもある。

 検討会では、JR・新幹線下にトンネルを掘るのは無理と判断。この部分は既存の八重洲線を利用し、JRを越えた地点からトンネルを掘り進むことにした。八重洲線と分岐する部分は、断面が大きく変わるため開削で行う。トンネルは半蔵門線の上を通り、銀座線の下を通り、浅草線の上を抜け、地上に出た後、6号向島線につながる線形とした。

 トンネルに干渉する支障物は基本的に、すべて一時的に改修、撤去。貫通後に元に戻す必要がある。こう書くと簡単なようだが、いったん壊して、新しくつくって、また壊して、元の場所につくるのは、新しく構造物をつくるのより、はるかに困難で、何より費用がかかる。詳細な設計はこれからだが、「相当厳しい設計監理になる」(首都高関係者)と指摘する。

 日本橋の上から首都高が姿を消すのは、早くても、橋が架かってから80年近く経ったころになる。そのときに、橋が架かる前の日本橋の景観を記憶している人がどれだけいるだろうか。多くの人にとっては、今の日本橋の景観こそが日本橋なのであって、「取り戻す」感覚は薄いと思われる。周囲のまちなみも再開発によって大きく変わっているはずだ。日本橋の「再生」とは「restore」ではなく、「rebirth」を意味するようだ。

(了)
【大石 恭正】

概算事業費は、
首都高が約400億円+1,000億円(大規模更新費の一部)を負担。国や自治体の出資金の償還時期を見直すことで約1,000億円、自治体が別途約400億円を負担するほか、民間プロジェクトが約400億円を負担することになった。ルートや工法の見直しなどにより、当初5,000億円だった事業費も1,800億円ほど圧縮された。

(前)

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