俵山トンネルルート全線開通 大詰め迎える阿蘇のインフラ復旧(前)
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2019年12月11日 07:00

俵山トンネルルート全線開通 大詰め迎える阿蘇のインフラ復旧(前)

国土交通省九州地方整備局 熊本復興事務所長 大榎 謙 氏

 熊本地震発災から3年以上が経過した。阿蘇大橋の落橋、斜面崩壊により、道路やJRが寸断されるなどのインフラ被害が出た阿蘇大橋地区では、国土交通省が主体となり、復旧作業が急ピッチで進められている。2017年8月に長陽大橋ルートが応急復旧したのを始め、今年9月には俵山トンネルルートが全線開通した。20年度内には阿蘇大橋が開通、JR豊肥本線も復旧する見込みで、復旧作業はいよいよ大詰めを迎えようとしている。

 

熊本復興事務所長・大榎謙氏
熊本復興事務所長・大榎謙氏

権限代行で国が災害復旧

 ――熊本復興事務所では、どのような業務を進めているのですか。

 大榎 阿蘇外輪山の切れ目に位置する「阿蘇大橋地区」は、大分と長崎を結ぶ国道57号や国道325号、JR豊肥本線が集中する交通の要衝ですが、熊本地震では当該地区および周辺地域において、斜面崩壊や落橋などによって道路・鉄道網の寸断などの被害が発生しました。とくに熊本市内と阿蘇をつなぐ主要な道路の復旧は急務であり、また予算的にも技術的にもハードルが高いということで、熊本県および南阿蘇村からの要請を受け、国土交通省が権限代行により、復旧事業を実施することになりました。

 発災後当初は、九州地方整備局(福岡市博多区)や熊本河川国道事務所(熊本市東区)が主体となって応急復旧を行っていました。その後、熊本河川国道事務所内に熊本地震災害対策推進室が設置され、本格復旧に向けて2017年4月に、南阿蘇村の旧長陽庁舎に熊本復興事務所および国土技術政策総合研究所の熊本地震復旧対策研究室が設置されました。

 当事務所では現在、砂防事業と道路事業(権限代行)を所管しています。職員数は、業務委託などを含め、69名(19年10月時点)です。砂防事業では、阿蘇大橋地区の斜面崩壊部の復旧工事のほか、18年度より阿蘇カルデラ内の直轄砂防事業も担当しています。

 道路事業は、欠壊した57号の復旧工事、落橋した325号阿蘇大橋の架替え、村道栃の木~立野線(長陽大橋ルート)の復旧工事、県道熊本高森線(俵山トンネルルート)の復旧工事を行っています。俵山トンネルルートについては、復旧工事が完了し、今年9月に全線開通しました。

危険斜面を無人化施工

 ――砂防事業(阿蘇大橋地区)の進捗などは?

無人化施工の様子(写真提供:(株)熊谷組)
無人化施工の様子(写真提供:(株)熊谷組)

 大榎 阿蘇大橋地区では、斜面長約700m、幅約200mにわたって斜面が崩壊し、約50万mの土砂が流出しました。この土砂流出により、JR豊肥本線、国道57号、325号、農業用水路などが寸断されました。

 発災直後は、斜面周辺に亀裂が発生し、崩壊土砂が斜面内に堆積している状態で、二次崩壊の危険がありました。斜面内への立ち入りが制限され、斜面内の詳細な地質調査が行えない状況下で、対策計画、施工に当たる必要がありました。その点で、崩壊現象を推定することが難しい状況のなかでの施工となり、一般的な斜面崩壊の現場と比べ、困難な工事でした。

 通常の人手による施工作業では危険をともなうため、遠隔操作による無人化施工(ネットワーク対応型)を実施しました。約1km離れた操作室から、高速の無線LANなどを介し、最大14台の重機を同時に遠隔操作しました。オペレーターがモニターを見ながら作業を行いましたが、操作のタイムラグや混線などもなく、スムーズな作業ができました。施工は、システムを開発した(株)熊谷組が担当しました。16年末には無人化施工を終え、現在その後の恒久対策を進めています。砂防事業については、19年度末に概成予定です。

さまざまな工夫で工期短縮

 ――阿蘇大橋の復旧のほうはどうでしょうか。

 大榎 地震によって落橋した阿蘇大橋は、黒川を渡河する橋で、トラス構造のアーチ橋でした。元の橋の下に断層が見つかったことなどから、架橋位置の選定については、技術検討委員会に諮り、上流部から下流部にかけて4つの案を比較検討しました。4案とも斜面、断層に対するリスクがありましたが、斜面に対するリスクが低く、迂回感が少ないルートであることなどから、現在建設中の位置である案が選ばれました。

 新たな阿蘇大橋は、もとの橋から約600m下流側に新たに橋を架けることになりました。全橋長は525mで、渡河部にはコンクリートのPC3径間連続ラーメン箱桁橋(橋長345m)を採用しています。橋梁形式の選定には、谷に橋脚を設置する形式の「PC3径間連続ラーメン箱桁橋」と「PC3径間連続エクストラドーズド橋」、谷に橋脚を設置しない形式の「鋼中路式アーチ橋」と「鋼ニールセンローゼ橋」の4案について比較検討が行われました。

 谷に橋脚を設置しない2案は、いずれもアプローチ部分に橋脚を設置する必要がありましたが、推定活断層と近接してしまうことから候補から外れました。残った谷に橋脚を設置する2案のうち、工期が短く、構造がシンプルで景観にもなじむ、PC3径間連続ラーメン箱桁橋が選定されました。

 進捗としては、アプローチ部(推定活断層交差部=鋼単純非合成箱桁橋、高架部=鋼3径間連続非合成鈑桁橋)はほぼ完了しており、渡河部の工事を進めているところです。20年度内の開通を目指し、24時間体制で工事を行っています。渡河部の発注に際しては、「いかに早く工事を完了させるか」を主眼にしました。公募各社からの技術提案を審査した結果、大成建設・IHIインフラ建設・八方建設地域維持型JVが受注し、施工を担当しています。

 渡河部は現在、3本ある橋脚のうち2本が完成し、河川内のPR2を立ち上げているところで、今年10月からは上部工にも着手しています。

24時間体制で復旧工事が進められている阿蘇大橋地区。手前が阿蘇大橋架橋現場、右奥が砂防事業の現場。2台のインクライン(黄色い台車)が稼働するのは、全国的にも珍しい。
24時間体制で復旧工事が進められている阿蘇大橋地区。手前が阿蘇大橋架橋現場、右奥が砂防事業の現場。2台のインクライン(黄色い台車)が稼働するのは、全国的にも珍しい。

 当現場では企業の技術提案などにより、工程の安定や短縮を図るためのさまざまな工夫を施しています。

 たとえば、資材などを効率的に運ぶために、60t積載可能なインクライン(※)を2基設置しています。橋梁工事のためにインクラインを設置するのは全国的にも珍しいです。下部工では、足場と型枠が一体化して動くセルフクライミング工法も採用しています。

 この工法であれば、足場や型枠の組み立て作業を減らすことができ、工程の短縮が可能となります。また、上部工の張出架設には超大型の移動台車を使用することで張出ブロック数を大幅に減少することができ、上部工の施工日数の短縮を図っています。

(つづく)
【大石 恭正】

※インクライン:傾斜面にレールを敷き、動力で台車を動かして貨物などを運ぶ装置

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