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2019年12月01日 07:00

続々・鹿児島の歴史(13)~「薩摩見聞記」~

 本書の著者は本富安四郎で、旧長岡藩士です。東京英語学校を卒業後、25歳で県内の小学校教員として赴任、翌年校長となり、2年半在職しました。本書は在職中の見聞をまとめたもので、内容は歴史・言語等22項目からなり、明治26年までの状況です。維新時、薩摩と長岡との激しい戦いがありましたが、本富は他にも鹿児島関係の論文があり、薩摩気風への強い関心(批判的記述だけではありません)がうかがわれます。

○薩摩人が質朴で勇猛であることは、特性としてよく世間に知られている。

○いわゆる身贔屓が強く仲間にとても忠実であるのは美習であるが、公私の区別をつけないのは大いなる欠点である。

○一事を連続的に反復推究すること、および一定不変の理想をもち、何事にもこれを基準として理論上より判断するようなことは、到底望めない。

○団結力が盛んであることは、特性として知られるところである。何事をなすにも決して個々別々の運動をせず、必ず一団となって行動する。その結果として、

(1)質朴で無造作な薩摩人には甚だ不似合いと思われる程、かけひきに熟し、謀略的思想に富んでいる。(2)比較的団体では強いが、個人では弱い雰囲気がある。(3)個人の独立の思想は発達せず、権利自由の考えは甚だ乏しい。

○宴会で、自分より盃を人に差し出すのは大いなる無礼で、これをするものはいない。

 必ず自分から盃を請う。盃を受け取るにはとても難しい規則がある。(たとえば、差し出す手、受け取る手を盃より上にしてはならず、「下げチョク」「釣り杯」ともいい、最も失礼で手首を切り落とされても仕方がないこととされていました)

○薩摩ほど酒を飲む国はない。毎晩「おだいやめ」と称して晩酌をする。家族も主人の相手として飲む。(郷士の家では、常食とする唐芋の量と焼酎をつくるための唐芋の量が半分ずつのところもありました)

○貧富の差は甚だしくなく、(温暖で)生活がしやすく生存競争があまり烈しくないので、人の性格は穏やかで風俗は淳朴である。統計表を見ても、訴訟・盗難・自殺・棄児の数等、人口比では全国で最も少ない。

○城下士族は、官職に就いて生計を立てるものもいるが、困難を極め乞食同様に零落したものも少なくない。これに対し、外城士族は以前から農業をしており、豊かに生活している。地主となり、農民は小作人である。昔は「日シテ兵児」(日シテは隔日のこと、1日は武士1日は農民の意)と嘲られたが、今は城下士族より裕福である。

○薩摩では万事万端士族でなければ夜が明けない。士族は1つの称号であり、実際に大いなる有難みがあることを悟るべきである。すなわち旅館に泊まっても宿帳に士族と書けば、応答待遇は必ず丁重である(その理由として、「平民に財産なし」と「士族の多数」をあげています。前者では商人は「士族の御用足し」にすぎず、農民はほとんどが小作人で、豪農がいないとしています)。今でも士族は平民に対して極めて横柄な言葉遣いで呼び捨てにし、平民は極めて丁重なおじぎをし、訪問時にも勝手口から入るありさまである(教育面でも、たとえば明治31年の鹿児島尋常中学(5年制)の生徒数530人の内訳は、華族1人、士族459人、平民70人です。明治中頃の県会議員は士族37人、平民3人で、士族以外の代議士誕生も明治35年です)。

(つづく)

<プロフィール>
麓 純雄(ふもと・すみお)

 1957年生。鹿児島大学教育学部卒、兵庫教育大学大学院修士課程社会系コース修了。元公立小学校長。著書に『奄美の歴史入門』(2011)『谷山の歴史入門』(2014)『鹿児島市の歴史入門』(2016 以上、南方新社)。監修・共著に『都道府県別日本の地理データマップ〈第3版〉九州・沖縄地方7』(2017 小峰書店)。ほか「たけしの新世界七不思議大百科 古代文明ミステリー」(テレビ東京 2017.1.13放送)で、谷山の秀頼伝説の解説などに携わる。

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