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2019年11月21日 07:00

中小企業では経営者と労働者は共通の目的を達成するパートナー!(後)

(特非)アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏 氏

経済民主主義なくして、政治や社会の民主主義は実現できない

 ――では、中小企業が発展することによってできる社会とはどのようなものなのでしょうか。

 1つ目として、雇用の安定が図れます。1990年代以降のリストラの嵐のなかで、雇用を支えてきたのは、中小企業や小零細企業です。新しい中小企業の創業・発展は雇用を促進させます。

 2つ目として、付加価値の高い産業が生まれます。産業の実質付加価値率の上昇率は、すでに大企業より中小企業の方が優っています。(『中小企業白書2014年版』)ではなぜ中小企業は苦しいのでしょうか。それは生産合理性や技術的合理性がないにもかかわらず、大企業による一方的な価格抑制が起きているからに他なりません。中小企業は「発展性と問題性の統一物」なのです。

 3つ目として、経済民主主義(経済権力が多数の主体に分散していること)が促進され、対等な取引、意欲ある人の参入自由な市場経済が生まれます。また、経済力を一部のところに集中させておいて、政治や社会の民主化など進むはずがありませんから、政治や社会の民主主義も推進します。アダムスミスの『国富論』の大きな柱は重商主義批判で、その中心は「独占」批判です。ところが、現在は大企業を中心とする独占が進み、市場経済の進歩的な面は消えてしまっています。

 4つ目として、中小企業は顧客との精神的共同性や自己実現的な労働の追求が可能で、市場経済の人間化を進めます。市場経済における取引は貨幣の獲得が目的で人への役立ちはその手段でしかありません。しかし、中小企業では個々の顧客の顔の見える関係の構築が可能で、顧客の喜びをわが喜びとする精神的共同性に根ざした取引ができます。貨幣の獲得はそのような取引の結果という意味をもつことになります。また、中小企業では企業の経営計画策定への参加が可能ですから、労働は自分が策定に参加した経営計画の実現という意味をもち、そして自己実現的な性格ももち、いわゆる「労働の疎外」を緩和します。

現地中小企業経営者と一緒に、現地政府に中小企業政策を提言

 ――先生は(特非)アジア中小企業協力機構 理事長をされています。アジアと中小企業の関係について教えてください。

 黒瀬 世界経済が低迷するなか、アジア経済は成長を続け、世界的な大企業も現れています。しかし、アジアの人々の多くが働いている中小企業は経営資源の不足、中小企業同士の激しい競争、大企業や国有企業からの圧迫という問題を抱えています。アジアの経済発展が各国の人々の生活の豊かさにつながるには中小企業の発展が不可欠です。アジアの中小企業の連携により中小企業を発展させ、中小企業をアジア経済の主役にすることを目指しているのがアジア中小企業協力機構(ICOSA)です。

 当機構は(一財)「海外産業人材育成協会(AOTS)」(1959年の創立以来、主に開発途上国の産業人材を対象とした研修および専門家派遣等の技術協力を推進する人材育成機関)と協力関係にあります。活動の中心は中小企業経営者を含む我々のメンバーが各国のAOTS研修生の同窓会の協力でアジア各地に行き、お互いの経営経験を交換し、現地の中小企業経営者と一緒になって、現地政府・行政機関に中小企業政策を提言することです。また具体的なビジネス連携の話も進めます。

日本の「中小企業憲章」をアジア全体に広めようとしている

 昨年の11月3日(土)から10日(土)まで、6泊8日で、海外交流事業の一環でバングラデシュに行きました。現地企業をたくさん回り、セミナーも開催、日本の中小企業の現況や中小企業政策について報告をしました。後日、現地の中小企業経営者が自国の中小企業政策について政府に提言を行いましたが、そこには私たちのアイデアが多く含まれており、私の提言もそのまま付録として付けられておりました。

 今年は12月1日(日)から7日(土)までミャンマーに出向きます。現地の中小企業との交流、日系企業との交流を行い、行政機関や地元の中小企業経営者と一緒に現地政府に提言を行う予定です。私たちは2010年の民主党政権で閣議決定された「中小企業憲章」(※)を今アジア全体に広めようとしています。

※【中小企業憲章】“Small is first” 意欲ある中小企業が新たな展望を切り拓けるよう、中小企業政策の基本的考え方と方針を明らかにしたもの。(2010年民主党政権で閣議決定)

「経営パートナー主義」を採る企業では、業績が大幅に改善する

 ――時間になりました。最後に中小企業経営者にメッセージをいただけますか。

 黒瀬 中小企業は1990年代以降、困難な状況にあります。しかし、中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役であることは間違いありません。常に時代の先駆けとして積極果敢に挑戦を続け、多くの難局に遭ってもこれを乗り越えてきました。

 中小企業では、経営者と労働者は共通の目的を達成するパートナーであるべきと考えています。私はこのことを「経営パートナー主義」と呼んでいます。この経営パートナー主義を採る中小企業では社員が率先して生産性を上げるさまざまな改革提案を行い業績も大きく改善しています。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
黒瀬直宏氏(くろせ・なおひろ)

(特非)アジア中小企業協力機構 理事長、国際アジア共同体学会 理事長
 1944年東京都練馬区生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、東京都立大学大学院社会科学研究科修士課程修了。中小企業事業団(現・中小企業基盤整備機構、中小企業政策の実施機関)に1970年入職、1996年3月まで26年間中小企業政策遂行の実務に携わる。以後、豊橋創造大学、専修大学教授を経て、2009年4月嘉悦大学経営経済学部教授、2010年 嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科教授、研究科長、2012年4月 同ビジネス創造学部教授。2014年4月 ビジネス創造学部長。NHKラジオ第一放送「社会の見方・私の視点(旧「ビジネス展望」)」を1991年より担当。

 著書として、『複眼的中小企業論~中小企業は発展性と問題性の統一物~』(同友館)、『中小企業政策』(日本経済評論社)、『中小企業政策の総括と提言』(同友館)、『温州産業の原畜過程:情報による「下から」の資本制化と企業の階層分解』(三田学会雑誌96巻4号)、『21世紀中小企業論第3版』(共著 有斐閣)など多数。

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