2024年04月19日( 金 )

俵山トンネルルート全線開通 大詰め迎える阿蘇のインフラ復旧(後)

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国土交通省九州地方整備局 熊本復興事務所長 大榎 謙 氏

機能不全に陥らない橋を

 ――耐震対策は?

 大榎 新たな橋にラーメン構造を採用した要因の1つに、同じ構造をもつ「阿蘇長陽大橋」が、熊本地震の揺れにも耐えたことが挙げられます。架橋場所を約600mずらしたとはいえ、活断層の影響は想定されるため、再び地震が起きた場合にも、機能不全に陥らない橋をつくる必要がありました。そのため、新たな橋にはさまざまな工夫を施しています。

 下部工については、推定活断層を避けて配置しているほか、桁の支承部分が損傷してもすぐに復旧できるよう、推定活断層との交差部は単純桁を採用しています。推定活断層を避けるには、ラーメン構造が最適でした。

 熊本地震による断層の水平変位量が1.4mだったことを踏まえて沓座を拡幅しており、下部工に影響を与えない範囲で、上部工が揺れる設計となっています。熊本地震と同様の横ずれ地震が再度発生した場合、桁を支える支承部は場合によっては壊れますが、それによって衝撃を吸収し、橋全体は壊れない構造としています。地震により上部工が動いた場合でも、歩道を車道として使えるようにしたり、ベント基礎を存置するなど、早期に復旧できるよう工夫しています。

早期復旧を実現

 ――阿蘇長陽大橋などの復旧状況は?

 大榎 阿蘇長陽大橋は、地震により橋台が2mほど沈下するなどの被害が出て、通行不能になりました。復旧に際しては、架替えではなく、橋台を再構築し、土工部の線形も見直したうえで施工しました。17年8月に応急復旧が完了し、これにより、325号阿蘇大橋の代替路が確保されました。その後、ヒビの入った橋脚の復旧作業を行い、現在は本復旧が完了しています。このルートには、地震にともなう斜面崩壊による土砂で桁が流出した戸下大橋もあります。こちらは現在、仮橋での応急復旧となっており、本復旧に向け事業を行っています。

 俵山トンネルルートは、2トンネル、6橋梁が被災しました。俵山トンネルは延長約2kmのうち、およそ7割が被害を受けており、全面打ち替えした区間もありました。俵山大橋、大切畑大橋については、上下部工の損傷などのため、それぞれ架替えや補修を行いました。

 長陽大橋ルート、俵山トンネルルートの双方とも、橋の被災状況を評価し、可能な限り使用できる部材は修復・補強し、活用したからこそ、早期の復旧が実現できたわけです。ただ、そのためには高度な技術力が必要になります。実際に工事に着手してみないと、損傷度合いがわからないことなどもあり、その場合は復旧方針を変更する必要も生じます。

 復旧に当たっては、被災直後から国土技術政策総合研究所の技術者グループが現地に入っていました。復興事務所に国総研の職員が入ったのは全国初です。彼らがいたからこそ、スムーズな復旧ができたと考えています。

(了)
【大石 恭正】

「1km離れた操作室から安心施工を実施」

(株)熊谷組 阿蘇恒久対策作業所長
北沢 俊隆 氏(砂防事業で無人化施工を担当)

(株)熊谷組・阿蘇恒久対策作業所長・北沢俊隆氏
(株)熊谷組・阿蘇恒久対策作業所長・北沢俊隆氏

 砂防事業の現場では、斜面下部の土留盛土をつくる部隊と斜面上部でラウンディングする部隊の2つの部隊があり、私は斜面上部の部隊のメンバーとして、無人化施工を担当しました。無人化施工に関する工事は、斜面下部での作業も含めると、16年5月から17年3月まで続きましたが、トータルとしては非常にスムーズな作業でした。

 熊谷組の「ネットワーク対応型無人化施工システム」の特長は、数十km離れた操作室から操作できることです。阿蘇大橋地区では、現場から1kmほど離れた立野病院の前のヤードに操作室を設置し、最大で14台のバックホウなどを操作しました。無線が混線することはないので、何十台単位で同時に動かすことができます。

 作業の精度は、目視のほうが良いのはたしかですが、オペレーターが遠隔操作に慣れ、工程管理などに支障をきたすことはありませんでした。何より、施工中に作業員が負傷する心配がないのは大きいです。

(前)

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