2024年04月26日( 金 )

工事進捗率は72% 2022年開業の西九州ルート

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 新鳥栖・武雄温泉間の整備方式についてのフル規格化をめぐる騒動をよそに、九州新幹線西九州ルート(武雄温泉~長崎間。以下、西九州ルート)の建設工事が粛々と進められている。建設費6,000億円超に上る工事を担当するのが、国土交通省が所管する(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、鉄道・運輸機構)だ。いうまでもなく、新幹線は我が国の高速大量輸送を担う重要な交通インフラだ。そんな新幹線建設はどのように進められているのか――。新線の概要、工事の進捗などについて同局に取材した。

全線フル規格「対応可能」

 鉄道・運輸機構は、鉄道建設に必要な資金調達を始め工事計画、用地取得、住民説明や関係機関との協議、工事発注、施工監理、検査に至る鉄道建設に関するすべてのプロセスを行う。横浜本社のほか、東京、大阪の各支社を始め、北海道新幹線建設局、九州新幹線建設局などの出先がある。西九州ルートの工事全体は、九州新幹線建設局の所管だ。

 西九州ルートは5つの駅(武雄温泉駅、嬉野温泉(仮称)駅、新大村(仮称)駅、諫早駅、長崎駅)からなり、軌道や駅舎、機械、電気などの工事が段階的に行われている。工事着手は2008年4月で、19年9月時点の進捗率は72%(予算ベース)。開業予定の22年度までに完成させる予定だ。

久山トンネル(東)の内部(写真提供:鉄道・運輸機構)
久山トンネル(東)の内部(写真提供:鉄道・運輸機構)

 延長67kmのうち、トンネル区間が約60%を占め、高架橋が約21%、橋梁約11%、盛土が約8%となっている。土木工事の進捗率は全体で約90%。トンネル区間(覆工コンクリート設置済み)が約97%(19年9月時点)、高架橋および橋梁区間が81%(同)となっている。

 今後は、軌道や電気などの工事がメインになる。現在の西九州ルートは、武雄温泉駅において新幹線と在来線の対面乗換え方式で整備されているが、仮に全線フル規格に変更されたとしても、「技術的には対応可能」(鉄道・運輸機構担当者)という。実際、鹿児島ルートでも、在来線乗り継ぎからフル規格に変更した経緯がある。

 在来線と新幹線の違いは、スピードだ。在来線が時速140kmなのに対し、新幹線は時速200km以上(設計最高速度は時速260km)で走行する。レール間隔も在来線の1,067mm(狭軌)に対し、新幹線は1,435mm(標準軌)である。設計速度や荷重が異なるため、設計や施工の基準も異なる。新幹線の線形カーブは、在来線よりはるかに緩やかだ。

彼杵川橋梁工事(写真提供:鉄道・運輸機構)
彼杵川橋梁工事(写真提供:鉄道・運輸機構)

 最小曲線半径でいくと、在来線が300mなのに対し、新幹線は4,000mが基本となっており、近くで見ると、ほぼ直線に見えるだろう。在来線と同じく、ルート上に支障物があれば、線形を曲げてかわすのも同様だが、最小半径が大きい新幹線の場合、かわしたくてもかわせない事態が生じるケースが多くなる。そこで大変になるのが、用地取得だ。地元説明会や用地交渉は、鉄道・運輸機構が立地自治体(長崎県、佐賀県)とも連携のうえで一体となって進めているが、交渉が長引けば、工期遅延のリスクになる。

 鉄道・運輸機構がJR九州に委託し、フリーゲージトレインの開発も進められてきたが、「フリーゲージトレインについては、最高速度が時速270kmにとどまり、高速化の進む山陽新幹線導入は断念せざるを得ない」(※)との国交省の報告により、新幹線と在来線の直通運転を目指した技術開発は中止になった。

(※)18年8月27日に開催された与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム

錯綜する長崎駅周辺

新長崎トンネル出口などの工事(写真提供:鉄道・運輸機構)
新長崎トンネル出口などの工事(写真提供:鉄道・運輸機構)

 終点部分となる諫早駅~長崎駅の工事を担当するのが、長崎鉄道建設所だ。この区間の土木工事の進捗は85%程度(19年10月時点)となっている。

 諫早~長崎駅区間は、トンネルが4分の3を占める。トンネルの深さは200mを超えるものもあり、地盤も固い箇所が多い。掘削には主に発破を使用しており、西九州ルートで最長となる7,460mの新長崎トンネルも、一部を除き発破で掘削した。終点部分は、山の斜面地に形成された長崎市西山台などの住宅地直下での発破作業となる。振動などを抑えるにはシールド掘削が有効だが、シールドで硬い岩盤を掘削するには時間もコストもかかる。振動や騒音を人の感覚閾値の観点から低減するためには、発破の持続時間を1秒未満に短くすることが有効である。そこで、特殊な雷管を使用し、不快感が低減されるようにした。

複数の工事が同時進行する長崎駅周辺。在来線ホームに隣接(右)する新幹線ホーム。駅左側では、長崎市の土地区画整理事業が進められている
複数の工事が同時進行する長崎駅周辺。在来線ホームに隣接(右)する新幹線ホーム。駅左側では、長崎市の土地区画整理事業が進められている

 残りの土木工事は、駅舎周辺での明かり(トンネル坑外)工事が中心になる。とくに新長崎トンネル出口から長崎駅までの延長区間(約800m)は、建物が密集するほか、交通量の多い国道202号、JR長崎本線をまたぐ工事もある。国道などをまたぐ工事は、交通規制をかけて夜間に実施する予定だが、長崎駅周辺では、長崎県が事業主体となった連続立体交差事業のほか、長崎市による土地区画整理事業も着工。新駅舎工事は、ほかの現場と錯綜状態にある。

 現場担当者は「第三者事故が発生しないよう、細心の注意を払って工事を進める必要がある。この辺のマネジメントがクリティカルだ」と話している。

【大石 恭正】

 新幹線ならではの設備もある。たとえば、「防音壁」だ。環境基準を守るための設備だが、時速200km以上の高速走行になると、車両の風切り音や摩擦音が格段に大きくなるため、ほぼ全線で設置する必要がある。「トンネル緩衝工」も新幹線ならでは。車両が高速でトンネルに突入すると、出口側で破裂音が鳴ったり、付近の家屋の窓が揺れるなどの現象が起きる。「微気圧波」と呼ばれる現象で、高速車両による圧縮波が原因だ。この微気圧波対策として、あらかじめトンネル内の空気を抜くための緩衝工が必要になる。

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